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「生き方」

活弁って面白い!活弁と生演奏で楽しむ活弁シネマライブを堪能!


先日「てのん」で、鹿児島で初めて、活弁士によるシネマライブが開催されることをご紹介しました。ステージに立つのは、今最も活躍する活弁士のひとり、佐々木亜希子さんです。佐々木さんに、その魅力を聞かせいただいて、これは「生カツベン」を体感しなくっちゃ!ということで、行ってきました。あっという間の2時間。プロフェッショナルな語りと音楽で、無声映画に新しい命が吹き込まれ、思わず引き込まれちゃいました。活弁シネマライブの世界、覗いてみませんか?

活弁士・佐々木亜希子さんと楽士・永田雅代さんに初対面!

活弁とは、無声映画にライブでセリフや情景描写をつける日本独特の話芸です。まだフイルムに音が無く、映画が活動写真と呼ばれていた時代、日本の映画館では、スクリーンの横に必ず、活動写真弁士(映画説明者)がいて、人々は、映画と共に、活弁士の語りや楽士の生演奏を楽しんでいたそうです。鹿児島で初めての活弁シネマライブが開かれるということで、先日、活弁士の佐々木さんと楽士の永田さんにお話を伺いました。お電話での取材だったのですが、おふたりからは、溢れる「カツベン愛」が伝わってきて、これは是非行かねば!と思ったのです。

鹿児島初!活弁士によるシネマライブが開催されます!
鹿児島初!活弁士によるシネマライブが開催されます!「活弁」ってご存じですか?私もこの取材をするまで、こんな世界があることを知りませんでした。無声映画にセリフや情景描写を加えて楽しむエンタ...

鹿児島公演が行われたのは、11月15日(鹿児島市)と11月16日(鹿屋市)の
2日間。私は、初日の鹿児島市の公演にお邪魔しました。本番前の楽屋で、活弁士の佐々木さんと楽士の永田さんにお会いすることできました。活弁士と、それに合わせて生演奏を奏でる楽士は、車の両輪のような存在です。先日の取材で、おふたりの抜群の相性の良さを感じていましたが、楽屋でも、顔を見合わせては終始にこにこ顔。今から始まるライブにワクワクしているようでした。

活弁士の佐々木亜希子(右)さんと楽士の永田雅代さん(左)活弁士の佐々木亜希子(右)さんと楽士の永田雅代さん(左)

ふたりは、コンビを組んでもう19年になるそうで、どんなジャンルの映画にも対応できる技術と豊かな感性を互いにリスペクトしています。鹿屋市出身の永田さんにとっては、久しぶりの故郷鹿児島での、嬉しい里帰り公演となりました。

約100名の観客が集まりました約100名の観客が集まりました

活弁シネマライブ、「始まり、始まり~」

この日、集まったのは、およそ100名。ほとんどが、活弁を聴くのは初めてという人たちでした。まずは、佐々木さんのご挨拶から…

フリーアナウンサーとしてのキャリアを持つ佐々木さんですが、ステージに立った瞬間から活弁士の顔に!グッと引き込まれていきます。無声映画全盛期(大正から昭和初期)には、全国に8000人ほどいたという職業弁士も、発声映画の出現で激減し、今では、プロの活弁士は15人ほどしかいないそうです。そのひとり、佐々木さんは、日本独特の話芸文化である「活弁」をもっと多くの人に知ってもらい、その伝統を継承しながら、現代の新しいエンターテインメントとしても根付かせていきたいと、これまで全国各地で上映会を開催してきました。

活弁士として活躍する佐々木亜希子さん活弁士として活躍する佐々木亜希子さん

そのキャリアは21年。柔らかな物腰の中に、活弁士としての誇りと気概を感じました。

これが活弁シネマライブだ!

最初に上映されたのが、短編喜劇「チャップリンの消防夫」(1916年・23分)です。

「チャップリンの消防夫」が上映「チャップリンの消防夫」が上映

これはチャップリンが27歳の若かりし頃に、監督・脚本・主演を務めたサイレント映画です。新米消防士のチャップリンが隊員たちと繰り広げるドタバタは、笑いあり、アクションありで、チャップリンの世界感をたっぷりと堪能できる痛快コメディです。七色の声を持つと言われる佐々木さんの声は、まさに変幻自在です。

自ら書いた原稿を片手に、テンポある語りが続きます。その語りに、永田さんの演奏が波長を合わせます。

音を聞いているだけで、映画の中の映像が見えてくるようです。語りも音楽もおふたりのオリジナル、ここぞという絶妙のタイミングで入るセリフと音楽は、まさに神業。観客の笑いを誘います。映画の中にどんどん入り込んでいくような臨場感があり、100年以上前のチャップリンの作品が、より生き生きと蘇ってきました。少しだけ、その雰囲気を感じてみて下さい。

