鹿児島県ビジネスプランコンテストの昨年度の受賞者にお話をうかがうシリーズ。今回は高校生賞のご紹介です。
受賞したのは、いちき串木野市にある県立市来農芸高校。ここでは、地元をはじめ県内各地から集まった生徒たちが、農業や畜産、経営や加工などについて、実習しながら学んでいます。
校内にある「農芸市場」や地元の物産館などでは、自分たちで育てた野菜や苗もの、卵、豚みそやジャムなどの加工品を販売、生産者として消費者の生の声に触れる体験もしています。
そんな市来農芸高校で学んでいる2人の生徒が発表したビジネスプランは『「ツバキ」を使った産業振興プロジェクト』。
いったいどんなビジネスプランなのでしょう。
先輩にあこがれて
代表としてプランを発表した生徒さんにお会いしたいと、学校に連絡をとったのは夏休み。ひょっとしてだめかもと心配していたのですが、ちょうど校内の寮で合宿中だということで、お話を聞くことができました。
生物工学科3年の福滿陽菜さんと原田莉緒奈さんです。
動物が大好きで市来農芸高校に入ったという二人。入学後、農業を学ぶ全国の高校生が加盟する「農業クラブ(日本学校農業クラブ連盟)」の大会にむけて、研究に励み成果を発表する先輩たちの姿にあこがれ、「ツバキプロジェクト」の活動に加わりました。
福滿さんも原田さんも、人前に出るのは苦手でしたが、新しいことにチャレンジしたい、自分を変えたいとプロジェクト参加することにしました。
ツバキプロジェクトとは
鹿児島とツバキ。そこには深い関わりがあります。
1980年代、桜島にはいわば「防灰林」として多くのヤブツバキが植えられました。また鹿児島市内には、低木街路樹としておよそ10万本のカンツバキが植えられていて、剪定で出た葉や枝は廃棄処分されています。
実から油を採ることのできるヤブツバキと葉を捨てられるカンツバキ。そのどちらも有効活用できる道を提案したのが「ツバキプロジェクト」です。
特に力を入れたのが、カンツバキの葉の活用でした。
カンツバキ茶葉で鶏を育てる
市来農芸高校では、学習の一環として平飼いでニワトリを飼育、採れた卵は「放し飼いたまご」として販売、地元の人気商品となっています。
このニワトリに、カンツバキの葉で作った茶葉をエサとして与えてみることにしたのです。
このアイデアを思い付いたのは福滿さんでした。飲用の茶葉にはカテキンなどの有用成分が含まれているので、カンツバキの茶葉も、ニワトリに与えてみたら糞の臭いが減ったり、健康になったりするのではと考えたのです。
「初めは、大きめの茶葉を与えてみたのですが、あまり食べなかったので、細かく砕いて与えてみると、食べるようになりました。エサに混ぜる茶葉の割合を変えながら、ニワトリのエサの食べ方、糞の状態などを観察しました。」
ニワトリの行動観察は過酷なものでした。交代で1日8時間、一羽のニワトリだけを注視して、エサをどれくらい食べ、どんな糞をし、どんな動きをしたかを1分ごとに記録していくのです。
カンツバキの葉を茶葉にするのも、手作業でした。
「フライパンで炒って作ります。できあがるのに1時間くらいかかるんですけど、できる茶葉の量は少しなんです。暑くて大変でした。」と原田さん。
こうした地道な検証の結果、エサに混ぜるツバキ茶葉の割合は1%が一番効率がよく、結果として、ニワトリの夏バテが抑えられ、卵も一般のものより高たんぱく低カロリーでビタミンEの含有量も高く、さらには糞の臭いも軽減されることがわかったのです。
この卵は「市来農芸高校のつばきたまご」と命名。鶏卵公正取引協議会に加入して、栄養機能食品表示が可能な「栄養強化卵」として公正マークを取得することができました。
この「つばきたまご」は、校内の「農芸市場」で実際に販売しました。
「自分たちは研究に一生懸命で、販売に向けての値段などを考えるのは難しかったです。お客さんのなかには、こんないい卵をこんな安い値段で売ったらだめだよって言って下さる方もいて、勉強になりました。」と福滿さん。
高校生がコンテストに参加する良さ
「つばきたまご」の誕生は、剪定後のカンツバキの葉の有効活用を実現するための第1歩。
「ツバキプロジェクト」のなかには、カンツバキ茶葉をエサとして普及させるために欠かせない量産化にむけたアイデアや、関連商品開発のアイデアなどが盛り込まれています。
鹿児島の資源の有効活用と農業の振興を目指すビジネスプランは、農業高校に学ぶ二人ならではの視点が存分に生かされています。
指導した市来農芸高校の草水博己先生はこう話します。
「県のビジネスプランコンテストに参加して、自ら学ぶ姿勢が生まれましたし、地元をどう活性化していくかということを考えるいい機会になったと思います。プレゼンの場では、大人の起業家たちにまじって発表しますし、みなさんの話も聴けるわけですから、それだけで勉強になりますよ。」
起業家精神を学び、地元に残って鹿児島を盛り上げていく人材が育ってくれればと期待しています。
最期に、福滿さんと原田さんに将来の夢をうかがうと、二人とも進学して、福滿さんは肉用牛の改良に関わる研究を、原田さんは農場を経営したいと話してくれました。
高校生が大人と同じ土俵でビジネスを語れる場は、他県ではなかなかないと草水先生。
高校生のみなさん、「鹿児島をこうしたい!」「地元の課題をこう解決したい!」など、研究活動の実績はなくても、アイデアだけでかまいません。
鹿児島を熱くするビジネスプランを考えてみませんか?ご応募お待ちしています。