西郷隆盛の「敬天愛人」の心を今に伝える 山城洋一さんのおはなし


執筆:

西郷さんの終焉の地、城山のふもとにある珈琲店「二官橋珈琲院」の主(あるじ)、山城洋一さん、65歳。西郷南洲に惚れ込み、西郷さんが伝えたかった思想哲学を多くの人に広めるため、心血を注いでいます。

南洲哲学研究会を主宰する山城洋一さん
南洲哲学研究会を主宰する山城洋一さん

山城さんは、「私は、歴史家でも小説家でも大学教授でもありません。

ましてや子孫でもありません。でも、今こそ西郷さんの『敬天愛人』の心が活かされるべきと、誰よりも強く思っているひとりです」と語ります。

山城さんの心を動かしてやまない西郷さんの思想哲学とは…

きっかけは息子からのひとこと

13年前のことです。

当時高校1年生だった息子さんが「お父さん『敬天愛人』って何ね?」と尋ねたのです。

えーっ?知らないのか!驚きでした。さらに、小中学校でも、西郷さんや『敬天愛人』について学ぶ機会がほとんどないことも知りました。

山城さんは、それまで西郷さんの『敬天愛人』は鹿児島県人にとっては常識であり、心豊かに生きていく「道しるべ」のようなものだと思ってきました。

でも、いつの間にか、見たことも、聞いたこともない人たちが増えていることに、愕然としたのです。

それから西郷さんに関連する資料や文献を本気になって読み始めました。そして、60歳を過ぎた時、「西郷さんの伝えたかった心」を多くの人に伝えることが自分の使命だと感じ、これからの人生、これに賭けようと決意したのです。

「西郷さんのことを調べれば調べるほど、その教えの美しさに心が震えました。これまで感じたことのない感覚でした。明治維新の立役者、偉人として取り上げられることが多い西郷さんですが、詩人、書家、教師、哲学者としての西郷さんもすごい。その人間力に、もっと目が向けられるべきだと思いました。」

このカフェは西郷さんの心を伝える学舎

山城さんは3年前に、城山の麓に念願だったカフェ「二官橋珈琲院」を開きました。西郷さん終焉の地の近くです。

カフェは西郷さんのことを語り、学び合う集いの場でもあります!
カフェは西郷さんのことを語り、学び合う集いの場でもあります!

そして、たった一人で南洲哲学研究会を立ち上げ、ここで西郷さんの教えを一緒に学ぶ仲間を増やしてきました。

カフェ周辺は西郷さんゆかりの地や鶴丸城などがあり、薩摩の歴史と文化の香りが漂う場所。

歴史好きの常連さんがフラっと立ち寄ったり、山城さんのことを聞いて、わざわざ訪ねてくる観光客の人も少なくありません。

山城さんのことを聞いて訪ねてきた大阪と和歌山からの観光客
山城さんのことを聞いて訪ねてきた大阪と和歌山からの観光客

「知らない西郷さんの話、いっぱい聞かせてもらって大満足でした。楽しかったです!」

敬天愛人とは?

山城さんは、何度も読み込まれた「西郷南洲翁遺訓」を見せて下さいました。
山城さんは、何度も読み込まれた「西郷南洲翁遺訓」を見せて下さいました。
これは、戊辰戦争で幕府の親藩として西郷さんたち新政府軍と戦った旧庄内藩士たちが、明治に入り、西郷さんを慕って鹿児島を訪れた時に、西郷さんから得た学びをまとめたものです。

かつては敵方だった西郷さんと旧庄内藩士たちとの親交は「徳の交わり」と言われ、後に旧庄内藩士たちの熱意によって「西郷南洲翁遺訓」として編纂されたのです。西郷南洲の教えを伝える記録です。

カフェでも「西郷南洲翁遺訓」談議…
カフェでも「西郷南洲翁遺訓」談議…

「明治3年に、76名の旧庄内藩士たちが山形から2ヶ月かけて歩いて西郷さんを慕ってやって来ているんです。『西郷先生、人の道を教えて下さい』という庄内藩士たちの熱い思いですよね。その時『敬天愛人』とは何ですか?と尋ねている。その答えがここに書かれているんです。私は、これを何度も読み、敬天愛人の神髄、その意味を理解するのに何年もかかりました。みなさんは、どう解釈されますか?」

「西郷南洲翁遺訓」に記された敬天愛人の心

旧庄内藩士からの、「敬天愛人」とは?の問いに、西郷さんはこう答えています。

道は天地自然の物にして、人はこれを行うものなれば、天を敬するを目的とす。
天は人も我も同一に愛し給うゆえ、我を愛する心を持って、人を愛する也。
(遺訓二十四条)
人を相手にせず、天を相手にせよ。天を相手にして、己を尽くし人を咎めず、
我が誠の足らざるを尋ぬべし。
(遺訓二十五条)

