このところのささやかな楽しみは、バードウオッチングです。といっても、遠くの野山に出かけるわけではないのです。我が家にやってくる鳥や散歩で見かける鳥が思いがけず多様なことに驚いて、鳥の姿を見かけると、鳴き声に耳を澄ましたり、あれこれ調べたりするようになったのです。
家が立ち並ぶ団地に住んでいても、いろいろな野鳥に出会えることが、とてもしあわせです。暖かくうらうらとした日が増えてくるこの時期は、春を告げる鳥との出会いもあって、いっそう楽しみです。心を柔らかくしてくれる、身近な野鳥のお話です。
ウグイスは最初から歌がうまいわけじゃない!
年が明けたころから、ときおり庭先に「ジャッジャッ、ジャッジャッ」という地味な鳴き声の小鳥がやってきます。春告げ鳥の筆頭ともいえるウグイスです。警戒心が強くて一時もじっとしていないので、写真をとるのはとても難しかったのですが、家の中からカメラを構えてそっと様子をうかがっていたら、何とかその姿をとらえることができました。
「うぐいす餅」や「うぐいす色」から想像するよりは、だいぶ渋めの色合いです。
ウグイスといえば「ホーホケキョ」とばかり思っていましたが、このさえずりは春から夏にかけての繁殖シーズンのオスの鳴き声で、メスを呼んだり、なわばりを主張したりするときの声。それ以外の時期は、「地鳴き」と呼ばれる「ジャッジャッ」という声で鳴いているのだそうです。
立春を過ぎ、雨水を過ぎ、啓蟄を過ぎ…この頃になると、「ホーホケキョただ今練習中!」という感じのウグイスが、日の出から間もない早朝にやってきます。
ちょっとつたないウグイスのさえずり▷
なんとも頼りないさえずりですが、これから稽古を重ねてうまくなっていくのかと思うと、その調子その調子!と励ましの合いの手を入れたくなります。この三日後には、同じウグイスかどうかはわかりませんが、だいぶ上達したさえずりが聞こえてきました。
うまくなってきたウグイスのさえずり▷
ウグイスは、メスと出会い子孫を残すために美声を磨き、人間はその声に春の訪れと深まりを知る。風流といって聞きほれていてはウグイスに申し訳ない気がしますが、いつまでもそうやって春を迎えたいものです。人間にできることといえば、ウグイスが暮らす藪や林をなくしてしまわないことでしょうか。
春の日差しとともに降りそそぐヒバリのさえずり
2月半ばのお天気のいい日に、ウグイスにさきがけて春を教えてくれたのはヒバリでした。洗濯物を干していると、ふいに、ぴーちくぱーちくにぎやかな声が降ってきて、見上げれば高い空を忙しなく飛び回る鳥の姿が見えました。
あまりに高いところを飛んでいるので黒い点にしか見えないのですが、その声はまぎれもなくヒバリです。いつ息継ぎをしているのだろうと心配してしまうくらいに、それはもう熱心に、とてもまねのできない複雑な声色でさえずり続けています。
春先のヒバリのオスも、メスを呼ぶためにさえずっているのだとか。息もつかずに歌声を響かせて、メスの心をつかもうとしているのでしょう。ヒバリは、原っぱや麦畑などに巣を作って子育てをするのですが、最近では、そうした場所が開発によって減ってしまい、ヒバリの数も減ってきているのだそうです。人間には耳の痛い話です。
ヒバリの声がするということは、我が家のあたりでは、まだ子育てができているのでしょう。その姿は図鑑でしかお目にかかれていないので、いつか出会えるといいなと思っています。
長旅お疲れ様!春はツバメとともに
ツバメの飛ぶ姿がとても好きです。春になると、フィリピンやマレーシアなど南の国々からやってきます。今年初めてツバメを見たのは、2月の下旬のことでした。「キュイキュイ」という独特の鳴き声にはっとして見上げると、青空にのびやかに飛ぶツバメを発見!わぁ春が来たと、幸せな気持ちになりました。
毎年、ご近所さんの玄関先に巣をつくるので、春から夏にかけては、あたりを飛び回るツバメでにぎやかになります。
水田や耕作地がエサ場で、泥やわらで巣をつくるツバメ。農作物の害虫となるような虫をたべることから、人間の良きパートナーとして愛され、軒先に巣を作っても温かく見守られて共に暮らしてきたのでしょう。
住宅街のこの辺りで子育てできるのは、近くに田んぼがあるおかげかもしれません。その田んぼも、毎年すこしずつ宅地に変わってきています。いつか、ツバメの来ない春がきてしまうのでしょうか。
やんちゃだけど憎めないヒヨドリ
秋から春にかけて、毎日のように我が家にやってくるのがヒヨドリです。ピーッピーッと甲高い大声で鳴きながら、そこのけそこのけの勢いでモミジの枝にとまり、まわりの様子を確認してから、メダカとハスを育てている鉢で水浴びをはじめます。あまりに豪快で、なかのメダカが飛び出してしまわないかと心配するほどです。

水浴びが終わると、モミジの枝に戻って入念に羽づくろいをします。お腹がすけば、庭先の畑のブロッコリーの葉を食べたり、お隣のキンカンを失敬してきて食べたり、ヒヨドリ同士でけんかをしたかと思えばビオラの花をちぎってみたりと、もう狼藉三昧!
