「生き方」

大好きなサワーポメロの香りを届けたくて 高校生、起業しました!

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サワーポメロは鹿児島特産のかんきつで、さわやかな香りと酸味が魅力です。その産地として有名ないちき串木野市に、サワーポメロの果皮から手作業で精油を抽出し、様々なアロマ商品に加工して販売している会社があります。この会社を営んでいるのは、4月に高校3年生になる久木田紫絵留(しえる)さん。昨年1月に起業しました。

サワーポメロの精油を使ったルームスプレーは人気商品で、いちき串木野市のふるさと納税の返礼品にもなっています。どんなふうに香るのか、精油ってどうやって抽出するのか、なにより、久木田さんってどんな方なのか、ずっと気になっていました。予約をすれば、ルームスプレーづくりを体験できると知って、思い切ってお邪魔することにしました。学校がお休みだった久木田さんにもお会いできて、これまでのこと、これからのこと、うかがってきました。

まるでラボ!精油はこうして生まれる

訪ねたのは久木田紫絵留さんのご自宅に設けられた一室。ここが久木田さんの会社です。

訪ねたのは久木田紫絵留さんのご自宅に設けられた一室。ここが久木田さんの会社です。

サロンのような心地よい雰囲気のなかで、サワーポメロの精油の香りをかがせてもらいました。皮をむいたばかりのような、サワーポメロそのものの香りで驚きました。
精油の抽出もここで行われていて、蒸留器やアルコールランプが並ぶ一角はラボのようです。抽出作業を担っているのは、もちろん久木田さん。サワーポメロから精油を採る工程をわかりやすく説明してくれました。

蒸留器を前に説明する久木田さん蒸留器を前に説明する久木田さん

「精油を採るための方法はいくつかあるんですが、私は水蒸気蒸留法で抽出しています。まず、蒸留器の釜の部分にサワーポメロの果皮と水を入れて火にかけます。しばらくすると、精油の成分を含んだ蒸気が出ます。それが冷やされて出てきた水分を、フィルターを使ってろ過します。こうして、フィルターに残ったものが精油です。サワーポメロなどのかんきつ類には、圧搾法という方法を使うのが一般的なんですが、これには大掛かりな設備が必要ですし、不純物も混ざりやすいので、水蒸気蒸留法で抽出しています。」
わかりやすいように、作業の様子を再現していただきました。

  1. 右の釜にサワーポメロの皮と水を入れてアルコールランプで熱します
    右の釜にサワーポメロの皮と水を入れてアルコールランプで熱します
  2. 冷やされた水蒸気が水分となって出てきます
    冷やされた水蒸気が水分となって出てきます
  3. フィルターに精油が残るのでスポイトで採集、ビーカーには精油成分を若干含んだフローラルウォーターが出てきます
    フィルターに精油が残るのでスポイトで採集、ビーカーには精油成分を若干含んだフローラルウォーターが出てきます

蒸留には火加減が大切で、つきっきりで見守らなければならないそうです。時には火の番をしながら英単語を覚えることもあるとか。サワーポメロ5個分の果皮から採れる精油は、わずか1.5ミリリットルだというのですから、気が遠くなります。

1.5ミリリットルの精油を抽出するのに、5個のサワーポメロが必要1.5ミリリットルの精油を抽出するのに、5個のサワーポメロが必要

学業のかたわら、久木田さんはこの作業をひとりでこなしています。いまでこそ、こうして精油を採ることができるようになりましたが、ここに至るまでには試行錯誤の連続でした。久木田さんは、なぜそこまでしてサワーポメロの精油の抽出にチャレンジしたのでしょう。そのおはなしは、また後ほどゆっくり…。まずは、香りに目覚めたきっかけを教えてもらいました。

物語の世界にあこがれて

久木田さんは小学校3年のとき、ある本に出会いました。あんびるやすこさんの作品「魔法の庭ものがたり」シリーズ(ポプラ社)です。
「ハーブ屋さんの女の子が主人公で、ハーブがたくさん生えている庭が出てきます。主人公の女の子が庭のハーブを調合して、その香りでまわりのひとや動物たちを助けるおはなしなんです。植物でひとを助けられるっていうことが新鮮でした。文章も絵も素敵で、主人公にあこがれました。自分もやってみたいって思いました。」

