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「生き方」

エコストーブを暮らしに!達人黒葛裕紀さんが手にした豊かな時間


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エコストーブってご存知ですか?屋外で使うストーブなのですが、小枝や木切れ、新聞紙などを燃料に簡単に火をおこすことができて、暖かいのはもちろん煮炊きもできて、持ち運びもできる優れものです。しかも、不要になったペール缶や、ホームセンターでも手に入る材料で手作りできるというのですから驚きです。

日置市に住む黒葛裕紀さんは、試行錯誤しながらエコストーブを手作りして、長年愛用してきました。黒葛さんはエコストーブにとことんほれ込み、もっとたくさんの人に使ってほしいと、作り方や使い方を伝授する講座を開くまでになりました。エコストーブに出会って世界が広がったと話す黒葛さんに、その魅力をうかがいました。

これがエコストーブ

エコストーブってどんなものなのでしょう。黒葛さんのご自宅にうかがって、長年ご愛用の自作のエコストーブを見せていただきました。手前の煙突のようなものがたき口で、ペール缶2つを使って作られた本体の上の穴から炎が出てきます。ここに鍋などをのせると、煮炊きをすることができます。

エコストーブエコストーブ

 

ここがたき口ここがたき口

エコストーブの大きさは、高さがおよそ60センチ、直径がおよそ30センチで、重さは3~4キログラム、持ち上げてみると女性でも持ち運べる重さです。黒葛さんはスチール製の台の上にのせて使っています。さっそく火をつけるところを見せてくれました。

  1. たき口手前のふたを開けてたきつけとなる新聞紙を入れ、たき口の上からは木切れを4、 5本入れます。ひろった木の枝や松ぼっくり、割り箸や段ボールなど、身の回りのものが燃料になります。ただし、プラスチックやビニールはご法度です。
    たき口の上から木切れを入れますたき口の上から木切れを入れます
    黒葛さんは普段から木切れをストックしています黒葛さんは普段から木切れをストックしています
  2. たき口手前に入れた新聞紙に火をつけてから、ふたをします。

    火をつけて火をつけて
    ふたをしますふたをします

黒葛さんがたき口から何度か軽く息を吹き込むと、みるみる木切れに火が燃え移り、さらにいくつか木切れを足していくと、ものの3分ほどで本体上部から炎が見え始めました。ゴーッと低い音をたてながら勢いよく燃えています。あとは、様子を見ながら木切れを足せば、火の勢いを保つことができます。

よく燃えていますよく燃えています

ペール缶の切れ端で作った五徳をのせ、その上に鍋ややかんをのせれば煮炊きができるので、黒葛さんは普段の暮らしでも使っています。

「一升のお米が30分もあればおいしく炊き上がりますよ。火加減もいりません。いい匂いがしてきたら様子を見て、あとは蒸らせば大丈夫。実家の父はエコストーブで煮しめを炊いてますよ。僕もタケノコをゆでたりします。いい時間ですよ。」

エコストーブで煮しめを炊くお父さんエコストーブで煮しめを炊くお父さん

そうこうしているうちに、エコストーブの上のやかんが湯気を出し始めました。火をつけてから10分ほどしかたっていません。いったいどういう仕組みなのでしょう。黒葛さんに説明してもらいました。

「たき口で火を燃やすと、外から空気が引き込まれて、炎とともに本体(ペール缶でできた部分)に上昇していくという仕組みです。火力は500℃~600℃。松ぼっくりや油分の多い木を燃やすと少し煙が出ることもありますが、それ以外のものなら煙はほとんど出ません。完全燃焼するので、すごくきれいな灰ができるんです。1日燃やしても、出る灰は両手でひとすくいくらいです。もともとは、アメリカで考え出されたロケットストーブがもとになってるんですが、大型のロケットストーブと違ってエコストーブは持ち運びができるので、キャンプに持って行くこともできますし、災害の時にも活用できます。材料さえそろえれば、20分くらいで作れますよ。」

材料一式 ペール缶の真ん中を管が通ります材料一式 ペール缶の真ん中を管が通ります

 

ペール缶と管の間に、断熱材としてバーミキュライトかパーライト(園芸資材)を詰めます。(左がバーミキュライトで右がパーライト)ペール缶と管の間に、断熱材としてバーミキュライトかパーライト
(園芸資材)を詰めます。(左がバーミキュライトで右がパーライト)

黒葛さんのお話をうかがっていると、家にエコストーブが1台あればなんだか楽しそうです。それにしても、一からエコストーブを作った黒葛さんの技と熱意には驚かされます。そもそもどうして作ろうと思ったのでしょうか。そこには、1冊の本との出会いがありました。