南洲哲学研究会 主催 山城洋一さん
南洲哲学研究会 主催 山城洋一さん

「深いですよね。みなさん何度も声に出して読んでみて下さい。細かくは申しません。

ただ人の道とは、天地自然の法則に沿って、天を尊重するところから生まれる。そこには人の目や人からの評価、私利私欲、自己保身といったものはありません。

天の意志に従って生きる姿勢と覚悟こそが大事ということです。

自分の損得や人への恨みや憎しみ、嫉妬といった情念で動くのではなく、自分のまごころ(真・善・美)に従って歩むということです。

私はそこに美しさを感じます。これを実践するのはとても難しいことだけれど、今の時代に一番欠けていて、今の時代に一番必要なことだと感じています。

私も出来ているかというと、出来ていない。だからこそ、そういう生き方に向かって、少しでも近づきたいと思って、日々生きることが大切だと思うんです。」

西郷さんの心を多くの人に届けるために

山城さんは、この『敬天愛人』の心を現代に活かそうと、昨年から「西郷南洲偉人祭」を開催しています。今年は、命日の9月24日に開催しました。

西郷さんの思いを今に伝えたいという山城さんに共感した仲間たちと共に作りあげた偉人祭でした。

「第二回 西郷南洲偉人祭」(今年9月24日) 今年も多くの仲間の協力で実現しました!
「第二回 西郷南洲偉人祭」(今年9月24日)
今年も多くの仲間の協力で実現しました!

山城さんは、壇上に立つと、西郷さんが自分の中に、ワーッと入ってきたような感覚になり、言葉が溢れ出てくると言います。

西郷南洲偉人祭で講演する山城さん(今年9月24日)
西郷南洲偉人祭で講演する山城さん
(今年9月24日)

「西郷さんに代わって喋っているような気持ちになるんです。(笑)西郷さんは明治になって、中央政府から離れ、下野して鹿児島に帰って来ます。

その時、士族たちのための私学校を創っているんですね。鹿児島市内には本校と6つの分校があったんですが、そのすべてに『敬天愛人』の書を掲げているんです。

西郷さんは、人としての道を、若い人たちに伝え、そのための教育をしたかったんだと思うんです。

でも、皮肉なことに、その私学校が反政府勢力とされ、西南戦争が起こってしまいます。さぞや、無念だったと思います。」
52歳で西郷さんに目覚めてから、山城さんは「それ以来、私は一日も、西郷さんを休んだことはありません。」と笑います。

私は一西郷ファンに過ぎないと語りますが、その姿は、ライフワークを超えて、自らの生きる使命に目覚めた気概すら感じます。

52歳から「西郷さん休みなし」の私です!
52歳から「西郷さん休みなし」の私です!

大きな夢に向かて…

お店に小さな募金箱が置かれていました。山城さんのこれからの夢、〇〇私学校構想を呼び掛ける募金でした。

〇〇私学校構想を呼び掛ける店内の募金箱
〇〇私学校構想を呼び掛ける店内の募金箱

「来年5月1日、元号が変わって新しい時代が幕をあけるでしょ。その時に、〇〇に新しい元号の名を入れて、西郷さんの精神を受け継ぐ、私なりの私学校を創りたいと考えているんです。

西郷さんが目指した「世のため、人のため、真に役立つ人材の育成」を引き継ぐ「生き方塾」の開校です。小学部、中学部、青年部とつくって、ここを教室にして、南洲が言っていた「天下の善士」を育成するんです。

ここから、かつての薩摩のように新しい時代を切り開いていく若者たちが巣立っていくことが私のこれからの夢です。」

9月には西郷さんに関するこれまでの研究をまとめた自著本も出版しました。

本は「二官橋珈琲院」で販売されています。(一冊800円)
本は「二官橋珈琲院」で販売されています。
(一冊800円)

この日、かつて「徳の交わり」で結んだ旧庄内(山形県)から、山城さんの珈琲店にお客さんが来ていました。

山城さんの偉人祭に合わせて山形から駆け付けた 廣嶋育子さん
山城さんの偉人祭に合わせて山形から駆け付けた
廣嶋育子さん

「この女性は、去年私の偉人祭に、山形から一人で来て下さったのですよ。西郷さんに惚れ込んで、私のことを聞いて、夜行バスを乗り継いで、わざわざ会いに来てくれたんです。

今年は、庄内の先輩方も連れてこられました。今も、西郷さんの教えが、色々な人たちの心を打ち、人と人を繋いでくれていることを肌で感じます。何よりも嬉しいです。」

西郷さんの命日に合わせて、山形県(旧庄内)から鹿児島を訪れたみなさん
西郷さんの命日に合わせて、
山形県から鹿児島を訪れたみなさん

西郷さんが亡くなって141年。歴史的功績を超えて、今も西郷さんを慕い、その生き方に惹かれる人たちが少なくありません。

西郷さんが生きた激動の時代と、先の見えない混とんとした今の時代が重なり、何を「自らの真」として生きていけばよいのか、皆が普遍的な答えを探しているのかもしれません。

西郷さんに魅せられた人、それぞれが「与えられた命の使い方」を真剣に考えておられるように感じられました。

【南洲哲学研究会のお問い合わせ先】
珈琲店「二官橋珈琲院」
営業時間: 7:00〜19:00
TEL: 090-1972-3800

この記事が気に入ったら
いいね ! してね

投稿者: てのん記者