久木田さんが大切にしている「魔法の庭ものがたり」シリーズの一部久木田さんが大切にしている「魔法の庭ものがたり」シリーズの一部

巻末には、ハーブを使ったものづくりのレシピが掲載されていて、それを実際にやってみるのも楽しみでした。

「とっ散らかして、母にびっくりされながらやってました。ハーブについて書かれた本を自分で買って、いろいろ調べたりもしていました。ずっと、蒸留器がほしいって母にお願いしていました。」

久木田さんの「蒸留器が欲しい!」という気持ちはつのるばかり。あまりの熱心さにほだされたお母さんがついに蒸留器を買ってくれたのは、久木田さんが4年生のときでした。さっそく、夏休みの自由研究で精油の抽出に取り組みました。

「庭で育てているゼラニウムやローズマリー、ペパーミント、ドクダミもやってみました。拾ってきた杉や松の木など、とにかく何でも抽出してみました。でも、ぜんぜん精油が採れないんです。蒸留しているときは香りがするんですけど、精油として残らない、量が採れなんです。精油を採るには、材料がたくさん必要なことがわかりました。」

自由研究に取り組む久木田さん お父さんがお手伝い自由研究に取り組む久木田さん お父さんがお手伝い

自分で精油の抽出をしてみたことで、ハーブや香りのことについて、もっと本格的に学びたいと思うようになりました。そんな久木田さんに、アロマに関する検定があることをお母さんが教えてくれました。

「自分で学ぶスタイルが性に合っていたので、独学で勉強して、小学校5年のときにアロマテラピー検定1級の資格を取りました。資格を取ったからには、もっと上を目指そうと思って、6年生の終わりにはアロマテラピーアドバイザーという、人に教えることもできる資格を取りました。小学生は時間がいっぱいあるので、小学生のうちにとっておいてよかったです。」

愛読する物語の世界へのあこがれから、アロマの知識を深めることになった久木田さん。中学生になって、その知識を役立てられるのではと思う体験をしました。

大好物のサワーポメロのために

幼い頃からサワーポメロが大好きで、お母さんにむいてもらうとかたっぱしから平らげていたという久木田さん。中学2年のときに摘果体験でサワーポメロの農家へでかけ、作業を手伝いました。摘果というのは、果実がまだ小さいうちに、適度に実を摘み取って間引きする作業で、残った果実を大きく育てるために欠かせない作業です。久木田さんは、この摘果作業を手伝うなかで、気づいたことがありました。

「摘果は、農家さんにとってはとても大切な作業で、必要なことです。でも、摘み取られた果実も、とてもいい香りがしたんです。摘果したものは捨ててしまうので、私の持っている知識や蒸留器で、なにか商品にできたらなと思いました。」

摘果したサワーポメロの果実摘果したサワーポメロの果実

農家の方に、摘果したサワーポメロの実を分けてもらい、精油を抽出してみました。ところが、精油はほとんど採れませんでした。久木田さんはやり方を変えながら、何度も何度も蒸留を繰り返しました。

「果皮の刻み方を、みじん切りにしてみたり千切りにしてみたり、収穫の時期の違うサワーポメロも試してみました。100回くらい試して、やっと、いちばん精油の量が出る方法を見つけることができました。」

精油の抽出は、8月中旬から9月中旬までの摘果した果実と、12月下旬から2月下旬までの収穫期の果実で行うのがいいとわかりました。処分するしかなかった摘果後の果実と、収穫したものの規格に合わないなどの理由で出荷できなかった果実を使うことで、サワーポメロを無駄なくいかすことができる方法でもありました。久木田さんはこのサワーポメロの精油を使って、ルームスプレーを作ってみました。

現在のルームスプレー現在のルームスプレー

当時、久木田さんのお母さんがイベントでオリジナルブレンドティーやアクセサリーを販売していたことから、ルームスプレーをいっしょに並べてもらったところ、いちき串木野市の職員の方の目に留まり、ふるさと納税の返礼品に選ばれることになりました。久木田さんが中学3年の終わりごろのことでした。

高校生だって起業できる!

