世界中で鹿児島県喜界島にしか自生していない『ヒメタツナミソウ』。絶滅が危惧されているとして喜界町では町指定天然記念物に指定して、保護活動や町の人への意識啓発を進めていますが、今年も開花の時期を迎え、4月に可憐な花を咲かせました。町民の方からの連絡で新たな自生地が見つかるなど、地道な保護活動が町に浸透し始めています。
世界中で喜界島にしか自生していない『ヒメタツナミソウ』
こちらが『ヒメタツナミソウ』です。
隆起サンゴ礁の岩場や湿った草地に生育する多年草で、シソ科。
葉の長さは約5~9mmで、茎の先端に複数の花が集団で咲きます。花びらは白色または淡い紫色で、例年3月末~4月中旬頃に開花します。(11月~1月にかけても開花することが確認されていますが、この時期の開花数は多くありません。)
『ヒメタツナミソウ』は、環境省の指定する絶滅危惧1B類(近い将来における野生での絶滅の危険性が高いもの)になっており、2年前に喜界町では「ヒメタツナミソウとその自生地」を喜界町指定文化財(天然記念物)に指定しています。
『ヒメタツナミソウ』を守り伝えていくための喜界町の取り組みなどについては昨年12月に「てのん」の中でご紹介しました。
今年のヒメタツナミソウの開花は?
このヒメタツナミソウを、ここ数年観察し続けている喜界町教育委員会の文化財保護チームの松原信之さんに今年の開花の様子を伺いました。
松原さん「今年は4月3日頃からちらほら咲き始め、ピークが4月10日~18日頃でした。
今年は、開花が1~2週間ほど遅く、ピーク期間も短かったような気がします。また、全体の花の数も例年に比べて少なく、今年は、パッと咲いてパッと終わった感じです。」
今年4月11日の喜界島百之台の自生地の様子です。
花の大きさは10~12mmほどで、小さくて白い可憐な花です。
一つの花の開花日数は平均して2日~4日ほど。
1年のうちたった数日しか咲かない貴重な花の姿です。
今年は全体的に花の数が少なかったようですが、どのような原因が考えられるのでしょうか?
松原さん「原因は正直なところ分かりませんが、今年は例年に比べて2月・3月に寒い時期が続いたりしたことが原因かもしれません。開花前まで、寒さ・暖かさが安定していなかったような気がします。
気温や降水量、接近した台風の数などいろいろな要因が考えられるので、これからも関連などを調べていきたいと思います。」
現在『ヒメタツナミソウ』の自生地は、集落の方や土地管理者の方によって大切に、適切に管理されているそうです。
松原さんたちが観察を始めたころは、しゃがみこんで何かをジッと見つめている様子を不審に思い、声をかけてくれる方も多かったそうですが、3~4年と観察を続けているうちに「自生地を見つけたよ」「ヒメタツナミソウっぽいけど見に来てほしい」など連絡をもらえるようになったそうです。そして、この1年の間に町民の方からの連絡で新たな自生地が3か所見つかり、把握している自生地は15か所から18か所に増えました。
松原さん「たくさんの方々の協力をいただき、ヒメタツナミソウの情報を集められることができ、本当に感謝しています。これまでは町民の方でもヒメタツナミソウが貴重な植物だと知らない方も多かったのですが、保護活動や意識啓発などの取り組みを通して、だんだんと守り伝えていこうという意識が町に広がっていることを実感しています。」
今年3月観察記録報告書が完成
松原さんたちは今年3月末、平成31年4月から約3年間にわたって行った観察の記録を報告書にまとめました。
喜界町内では、図書館や小・中・高校、自生地のある集落や土地管理者の方などに配布され、鹿児島県立図書館や、県立博物館、鹿児島大学などにも配布されました。
また、報告書ができたことを機会に、再度、自生地の集落で説明会を行い、ヒメタツナミソウを大切に守っていくためにできることなどを説明していく予定です。
松原さん「ヒメタツナミソウは、小さくてかわいらしい、本当に喜界島らしい植物だと思っています。人の生活圏に近い場所に生育しているため、守るためにはこの植物の独自性やその周辺環境を皆様に知ってもらう必要があります。この観察報告書がきっかけで、町民の皆さんがご親戚の来島時や観光に来られた方を案内できるようになることや、大学や研究機関などで保護のための研究の一助につながればと願っています。
また、学校教育などにも取り入れてもらい、子供たちの自慢の植物・自慢の島になればと思っています。」
報告書では、3年間におよぶ丹念な観察と周辺の環境調査の結果が詳しく報告されています。また、文献や聞き取り調査の結果、現在では白い花が主流ですが、約50年前は淡紫色が主流であったことや、その当時はそれほど珍しい植物ではなかったことがわかったそうです。
貴重な植物と認知されて来なかったことで、この50年の間に、造成工事や除草剤の散布などでその数が激減したといえます。
松原さん「今後は保護を進めるためのさらなる調査・研究を推進することや、継続的な保護活動を積み上げていく必要があります。自然を壊すことは1日でできますが、戻すことはできません。」
喜界島にそっと咲く、世界で唯一の花
松原さん「ヒメタツナミソウは、この島からなくなると、地球上からなくなる植物です。
この島に来ないと見ることができない、さらには開花期間も短いというハードルの高さも魅力の一つだと思っています。
保護と活用は両立できない面が少なからずあることは承知していますが、知ってもらう事が守ることにつながるシステムを皆さんと共に作り上げたいです。
『みんなに知ってもらい、みんなで守る』が目標です。」
喜界島は、父が教師として赴任していた時、単身赴任の父に会いに1度だけ私も訪れたことがあります。
サトウキビ畑が広がる風景や、百之台から眺めるサンゴ礁の海の美しさが脳裏に焼きついています。
記事に掲載されているヒメタツナミソウの写真は、すべて松原さんたちが撮ったもので私は現地に足を運んでいません。
しかし、写真で見るその姿に惹かれ、実際咲いている姿を見てみたいなあと思いました。
ヒメタツナミソウのほかにも様々な貴重な自然や歴史の残る喜界島。
いつか開花の時期に合わせて訪れたいと思います。