ショートムービー「気づかなくてごめんね」は、難聴者の聴こえを支援する活動を続けているNPO法人日本ユニバーサル・サウンドデザイン協会が製作しました。
協会の理事長を務めている中石真一路さんについては、これまで「てのん」の記事でもご紹介してきました。
中石さんといえば、音声を難聴者の方々に聴こえやすい音に変換して届ける画期的な対話支援機器「コミューン」の発明者でもあります。
難聴者と認知症の誤認問題
中石さんは、広島大学宇宙再生医療センターの研究員でもあり、複数の大学や医療機関と共同で「脳と聴覚」の研究にも携わっています。
その過程で、難聴者の方が、認知症と間違われて、誤解されているケースがとても多いことが分かってきました。
このような「聴こえ」に対する理解不足から、急増している高齢の難聴の人たちが、認知症と誤認され、医療機関や介護施設などで「聴こえ」のハラスメントを受けていることに強い危機感を抱いていました。
中石さんが理事長を務めるNPO法人日本ユニバーサル・サウンドデザイン協会では、このような社会課題を解決するため、昨年「ヒアリング・ハラスメントゼロ推進委員会」を発足させました。
難聴の方々が、コミュニケーションの場から置きざりにされない、孤立させない「ヒアリング・ハラスメントゼロ社会」の実現を目指すものです。そのプロジェクトの一環として、ショートムービーが製作されたのです。
それってヒアハラかも!と思うことから始めよう…
でも、ヒアリング・ハラスメントってどんなことを言うんでしょうか?
中石さんは「普段、私たちが何気なくやっていることが、無自覚のヒアハラだというということを一人ひとりに気がついてほしい。」と呼びかけています。
ヒアリング・ハラスメントとは…
NPO法人日本ユニバーサル・サウンドデザイン協会
ホームページより
- 高齢者に対して大きな声で対応している
- どうせ聞こえないと決めつける
- 筒状のような対話支援器具を使う
- 耳元で大きな声で話をする
- 話をしているのにしっかり聞こうとしない
- 聞こえないと勝手に相手の認知機能を過少評価する
- 機器を活用すれば改善が期待できる状態なのに機器を活用しない など
ヒアハラ自己チェックリスト
(チェックしてみよう!)
□ 聞こえにくい人にはゆっくり大きな声で話せば大丈夫である
□ 聞こえにくい人と気付いても、相手の方を向いて話をしないことが多い
□ 聞こえにくい人の前でも感染症予防のため絶対マスクをとるべきではない
□ 聞こえにくい患者と話ができない場合は家族と話をしている
□ 筆談とかは面倒だから、聞こえにくい場合でもしないことが多い
□ 支援機器があっても面倒なので使わない
□ 聞こえない本人が補聴器をつけるべきだと思う
□ 聞こえにくいことの改善を求められても対策がわからないので対応していない
※ あてはまる項目が3つ以上の方はヒアハラ加害者となる可能性が高くなります。
みなさんいかがでしたか?
私も耳が遠くなった高齢の方と会話するとき、大きな声になってしまったり、介護に関するご相談ごとを聴く相談員の仕事をしていた時には、難聴でない方の聴き取りを優先させてしまっている自分がいました。
これらの行為が、難聴の方にとってのヒアハラなんだと改めて気づかされました。
ショートムービー「気づかなくてごめんね」が
伝えていること
ショートムービーは7分23秒。俳優の石倉三郎さん主演、犬童一利監督が、2016年公開「つむぐもの」以来のタッグを組み、作品化されました。
難聴になった夫が家族や周囲から認知症と誤認され孤立していく姿、聴こえの支援機器「コミューン」によって聴こえる喜びと笑顔を取り戻していく姿が夫婦のものがたりとして描かれています。
YouTube
みなさん、どうお感じになりましたか?
難聴と認知症の関連については、注目すべき調査研究の結果も発表されました。福岡大学医学部神経内科学教授で福岡市認知症疾患医療センター長、副病院長の坪井義夫先生の調査研究によると、認知症や軽度認知症と診断された71歳以上の高齢者27人にコミューンを使って再検査した結果、21人で検査結果が向上したのです。
これは、調査対象者の77.8%に当たり、中には点数が6点以上増えた人もいました。軽度認知症の疑いがあると診断された2人は正常との結果が出ました。
認知機能検査をする上で、きちんと聴こえているのかを確認した上で実施していくことの大切さを改めて認識させられる結果となりました。
聴こえる側で聴こえにくいを理解できる社会へ
NPO法人日本ユニバーサル・サウンドデザイン協会では、「聴こえのバリアフリー社会」の実現を目指して、各地で「聴こえのセミナー」を開催しています。
ショートムービー「気づかなくてごめんね」は、聴こえないことを諦めない、聴こえない人たちを社会から孤立させないことを優しく語りかけています。
あなたのまわりの身近な家族や知り合いで、難聴に悩んでいる方はいませんか?
その方が、コミュニケーションの場に入れず寂しい思いをしていませんか?
あなたが認知症と思っていらっしゃる方は、もしかしたら聴こえていないだけかもしれませんよ。そんな問いかけを、聴こえる側の私たちが暮らしの中でしていくことが、社会の中のヒアハラをなくして「聴こえのバリアフリー」が進んでいくちいさな一歩になるのだろうと思いました。