2月が終わる頃まで、鹿児島ではスーパーマーケットや道の駅で丸ごと一本干した大根がちょくちょく並んでいます。ご家庭で寒干し大根のお漬物を作る方が多いんですね。唐辛子を入れてピリ辛にしたり、昆布やゴマを入れて風味を出したりと、それぞれに家庭の味があって、漬物好きの私はいろんなおうちの味を食べ比べるのが楽しみでもあります。そこで今回、キムチも梅酢も何でも手づくりして振舞うのが大好きな肝っ玉かあさんのレシピで寒干し大根のお漬物を作ってみました。
買ってしまったからには、作らなきゃ!
「寒干し大根、入荷しました!」1月下旬のとある日、スーパーマーケットで1本干しの大根が並んでいるのを見つけました。
寒干し大根のお漬物をつくるシーズンだなぁ~と足を止め、しばらく悩みましたが、「今年は自分でつくってみたら」と背中を押されているような気になって、思わず買ってしまいました。この時期にまとめてつくっておくと、保存がきいて、翌年のシーズンまで食べられるので、ごはんのお供やお茶請け、お弁当の添え物としても大活躍します。
以前は美味しいなぁと思ったら、レシピを教えてもらって作ったりしていましたが、ここ数年は忙しさにかまけて、すっかりご無沙汰していました。買ったからには作らなきゃ!そこで、思い出したのが数年前に従妹からおすそ分けしてもらった寒干し大根のはりはり漬けでした。甘めの味つけで、お箸が止まらないくらい美味しくて、食べすぎて胃がまくじる(鹿児島弁で胸焼けするという意味です)んじゃないかと思うほどでした。
どこのどなたが作ったものなのか知らなかったのですが、従妹に尋ねたら、その方が、手づくりの保存食をいつも大量に作っては、みなさんに振舞うのが大好きなお母さんだと知りました。従妹曰く「70代の1男3女の肝っ玉かあさん!手づくりの保存食と一緒に、たくさんの愛をいただきました!」とのこと。入荷した寒干し大根とタイミングよく出会ったのをご縁に、今年は手づくりで愛を届ける肝っ玉母さんのレシピで寒干し大根のお漬物をつくってみることにしました。
ちょっと寄り道、寒干し大根のこと…
寒干し大根といって思い出すのが、あの巨大な大根やぐらの光景です。収穫した田んぼや畑の後に、竹でビラミッド型の3画形のやぐらを組んで、そこに大根がズラリと干してある光景は圧巻、鹿児島の冬の風物詩です。
(写真提供:水溜食品)
寒干し大根のことをもっと知りたくて、鹿児島の老舗漬物メーカー、水溜食品の水溜政典社長にお尋ねしたところ、大根やぐらのお写真をたくさん撮っていらっしゃるとのことで、送って下さいました。
水溜社長によると…
「12月の上旬から2月にかけてが、寒干し大根のシーズンですよ。寒干し大根の産地は、鹿児島では、頴娃町、知覧町、錦江町宿利原地区、宮崎でも田野町、清武町など限られた地域だけです。大根やぐらは、南九州の一部の地域でしか見られない貴重な光景なんですよ。」
水溜さんは、シーズンになると、週3回、朝6時に工場のある金峰町を出発して、契約農家の寒干し大根の出来を見て回り、仕入れています。3ヶ月間で900トン弱もの寒干し大根を漬けこむんだそうです。産地を訪ねて「風情がいいなぁ、感じがいいなぁ」と思った風景を写真に収めてきました。
(写真提供:水溜食品)
冬の冷たくて乾燥した西風にさらして天日干しすることで水分が抜けて、旨みと甘みの乗ったあの美味しい寒干し大根が出来るんだそうですが、鹿児島の産地は理想的な条件が揃っていると水溜さんは話します。
「頴娃町、知覧町の産地は、黒潮の暖流の一部が屋久島、種子島から東シナ海へと流れてきて、滅多に氷点下3度以下には、ならないんです。だから凍結防止のストーブを焚いたり、霜よけシートをかぶせたりしなくても(作物に深刻なダメージを与える)黒霜がほとんど発生しないんです。まさに無霜地帯の海岸線の恩恵です。」
(写真提供:水溜食品)
天日と寒風、それに生産者の方々のご努力があって、あの旨みがギュッと詰まった寒干し大根ができるんですね。
(写真提供:水溜食品)
干す期間はおよそ1週間から10日間。大根の表面にきれいな細かいシワシワが入ってくると美味しい寒干し大根に仕上がってきたサイン。そのほとんどが契約した漬物屋さんのところに出荷され、たくあんなどの漬物に加工されています。こうして出荷されるメーカー用の寒干し大根の一部が、家庭用としてスーパーなどに出回っているんですね。
では、はりはり漬けつくります!つくり方は至ってシンプル!