1冊の本に背中を押されて

子どもの頃から何かを作るのが大好きだった黒葛さん、今はものづくりの会社で働くサラリーマンです。日々仕事に追われるなかで、ふと、定年まで働いたあとの自分を思い描いたとき、なんだかもやもやした気持ちがわいてきました。自分には何が残っているのかな、そう思ったのです。折も折、同僚が薦めてくれた1冊の本、それが『里山資本主義 日本経済は「安心の原理」で動く』(藻谷浩介・NHK広島取材班/角川新書)でした。この本の中で紹介されているエコストーブに、黒葛さんは心をつかまれました。

「これはすごいと思いました。ちょこちょこ集めた木で火がつけられて、煮炊きもできる。軽くて持ち運びもできる。ぼくは作ろうと思えばすぐに作れる環境にいるので、とにかく作って広めたいと思いました。」

黒葛さんは、ネットなどで作り方を調べてエコストーブ作りにとりかかりました。
「何度も改良を重ねて、ようやく今の作り方にたどりつきました。大事なのは、ペール缶でできた本体と焚き口との高低差なんです。本体の高さを高くすれば火力は上がるのですが、煮炊きをしたり暖をとったりするのにちょうどいい火力にするには絶妙なバランスが必要で、今の本体の高さ、これがベストだと分かったんです。」

黒葛さんのエコストーブを広める活動は、会社で開いたワークショップがはじまりでした。本を勧めてくれた同僚も協力してくれて、エコストーブの取扱説明書も作ってくれました。

会社でのワークショップの様子会社でのワークショップの様子

5年前からは、鹿児島市の環境未来館で年に1回のエコストーブ講座を開いているほか、地球について考えるアースデイのイベントなどでも紹介してきました。

イベントでの様子イベントでの様子

エコストーブづくりに欠かせない使用済のペール缶を集めたり、そのペール缶にのこっているオイルを洗ったりと、準備は本業が終わってから。手間も時間もかかりますが、黒葛さんは苦にならないといいます。

「大変と思ってないんです。みなさんに喜んでもらえることの方が大きいです。たくさんの人に作り方を教えて、自分で作れる人にはどんどん作って広めていってもらいたいです。」
これまで作ったエコストーブは300台以上。黒葛さんは、エコストーブの力は偉大だったと話します。

「いい出会いをたくさんもらいました。自分にできることで現状を変えていこう、地域に貢献しようと志を持って頑張っている人たちとつながることができて、世界が広がりました。エコストーブは、人とのつながり、ご縁を増やしてくれる、ぼくにとっての原点になりました。」

エコストーブを広める活動の拠点として、2015年に仲間と一緒に始めた「tsuzulab(ツヅラボ)」では、大好きなものづくりの技をいかして、オーダーメイドのスチール製品も手掛けています。

「働くって何のためかっていったら、人生を豊かにするためだと思うんです。仕事は楽しく遊びはまじめに!楽しみつつ自分のできることをやっていけたらと思ってます。」

エコストーブと黒葛裕紀さんエコストーブと黒葛裕紀さん

 

黒葛さんがボルトやナットなどで作った猫の置物黒葛さんがボルトやナットなどで作った猫の置物

定年後の夢ができた

エコストーブを通じたたくさんの出会いによって、黒葛さんは次の世代に少しでもいい世の中をのこしたいと思うようになりました。砂浜の清掃活動に参加したり、土に還らないものは選ばないようにしたりと、以前の自分とは大きく変わったといいます。

「受け身だった今までとは違って、やってみよう、調べてみよう、会いに行ってみようと、どんどん自分から動くようになって、自分で考えて判断するようになりました。休日は興味のある人に会いに出かけることも多くて、忙しいですけど楽しいです。」

そんな黒葛さんには、定年後の夢があります。生まれ育った南九州市知覧の実家の、山や畑を耕すことです。

「実家の山や畑で、野菜を育てたり果樹園を作ったりしたいと思っています。そういうところをのこしていきたいんです。今はそのための準備の時間だと思っています。同じ方向を向いて頑張ってる人たちとやり取りしながらいろいろなことを勉強中です。大人が楽しく仕事をしていたら、子どもたちも夢を持てるんじゃないかな。」

エコストーブをきっかけに、自分がわくわくするような生き方を見つけた黒葛さん。気負わず飄々としていて、なにより楽しそうでした。ご自宅のガレージ兼工房は秘密基地のようで、ここからまた何か新しい活動が生まれるのではと、今後が楽しみになりました。

なお、黒葛さんは、毎年11月の「オーガニックフェスタ」でエコストーブのワークショップを開催していて、参加費は6500円です。その他イベントがある場合は、tsuzulab(ツヅラボ)のフェイスブックかインスタグラムで告知されますので、興味のある方はこちらでご確認ください。また、エコストーブの製作販売についても、相談に応じて下さるそうです。

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