「生き方」

喜界島だけにしか自生しない『ヒメタツナミソウ』を守り伝えていくために・・


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鹿児島県喜界島には、島にしか自生していない『ヒメタツナミソウ』という可憐な植物があります。しかし、最近、造成工事や除草剤の散布などでその数が激減し、絶滅が危惧されています。そこで、喜界町では、町指定天然記念物に指定して、保護活動や町の人への意識啓発を進めています。『ヒメタツナミひめものがたり』という絵本も作られました。

喜界島だけにしか自生しない『ヒメタツナミソウ』

『ヒメタツナミソウ』 ~喜界町 滝川~ 『ヒメタツナミソウ』
~喜界町 滝川~

こちらが『ヒメタツナミソウ』です。
隆起サンゴ礁の岩場や湿った草地に生育する多年草で、シソ科。
葉の長さは約5~9㎜で、茎の先端に複数の花が集団で咲きます。
花びらは白色または淡い紫色で、4月~5月頃に開花します。
喜界島の滝川、長嶺、伊実久など15か所で自生が確認されており、特に淡い紫色をした『ヒメタツナミソウ』は、現在のところ伊実久と百之台の一部にしか残っていません。

『ヒメタツナミソウ』 ~喜界町 伊実久~『ヒメタツナミソウ』
~喜界町 伊実久~

この『ヒメタツナミソウ』は、環境省の指定する絶滅危惧1B類(近い将来における野生での絶滅の危険性が高いもの)になっており、昨年6月に喜界町では「ヒメタツナミソウとその自生地」を喜界町指定文化財(天然記念物)に指定しています。

喜界島にこのような貴重で可憐な植物があることを、ちょうど『ヒメタツナミソウ』が開花の時期を迎える今年3月頃に喜界島の知人から教えていただいていたのですが、「記事にしたい!」と思いつつそのままになっていました。そこで、今回、保護活動などに取り組んでいる喜界町教育委員会の文化財保護チームの松原信之さんにお話を伺い『ヒメタツナミソウ』を守り伝えていくための活動やお気持ちをお聞きしました。

喜界町教育委員会 松原 信之さん喜界町教育委員会
松原 信之さん

松原さん「『ヒメタツナミソウ』の絶滅が危惧されているという事で、どうしたら守れるのか?をまず考えたんです。そこで、とりあえず、ひたすら観察していこう、そこが出発点なんじゃないかという事で、平成31年4月から3年間の計画で観察し続けてきました。」

松原さんたちは、3年の間、町民の方の力を借りながら喜界島をくまなく観察して回り、島内の15か所で『ヒメタツナミソウ』が自生していることを確認しました。

ヒメタツナミソウを観察する松原さんヒメタツナミソウを観察する松原さん
ヒメタツナミソウを観察する松原さん

そして、それぞれの自生地で丁寧に観察し、花が咲く期間や成長期、減退期などの『ヒメタツナミソウ』の1年の成長の様子を把握しました。
また、つぼみから開花まで2~3週間程度かかることや開花日数は2~5日と短いこと、タネは1つのサヤに最大で4粒取れることなど花と種の特徴も細かく記録してきました。

『ヒメタツナミソウ』~喜界町 滝川~『ヒメタツナミソウ』
~喜界町 滝川~

こうして丁寧に観察している間にいろいろなことがわかってきたそうです。
松原さん「『ヒメタツナミソウ』は、人の手が適度に入る場所に自生しているんです。周りの雑草が伸びると『ヒメタツナミソウ』は個体が減少していく傾向にあり、雑草に完全に覆われると個体は消滅してしまいます。しかし、定期的な草刈りが行われることにより周りの雑草も適度に刈られ、『ヒメタツナミソウ』は生き延びることが出来ます。しかも、『ヒメタツナミソウ』はシソ科の植物で意外としぶといんです。草刈りで刈られても根っこさえ残っていれば、また何度でも芽を出すんです。」

『ヒメタツナミソウ』~喜界町 百之台~『ヒメタツナミソウ』
~喜界町 百之台~

つまり、調査観察を続けたことで

  1. 意識・無意識にかかわらず、集落や人々とのつながりによって守られてきた植物で、適度な草刈りが必要。
  2. 自生地減少の大きな要因として、造成工事や除草剤、管理しなくなった敷地などがあげられ、そういう事が要因で簡単に消滅してしまう植物でありながら、草刈りで刈られても根さえ残っていれば何度でも芽を出す生命力あふれる植物であること。
    などがわかったそうです。