一本干しの寒干し大根は、スーパーにいつも並んでいる訳ではないので、出会えてラッキーでした。私は2キロぐらい作りたいと思いましたので、6本購入しました。ちゃんとシワシワが入った立派な寒干し大根でしたよ。
肝っ玉お母さんのレシピで作る寒干しはりはり漬け、2キロ分の材料です。
材料
寒干し大根のはりはり漬け(寒干し大根2キロ分の分量)
- 寒干し大根 2㎏
- 調味液A
- 酒 1カップ(200㏄)
- 砂糖 800g
- 薄口しょうゆ 2カップ(400㏄)
- 濃口しょうゆ 2カップ(400㏄)
- 酢 2カップ(400㏄)
みりん 少々
すりゴマ(多め)
出し昆布(きざみ昆布)多め
作り方
- 干し大根を切る
寒干し大根のお漬物で1番大変なのが、この作業でしょう。切れ味の良い包丁を準備しましよう。これで随分、作業が楽になって時短になります!大根をさっと水洗いして、厚さ2~3ミリ程度に輪切りにしていきます。やや斜めに切っていくと、形も整うし、味もしみ込みやすくなるそうですよ。厚くなったり薄くなったりしてしまいましたが、ここはご愛敬。ひたすら切りました。肝っ玉お母さんからの伝言「大根を切るのが大変なので、手を切らないように気をつけて下さいね。」2キロでこれくらいになりました。
切り終わったら、もう半分は出来たようなものです。 - 分量の調味液を準備します
上記の調味液A(①~⑤)を準備し、刻み昆布は水でもどして適当な長さにカットしておきます。
- きざみ昆布とすりゴマは、先に大根に混ぜ合わせておく
風味づけのきざみ昆布とすりゴマは、やや多めに準備しました。肝っ玉お母さんからの伝言「昆布とゴマは、大根に先に入れて、混ぜ合わせておくとやりやすいですよ。」
- 調味液Aを鍋に入れて沸騰させます
調味液A(①~⑤)を鍋に入れ、火にかけて、砂糖を煮溶かしながら混ぜ合わせ、沸騰させます。
途中、みりんをお好みで入れて味を整えます。宮崎在住のお母さんのレシピは、甘くて濃いめの味つけです。保存も効いてとても美味しいですが、薄味がお好みの方は、お砂糖やお醤油の量を加減して調整して下さいね。
- 調味液が熱いうちに大根にかける
熱いうちに大根にかけます。肝っ玉お母さんからの伝言「ヤケドなさらないように気をつけて下さいね。」
- 保存容器に入れて、時々混ぜ合わせる
熱湯消毒した保存容器に入れて、味をしみ込ませます。2キロでこれだけ出来ました!
肝っ玉お母さんからの伝言「味が馴染むように、時々混ぜ合わせて下さいね。
1週間ほどで美味しいはりはり漬けが完成しますよ。」
1週間ほど経って、お母さんのレシピで今年のうちの寒干し大根のお漬物が出来ました。数年前にいただいた時の味とどこか微妙に違うような気もしましたが、味が染みていて、南九州独特の甘くてしっかりめ味つけに、どこか懐かしさを覚えました。結構な量つくったので、これからごはんのお供や箸休め、お酒のおつまみにと大活躍しそうです。
寒干し大根のお漬物は、故郷の味
親戚のうちを訪ねたら、よくお茶菓子と一緒に、手づくりの寒干し大根のお漬物が出てくるものでした。お接待に手づくりを持参される方や、おすそ分けを持って来て下さる方もいて、鹿児島では、すっかり暮らしの中に溶け込んでいるお漬物です。一本干しの寒干し大根が出回るシーズンもあと少し、今年もこの時期しかつくれない台所仕事に精を出した方々がたくさんいらっしゃったことでしょうね。どれもあたたかい家庭の味がして、寒干し大根のお漬物はやっぱり私にとって冬の手づくり保存食のイチオシだな!