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「生き方」

採れたていちごに手作りタルトはいかが?就農2年目の仲良し夫婦が営むいちごのお店


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日置市東市来町長里の県道沿いに、まるで童話の世界からとびだしてきたような、いちごの形をした小さなお店があります。その名も「tubu-ichigo」(つぶいちご)。いちご農家の川畑直樹さんと妻の有紗さんが、二人で育てたいちごを余すところなく味わってもらおうと、自宅の庭先に開いたお店です。

採れたてのいちごはもちろん、有紗さんが作るいちごのタルトやスムージーも販売していて、あたりには甘い香りが漂っています。二人が農家になったのは2022年4月のこと。サラリーマンを辞めて農業をしたいという直樹さんの思いに有紗さんが共感し、いちご栽培に取り組むことになりました。農業の奥深さを感じながら、二人で作業する時間が楽しいという直樹さんと有紗さんに、お店のこれまでとこれからをうかがいました。

旬を迎えたtubu-ichigo

お店を訪ねると、駐車スペースにテントがあって、直樹さんがいちごのパックを販売していました。お店の向かいにあるハウスで摘みとったばかりのいちごです。

直樹さんがいちごのパックを販売していました。お店の向かいにあるハウスで摘みとったばかりのいちごです。
直樹さんがいちごのパックを販売していました。お店の向かいにあるハウスで摘みとったばかりのいちごです。
直樹さんがいちごのパックを販売していました。お店の向かいにあるハウスで摘みとったばかりのいちごです。

店内には、いちごをまるごと入れて焼き上げた焼きこみタルトをはじめ、チーズタルトやチョコレートタルトなど、いちごを使った様々なタルトが並んでいるほか、注文を受けてから作るいちごミルクやスムージーもあります。

いちごをまるごと入れて焼き上げた焼きこみタルトをはじめ、チーズタルトやチョコレートタルトなど、いちごを使った様々なタルトが並んでいるほか、注文を受けてから作るいちごミルクやスムージーもあります。
イチゴを使ったタルトが並ぶショーケースイチゴを使ったタルトが並ぶショーケース
生のいちごを使ったいちごミルクや冷凍いちごで作るスムージー 生のいちごを使ったいちごミルクや冷凍いちごで作るスムージー

有紗さんは、いちご農家になってから独学でタルトを作りはじめました。パックに詰めるにはサイズが合わなかったり、形がいまひとつだったりするいちごを無駄にしたくないという思いからでした。
「粒ぞろいのいちごがのったキラキラした感じのタルトはできないですけど、せっかく育てたいちごですし、おいしいいちごには変わりないので、余すことなく使い切りたいと思って、自分が大好きなタルトを作ることにしました。」
タルトはすべて、有紗さんがひとりで手作りしています。旬のこの時期は、お店が休みの日にも一日中仕込みをすることがあるそうです。

焼きあがったばかりのタルト焼きあがったばかりのタルト
種類が豊富です種類が豊富です

有紗さんは、地元の方々に愛されるお店でありたいと思っています。
「お店のオープン前から応援して下さった地元の方に、あそこに行けばおいしいいちごとお菓子があるよね、手土産にちょうどいいよねって言っていただけるような、そんなお店にしたいと思っています。」
お店には、手仕事の好きな有紗さんつくった雑貨も並んでいます。

お店には、手仕事の好きな有紗さんつくった雑貨も並んでいます。
いちごのアクセサリーもいちごのアクセサリーも

2022年12月のオープン以来、口コミやインスタグラムで評判が広がり、今では遠方からのお客さんも増えました。直樹さんにとっては、いちごの味をほめられるのが何よりの励みになっています。
「ここのいちごを食べたらほかのいちごは食べられなくなったっておっしゃって、わざわざ買いに来てくださるお客さんもいらっしゃいます。うれしいですよね。」
もともとはサラリーマンだった直樹さんが仕事を辞め、農家を目指してから5年。二人は様々な縁に導かれるようにしてこの地に根を下ろし、いちごの栽培を始めました。

赤くてかわいいいちごをつくろう!

直樹さんは、以前鹿児島の地元スーパーで青果物の担当として働いていました。
「お客さんに、しっかりとした野菜や果物の知識を伝えたいと思って、野菜ソムリエやフードコーディネーターの資格をとりました。ポップ(小さな立て札のようなもの)を作って情報発信するときも、信頼度があがってよかったです。この頃から、農業っておもしろそうだなと、興味を持ち始めました。」
その後、違う世界も見てみたいと転職。福岡で3年間、管理職として営業の仕事を経験しました。
「常にアンテナを高くして、先を見て、チャンスを逃さないようにそなえるなど、この時学んだことは、今農家としてやっていくうえでとても役立っています。」