幕間のおしゃべり

続いて、小津安二郎監督による長編映画「生れてはみたけれど」(1932年・91分)が上映されますが、幕間のおしゃべりでは、活弁のことや映画の見どころなどが紹介されました。
小津安二郎監督による長編映画「生れてはみたけれど」(1932年・91分)が上映されますが、幕間のおしゃべりでは、活弁のことや映画の見どころなどが紹介されました。
まだ娯楽が少なく、無声映画が全盛期だった時代には、映画が上映される活動写真館や集会所には多くの人たちが集まり、幕間には、おせんべいやキャンディが売られ、人気の活弁士の語りと生演奏つきの映画を賑やかに楽しむものだったそうです。

活動写真時代に思いを馳せながら…活動写真時代に思いを馳せながら…

名作「大人の見る絵本 生れてはみたけれど」を活弁で…

昭和7年に公開された「生れてはみたけれど」は、小津安二郎監督のサイレント映画を代表する傑作で、サラリーマン社会の悲哀が子どもの視点から描かれています。
「生れてはみたけれど」は、小津安二郎監督のサイレント映画を代表する傑作で、サラリーマン社会の悲哀が子どもの視点から描かれています。
佐々木さんは、「楽しくて、でもどこか切ない、ジンとくる作品です。大人の縦社会は、現代にも通じる普遍的なテーマですし、当時の東京の風景や人々の暮らしも見えてくる、とてもステキな作品です。」と話しました。
映画が始まると、会場は一気に、昭和初期の時代にタイムスリップ。モノクロの映像に名口上とほのぼのとした音楽が相まって、昭和の古き良き時代が蘇ってきました。

物語は、郊外に念願のマイホームを建てた吉井さん一家のおはなしで、1930年代のサラリーマン階級の日常が描かれています。子どもたち同士の喧嘩も厳格な父親と息子とのやりとりも、どこか微笑ましく、ほっこりとしてきます。そんな吉井さんの家に大きな出来事が…「おとうちゃんは、1番えらい」と思っていたふたりの息子が、上司の前で、ペコペコしてご機嫌をとり、媚びを売っている父親の姿を見て、猛反発。学校にも行かず、食事もとらず、ストライキを起こします。家族のことを思い、出世を目指して頑張ってきたお父さんは、子どもの抗議行動を窘めつつも、子どものストレートな怒りが、心に突き刺さります。それでも、最後は、お母さんが握ってくれたおにぎりを父子で食べて、いつもの日常が戻ってきます。間合いや沈黙までもが、父子の心情を物語っているようで、温かさと切なさが、じんわり心に染みてきました。

活弁士は、すべてのセリフや詞を自分で考え、どう語るのかを決め、至極の言葉を紡ぎ出します。楽士もまた、それに呼応する音を創り出し、絶妙なタイミングで奏でます。おふたりのライブを観ていて、改めて作品への深い理解と解釈が必要な世界だと感じました。ふたりの共演作品は150作にも及ぶと言いますから、その経験の積み重ねにも驚かされます。ライブが始まって2時間あまり。休みなく出ずっぱりのおふたりの姿は、映画の演出家のようにも、アーティストのようにも、巧の職人さんのようにも見えてきて、圧巻のステージでした。

公演後には、観客のみなさんたちと和やかに写真撮影も…公演後には、観客のみなさんたちと和やかに写真撮影も…

活弁シネマライブを体験して… 期待値以上の満足感!

カツベンを体感したみなさんに、感想を聞いてみました。

  • 【60代女性】
    「(聴くのは)生まれて初めてでした。(活弁士の)あの方は幾通りの声が出るんだろうって…凄いですよね。最後は、ホロッときて、感動しました。」
  • 【大正ロマンを思わせる着物を着た20代女性】
    「レトロなものが好きで、落語みたいなのかなぁと思って来てみましたが、それとはまた全然違って、新鮮でした。」
  • 【70代男性】
    「最後は、なぜか、泣いてしまいました。『カツベン』を自分もやってみたくなりました。(笑)」
  • 宮崎県から来た女性】
    「あの世界観は、入り込みますよね。当時の時代背景なんかも見えてきて、面白かったです。」
  • 【70代男性】
    「昔、町内の公会堂か何かで上映していたのを思い出しました。こんな感じだったなぁと思って、懐かしかったです。」
  • 【70代女性】
    「来てよかった。最高でした。ひとりで3つも4つも声を使い分けて、活弁ってすごいですね。今度は、もっといっぱい連れてきたいです。」

カツベンは古くて新しいエンターテインメント♪
鹿児島公演を行った佐々木さんと永田さん
訪れた人たちの、満足度は期待値以上。佐々木さんや永田さんに、「この面白さは、体験してみなきゃ分からない。」と言われたことを思い出し、その訳が分かった気がしました。日本では、古くから「浄瑠璃」や「歌舞伎」「落語」「琵琶語り」など多彩な語り物文化が根付いてきました。カツベンもそのひとつ。個性あふれる話芸と音楽のライブで、無声映画が、ひと味もふた味も違ったものに見えてくる、やっぱりカツベンって面白い!また行ってみたいと思いました。

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