久木田さんは、鹿児島県立鶴丸高等学校に進学し、勉強や部活動に励みながら、サワーポメロの精油の抽出とルームスプレーづくりを続けました。そして高校1年の9月に、人生の新しい扉を開く出会いがありました。若くして起業した先輩が、学校行事でクラスに講演にやってきたのです。

「鹿児島市で数学カフェの店長をしていらっしゃる上野康弘さんが講演にいらっしゃって、そのなかで、“若さはハンディではなくて武器だよ”とおっしゃったんです。これまでの自分の概念を覆されました。起業なんて考えていなかったんですが、その道もあるなと思いました。質問の時間に、商品はあるんですけど起業するには何が必要ですかとたずねて、アドバイスをいただきました。」

後日、講師の上野さんは、クラス全員に葉書を寄せてくれたそうですが、久木田さんの葉書には「ルームスプレーをお店におかせてください。」と書かれていました。その言葉に、久木田さんの心は決まりました。

「上野先生のところに家族総出で出かけて、起業についてご相談しました。個人事業主ではなく会社として地元に納税したくて、合同会社を設立することにしました。父や母の力を借りながら、書類作りも自分でやりました。」

会社設立の書類会社設立の書類

こうして2021年1月1日、久木田さんは高校1年で起業を果たしました。会社の名前は「Le Ciel Fusée」(ルシエルフュゼ)。“Ciel”(シエル)はフランス語で空。紫絵留さんの名前の由来でもあります。“Fusée”は(フュゼ)はロケット。たくさんの人の知恵や努力に支えられて空高く飛んでいくロケット。自分の会社もそうありたいとの願いを込めました。

会社も勉強も、夢にむかって

会社がスタートして1年余り。精油の抽出はもちろん、営業や商談に出向いたり講座を開いたりと奔走してきた久木田さん。その甲斐あって、サワーポメロのルームスプレーは、売り切れることもある人気商品になりました。サワーポメロが香る「バウム」も作りました。原料のサワーポメロは、摘果したり出荷できなかったりしたものを、農家から買い取って使っています。「地元がよくなるいい循環」をつくりたいからです。

今年のお正月明けから2月下旬にかけてのシーズンには500ミリリットルの精油を採ることができました。今後に向けた新たな企画も考えていて、さらに売り込みを図りたいところですが、来年受験を控える久木田さん。しばらくは学業を優先して、仕事はスタッフのお母さんにがんばってもらうことにしています。

「大学で勉強して公認心理師の資格を取りたいと思っています。県外の大学を目指しているので、私が県外で営業活動をして、いちき串木野でスタッフの母に製造と配送をしてもらう、そんなスタイルもありかなと思っています。」

取材を終えて…ルームスプレーづくりを体験しました

おしゃべりに夢中になって、すっかり後回しになってしまったルームスプレーづくり体験。久木田さんのアドバイスを受けながら、サワーポメロの精油とフローラル系の精油をブレンドして、華やかな香りのルームスプレーが出来上がりました。

サワーポメロの精油とフローラル系の精油をブレンドして、華やかな香りのルームスプレーが出来上がりました。

体験には、Le Ciel Fuséeオリジナルのブレンドティーもセットになっていて、おいしくいただきました。オリジナルのブレンドティーは、紅茶に造詣の深いお母さんの政子さんの知識がいかされていて、会社のもう一つの人気商品です。サワーポメロをはじめ様々なフレーバーがあって、そのなかには、久木田さんが高校の友人と一緒に開発した商品もあるそうです。「友だちがイラストを描いてくれて、ネーミングも考えてくれたんですよ!」とうれしそうに話してくれました。

その名も「るっtea(ルッティ―)」その名も「るっtea(ルッティ―)」

久木田さんは入学当初から「ルッティ―」と呼ばれており、愛称が商品名になりま
した

気負いがなくて、好きなこと、やりたいことにまっすぐな久木田さん。ついつい応援したくなるような方でした。これからもいろいろなことを吸収して、新しい世の中を作っていく一人になるのだろうなと頼もしく思いました。成長がとても楽しみです。

久木田紫絵留さんと、お母さんの政子さん久木田紫絵留さんと、お母さんの政子さん

Le Ciel Fusée(ルシエルフュゼ)

TEL:0996-33-3988
公式ホームページ:www5.synapse.ne.jp/leciel/
インスタグラム:leciel.b2cafe
サワーポメロのルームスプレーなどの商品は、公式ホームページのほか、以下で入手することができます。

いちき串木野市のふるさと納税

いちき串木野市:Fukiagehama Field Hotel(吹上浜フィールドホテル)
鹿児島市名山町:数学カフェ
鹿児島市大明丘:Café Barそら
ルームフレグランスづくりは完全予約制で、体験料は1700円(オリジナルブレンドティー付)電話でご予約ください。

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