絵本『ヒメタツナミひめものがたり』を作成

では、この貴重な植物を守り伝えていくためにはどうしたらよいのか?松原さんたちは、こんな取り組みも行いました。
昨年『ヒメタツナミひめものがたり』という子供向けの絵本も作成したのです。

これがその絵本です。

絵本『ヒメタツナミひめものがたり』絵本『ヒメタツナミひめものがたり』

絵本『ヒメタツナミひめものがたり』
絵本『ヒメタツナミひめものがたり』

ヒメタツナミソウに住んでいる「ヒメタツナミひめ」と一人の男の子のお話。
たくさんの仲間ができるように、毎日、ヒメタツナミソウのためにいろんな仕事をしている「ヒメタツナミひめ」でしたが、このままでは将来絶滅してしまうと聞いてとても悲しくなります。そこに一人の男の子が来て、まわりの草をとったり、たくさんの人に協力をおねがいしたりして、「ヒメタツナミひめ」を一生懸命応援します。

たくさんの人に協力をおねがいしたりして、「ヒメタツナミひめ」を一生懸命応援します。
たくさんの人に協力をおねがいしたりして、「ヒメタツナミひめ」を一生懸命応援します。

この絵本は、絵と文章は当時中央公民館の職員だった照屋真澄さんが担当し、写真と説明は松原さんが担当しました。
そして1000部印刷され、島内の小中学校や観光施設などで配布されました。

松原さん「次の世代に伝えていくために子供達にわかりやすく教えたいという気持ちです。
子供に渡ることで、その保護者の方や学校の先生たちも読むことにつながるし、子供から大人まで多くの人に『ヒメタツナミソウ』を知ってもらうきっかけになると思ったんです。」

次の世代に伝えていくために子供達にわかりやすく教えたいという気持ちです。

また、松原さんはこうも話されました。「生えていることを公表すると、盗掘などが心配され、そのために隠す保護というのもありますが、『ヒメタツナミソウ』は知ってもらわないと守れない植物なんです。公表してこの植物を知ってもらうことが『ヒメタツナミソウ』を守る第一歩だと思っています。」

喜界島の島民の方たちでも、このような貴重な植物があることを知っていない方が多く、松原さんたちは自生地の集落で説明会なども開き、大切に守っていくためにできることなどを話してきたそうです。

ヒメタツナミソウ観察報告会で発表する松原さん(今年3月)ヒメタツナミソウ観察報告会で発表する松原さん(今年3月)

こうした松原さんたちの地道な活動のおかげもあり、最近では、島民の方たちも意識して保護活動を行うようになってきたそうです。

絵本の最後にヒメタツナミソウを守るためにできることが書いてあります。

  • 自生地周辺では絶対に除草剤を使わない。
  • ヒメタツナミソウに覆いかぶさっている雑草は刈る。ただし、周りの草を刈りすぎてもだめ。できれば手刈りで。熊手は根を引っ張ってしまう恐れがあるので、できれば使わずに。根さえ残っていれば、元気にまた成長します。
  • どんなにかわいくても、持ち帰らない。自生していることが大切なことなのです。
絵本の最後にヒメタツナミソウを守るためにできることが書いてあります。

松原さん「『ヒメタツナミソウ』は、島の人たちと共に生き続けてきた植物であること。そして、この島からなくなると地球上から姿を消してしまう事をこれからも多くの人に伝えていけたらと思います。」

以前記事でも紹介しましたが、喜界島には現代ではなかなか見られない在来種のミカンも多く残っており、喜界島に住む知人も「おいしい島ミカンとヒメタツナミソウは喜界島の宝です。」と話されていました。

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今回、『ヒメタツナミソウ』のお話を伺い、喜界島にはこのように貴重な植物がいろいろあることを改めて知りました。そして、絶滅が危惧されている中で、島の宝物として大事に残していこうという活動が広がっていることは、素晴らしいことだなあと思います。
きっとその思いを多くの方が受け止めて、これからも大事に守っていこうという意識は広がっていくのではと思います。
4月頃になると、開花の時期を迎えます。
また、その頃に、『ヒメタツナミソウ』の花便りをお伝えできたらと思います。

『ヒメタツナミソウ』の花便りをお伝えできたらと思います。

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