川畑直樹さん川畑直樹さん

そんな直樹さんが、以前から興味のあった農業を始めようと思ったのは36歳のとき。妻の有紗さんは迷わず賛成しました。
「いつか生産者のほうにまわりたいという思いは知っていましたし、夫は一つのことを究めたり、突きつめて仕事をしたりするところが強みだと思っていましたから、やった方がいいって言いました。」

川畑有紗さん川畑有紗さん

作物は何を作ろうかと二人で話し合い、実がなるもの、なかでも赤くてかわいくて気持ちが明るくなるいちごにしようと決めました。当初は福岡で就農するつもりでしたが、見習いからとなると暮らしていくのが厳しいことがわかり、鹿児島に帰って農業を始めることにしました。

3年の修行、そして独立

帰郷した直樹さんは、ご自身の地元日置市の農林水産課に相談。紹介されたのは、東市来町で40年近くいちごを栽培し、若い担い手の育成にも力を入れている片平観光農園でした。働き始めたのは2018年12月、ちょうどいちご狩りのシーズンを目前にした時期でした。
「何が何だかわからないところからのスタートでした。はじめは、スーパーで接客をしていた経験をかわれて、いちご狩りに来られたお客さんの対応が中心でした。5月からは苗づくりが始まり、片平さんや20代の若い同僚から教えてもらいながら、一から学んでいきました。」
いつどんな作業をするのか、いちごにはどんな病気があるのか、わかったことや注意を受けたことなど、直樹さんは毎日すべてを手帳に書き留めました。
「この手帳は、自分の頭で考えて次に生かすためのもので、いいことも悪いことも全てメモしました。独立した今、とても役に立っています。」

直樹さんの3年分の手帳直樹さんの3年分の手帳

働き始めて3年、そろそろ独立をと考えた直樹さんは、自宅を建てる土地を探すことに。相談した不動産屋さんに紹介されたのが現在の場所でした。
「その土地が、日置市の農業委員会の会長さんで、いちご部会(日置市の伊集院町と東市来町のいちごの生産者で作る団体)の会員さんでもある方のハウスの目の前だったんです。私が新規就農でハウスを探していることを知った会長さんが、そのハウスを使うか?いつでもいいぞ、とご好意で声をかけてくださって、3棟のハウスを貸してもらえることになりました。」

現在のハウス現在のハウス

願ってもない土地に恵まれ、2022年4月、いちご農家として独立することができました。
とはいえ、何もかもがゼロからのスタート。苗を作り、土を作り、植え付けをして、病気にならないよう気を配りながら、いちごの需要が高まる12月までに実がつくよう育てなければなりません。それまでは収入がありませんから、直樹さんも有紗さんもそれぞれアルバイトをしながらの作業でした。この時期頼りになったのが、あの3年分の手帳だったと直樹さん。
「手帳をもとに、いろいろ考えながらやったら、ほとんど病気にもならずにいい苗が出来ました。実がなり始めたときにはうれしくて、赤くなるのを待っていたら、ハウスを貸してくれている会長さんから、はよちぎって出荷せんかといわれてしまいました。」

念願のいちごのお店をオープン

こうして、2022年12月、二人のいちごのお店tubu-ichigoがオープンしました。いちごの形の建物は、工務店に勤める直樹さんのいとこが、二人のアイデア通りに作ってくれたものです。最初のお客さんは、この地で農業を始めた二人を受け入れ、応援してくれた地元の方々でした。

オープンして間もないころのお店オープンして間もないころのお店

2年目の旬を迎えた今、お店には多くのお客さんが訪れるようになりました。要望の多かったいちごの発送を始めたほか、予約制でいちご狩りのお客さんも受け入れる予定です。直樹さんは、これから先のことも思い描いています。
「今作っているのはさがほのかだけなんですが、来シーズンに向けて、新しい品種のやよいひめと白いちごを導入するつもりです。ゆくゆくは、今の6アールのハウスを10アールにまで増やして、観光農園をやれたらと思っています。」

ハウスで作業する直樹さんと有紗さんハウスで作業する直樹さんと有紗さん

有紗さんは、いちご農家になってから農業の奥深さを実感しているといいます。
「いちごは季節を感じて生きてるんだなあと思います。彼岸花が咲いたらいちごの苗を定植する時期だっていわれてるんですけど、本当にそうなんです。いろいろな気づきが楽しくて、幸せです。」
ハウスで作業するときもおしゃべりが絶えず、仲睦まじい様子がとてもほほえましい直樹さんと有紗さん。近所の方にも冷やかされるというおふたりが、それぞれの得意なこと、やりたいことで力を出し合って、いちご農家として生きていこうとする姿がとても素敵でした。tubu-ichigo、一度訪ねてみませんか。

tubu-ichigo、一度訪ねてみませんか。

◆川畑農園・tubu-ichigo

日置市東市来町長里5135-2
営業日
いちごのシーズンは月・水・金・土・日 10:30~17:00
オフシーズンは    金・土・日
※いちごの発送やいちご狩りについてはインスタグラムtubu_ichigo でご確認ください

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