この様子では、農家の方にとってはかなり厄介な存在のはず。我が家も大歓迎!というわけではないのですが、そこは気楽な家庭菜園、日参してくるヒヨドリに愛着がわいてしまって、ついつい大目に見てしまいます。ぼさぼさ頭のワイルドないでたちですが、ときおり小首をかしげる姿はとてもかわいらしくて、見ていて飽きません。
秋から春先にかけては毎日のようにやってくるヒヨドリも、夏にはあまり見かけなくなります。山や林で子育てをするそうなので、夏の間はその周辺で餌を調達しているのかもしれません。やんちゃなヒヨドリも、ぱったり来なくなると寂しいものです。
ひょっとしてチョウゲンボウ⁉珍鳥現る!
買い物に出かけようと家の前の道路に出ると、電柱の上に見たことのない鳥が止まっています。一見ハトのようですが、もっとスマートで、隙のない鋭い雰囲気が、トンビやタカのような肉食の鳥を思わせます。その存在を警戒しているのか、ツバメが落ち着きなく飛び回っています。慌てて家からカメラを持ち出し、気取られないように物陰から撮影。うまくは撮れませんでしたが、調べてみると、チョウゲンボウのようです。
チョウゲンボウはハヤブサの仲間で、昆虫やネズミ、小鳥などを食べているそうです。もともとは崖に巣を作りますが、最近では市街地のビルや橋脚などに巣作りをするものもいるそうです。
繁殖が確認されているのは本州ですが、その姿は九州でもあちこちで目撃されているようです。偶然出会ったこのチョウゲンボウは、旅の途中だったのでしょうか、それともどこかで暮らしているのでしょうか。
いつもそばにいるスズメ
身近な野鳥といえば、なんといってもスズメです。夜が明けるのがだんだん早くなってくると、ぐんとにぎやかになって、その鳴き声が目覚ましになるくらいです。
ここ数年は、お向かいの屋根の瓦の下に巣を作って子育てをしているようで、今年もそのあたりにスズメがやってきます。よくよく見ていると、巣の材料になるような小枝などをくわえてきては瓦のなかに運び入れていて、そのあいだ、見晴らしのいい場所にとまったもう一羽のスズメが、あたりを警戒しています。つがいで協力して巣作りをしているようです。
スズメはとてもとても警戒心が強くて、家の中から隠れてカメラを向けても、狙いを定めたとたんに逃げてしまいます。稲穂を食べてしまうスズメは、長いあいだ人間から追い払われてきたのでしょうから、人の気配に敏感になっても仕方ないのかもしれません。
スズメに感づかれないようにできる限り離れて、ようやくとらえることができました。このまま何事もなく子育てできるといいなと思います。そばにいるのに案外知らないスズメのことを調べていたら、季節を表す七十二候のなかに「雀始巣(すずめはじめてすくう)」とあるのを知りました。今年は3月20日。ほぼその通りに巣作りが始まっていることに驚きます。
鳥たちとずっと一緒に
このほかにも、メジロ、ジョウビタキ、セキレイ、シジュウカラ、キジバト、カラスと、多くの鳥たちに出会いました。
みんな、大切な隣人だなと思います。みなさんの暮らすまちには、どんな鳥がやってきますか?
忙しい毎日ですが、お天気のいい日はすこしの時間、空を眺めてみたり、耳を澄ませてみたりしてみませんか?