春分の日、鹿児島市から高速道路で2時間ほどの熊本県人吉球磨地方に出かけてきました。春と秋のお彼岸にだけ御開帳となる観音様に会うためです。
明治維新までおよそ700年にわたって相良氏が治めたこの地域には、平安、鎌倉時代から受け継がれてきた仏像が点在していて、それぞれ地元のみなさんが大切に守り、お世話をしてきたとか。相良三十三観音めぐりは、そうして受け継がれてきた観音様にお参りする旅です。
春のお彼岸の中日、一日だけの御開帳に合わせたバスツアーに誘われ、ひとり参加してきました。
ご縁で日帰り一人旅
恥ずかしながら、相良三十三観音めぐりのことは知りませんでした。教えてくれたのは、以前取材でお話を聞かせていただいたFunFan企画の山口陵子さん。
山口さんは、以前ひとりで三十三観音を訪ね、人吉球磨の趣深い風景と個性豊かな観音様、そしてそれぞれの観音様を大切に守っている地元の方々の思いに魅せられたといいます。
そして、5年前から相良三十三観音めぐりのバスツアーを始めました。鹿児島では、他にはない独自の企画だったそうです。
山口さんのツアーでは、春と秋のお彼岸の御開帳に合わせて、毎回異なるコースで観音様をめぐり、4回参加するとすべての観音様にお参りできるとのこと。
見どころを熱く語る山口さんのお話に旅情をくすぐられ、これも何かのご縁とツアーに参加させてもらうことになりました。
雨の旅立ち
春分の日の3月21日は、時折強い雨の降る朝となりました。
バスは、東市来や伊集院でお客さんをひろいながら鹿児島中央駅へ。総勢26人の参加者を乗せていよいよ出発です!
この中には、今回ですべてをめぐり、満願成就となるご夫婦もいらっしゃいました。
自ら添乗員を務める山口さんの楽しいトークで車内は盛り上がります。
最初に到着したのは、熊本県球磨郡相良村川辺の上園(うえんそん)観音。十七番札所です。
観音様にカメラを向けるのは心なしかためらわれましたが、ここ上園観音をはじめ、地元の方はみなさん撮影を歓迎して下さいました。ありがたく撮らせていただいた写真を、いくつかご紹介します。
花がたむけられ、きれいに拭き清めてある観音様。その隣では、地元の女性たちが、前日から準備したという手料理が振舞われました。「お接待」です。
次に向かったのは、同じく相良村川辺の十八番札所、廻り(めぐり)観音です。
川の流れる音と鳥の声。静かな山里には河童のお墓もありました。
近くにはお地蔵さまも
十九番札所は、あさぎり町深田内山の内山観音。杉木立の中にありま
した。
かつての万福寺の跡で、明治期に2度の火災にあい、御本尊も焼失
現在のご本尊は1996(平成8)年に奉納されたものでした。
ここでも、手作りのお漬物や佃煮でのお接待がありました。
昼食をはさみ、つづいて訪ねたのは二十番札所、あさぎり町深田宮坂
の植深田(うえふかだ)観音。丘の上にありました。
二十一番札所は、あさぎり町深田永峰の永峰(ながみね)観音。
こちらでもお接待が。行く先々で少しずつお料理が違います。テーブルにならんでいるのは、作った方の気持ちです。
二十二番札所は、あさぎり町須恵上手の上手(うわて)観音。
お堂の隣にはテントが張られ、地元のお二人の女性がお接待して下
さいました。
「代々お姑さんから引き継いで、ずっとお接待してます。3人で作ってるんですよ。みんなが来て下さってうれしいです。」
あたたかい心にふれて、ありがたい気持ちになりました。
二十二番札所はもうひとつあります。あさぎり町須恵覚井の覚井(かくい)観音です。
いつの頃からか、二つの二十二番札所となったそうです。
二十三番札所は、多良木町黒肥地栖山の栖山(すやま)観音です。苔むした長い長い階段を上った先にお堂があります。
二十四番札所、水上村岩野の生善院(しょうぜんいん)観音は、茅葺のお堂でした。
ここは、通称猫寺と呼ばれているそうです。無実の罪で息子の命を奪われた母親が、恨みを抱えて愛猫と共に自死。
その後怨霊となって祟ったことから、その霊を鎮めるために建立されたのが、その名の由来とか。
二十四番札所はもうひとつありました。水上村岩野の龍泉寺(りゅうせんじ)観音です。
二十五番札所は、湯前町下城の普門寺(ふもんじ)観音です。
ここは参道が細くてバスが近づけず、急な道を登ってのお参りになるので、年配の方が多い参加者を心配した山口さん、ジャンボタクシーを手配してくれました。
二十六番札所は、湯前町上里の上里の町(かみざとのまち)観音です。
最後に訪れたのは、湯前町東方の法陀寺(ほうだじ)観音。森の中にありました。
すぐ近くには、城泉寺阿弥陀堂がありました。
ここは、三十三観音めぐりの札所ではありませんが、めったに見ることのできない仏様
がいらっしゃるとか。
茅葺のお堂の中には、国指定の重要文化財、阿弥陀如来像と勢至菩薩像(左)観音菩薩像が安置されています。
仏像を守ってこられた地元の方が、説明してくださいました。
1229年の鎌倉時代に作られた仏像であること、仏師運慶の流れをくむ仏師が造ったと考えられていること…。人吉なまりが温かく、自分たちの守ってきた仏様への誇りと愛情が伝わってきました。
旅の終わりに
今回の旅では、十三か所の観音様にお参りしました。
由来もお姿もそれぞれの観音様を静かにながめ手を合わせるひとときは、とても良い時間でした。なにより、観音様と地元の方々が、互いに見守り合って暮らしてきたことに心動かされました。それは決してたやすいことではなく、今では高齢化でお接待を続けていくことが難しくなっている観音様もあるそうです。
まだ見ぬ観音様をめぐりたいと思いつつ、文化や風習を守り続けていくことの厳しさを思う旅でした。
山口さんの三十三観音めぐりバスツアーは、秋分の日にも予定されています。
今回とは違うコースをめぐるそうです。ご自身がほれ込んで始めたツアーだけに、各所での山口さんの説明も聴きどころです。
ご興味のある方は、参加なさってみてはいかがでしょうか。
お問い合わせ先
株式会社FunFan企画
山口陵子さん
鹿児島市小野4丁目18番2号
フリーダイヤル
0120-026-828