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コンテスト

鹿児島県ビジネスプランコンテスト受賞者に聞く【優秀賞】鹿児島大学大学院 林祐作さん


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令和元年度鹿児島県ビジネスプランコンテストの受賞者にお話をうかがうシリーズ。今回は、優秀賞に選ばれた林祐作さんのご紹介です。

林さんは、鹿児島大学大学院理工学研究科情報生体システム工学専攻で修士1年に在学中。コンテストでは『魚の活性予測サービス「FishAI(フィッシュアイ)」』というプランを発表しました。

これは、人工知能技術の一種である「機械学習」という技術を使って、特定の釣り場の「魚の活性」を予測し、その情報を釣り人や瀬渡し船、釣具屋さんに提供するというプラン。

すこし難しそうですが、ご自身の研究のこと、プランのこと、これからの夢など、林さんにうかがってきました。
ビジコン表彰式後の林祐作さん

ものづくりにあこがれて

中学生のころからものづくりやエンジニアに興味があった林さん。現在、メディア情報工学研究室で人工知能技術について研究しています。

林祐作さん:僕が学んでいるのは、「情報」に特化した部分です。人工知能の技術を使って、実際の社会の問題を解決するというようなことをやっています。例えば、企業さんと連携して、福祉施設の介護スケジューリングを、人工知能技術を使ってたてるシステムを作るとか。

それは、AIの技術を使ってひとの暮らしをよりよくしようという研究、ということですか?

林さん:そうですね、世の中の、システムとして確立していない部分や、学術的に解決されていない問題にアプローチしていく、ということです。人工知能技術を実社会に応用していくということはもちろんなんですが、それとは別に、僕の研究室が今力を入れているのは、人工知能のセキュリティーについての研究なんです。

人工知能のセキュリティー?どういうことですか?

林さん:人工知能って、実は騙せるんです。例えばなんですけど、道路標識にあるパターンのテープを張っておくと、『止まれ』の標識を速度標識として誤認してしまうんです。そうするとどうなるかというと、自動運転で事故が起こってしまいます。

そういった、人為的なノイズのようなもので、人工知能が騙せることが既に分かっているので、どういうところに人工知能の脆弱性、弱みみたいなものがあるのかというところの研究もしています。それも結局、人間の暮らしに生かすためなんです。

林さんが人工知能技術に興味を持ったのは、熊本高等専門学校で「情報」について学んでいた頃のこと。ちょうど、人工知能技術の一つである「機械学習」や、その手法の一つである「ディープラーンニング」が注目され始めた時期でした。

林さん:人工知能の技術を使えば、これまで人間が「これが正解だ!」と思っていたものでも、実はもっといいものが作れるのかもしれない。そういう可能性をもった人工知能の技術に対するあこがれがありました。

とはいえ当時は、やりたいことが漠然としていて、自分には強みといえるほどの知識や技術もないという思いがあり、進学してもっと学びを深めるのか、それとも就職して社会に学ぶのか、かなり悩んだといいます。

実社会でどういう技術がどのように使われているのかを知ってから勉強する道もある、という先生のアドバイスもあり、自分自身の成長を期して就職することに決めました。

林祐作さん林祐作さん

仕事に向学心をかきたてられて

建設業界でシステムエンジニアとして働くことになった林さん。高専で学んできた「情報」という分野の技術や知識を、異業種で応用してみたいとの思いがありました。

でも現実には、これまで培ってきたことを応用するどころか、その出番もない仕事がほとんど。そんなとき、社内各部署の課題を集約して業務改善につなげようという取り組みがあり、林さんはそのなかに、手作業の効率化を求める声を見つけ、自分のスキルが役立てられるのではと考えました。

林さん:これまでは手作業で時間のかかっていた数量表とか計算書とかを、数字を入力するだけでぱぱっと自動で出力できるようなソフトが作れないかと考えました。当時はプログラミングしかできなかったですけど、ちょっとした空き時間を使ってプログラムを作って、3か月くらいかけてソフトを作りました。

出来上がったソフトを上司に提出すると、林さんの仕事を大いに認めてくれて、これまで以上に多くの仕事を任せてくれるようになりました。

林さん:上司は「林君にはだれにも負けない強みを持ってほしい」と言ってくださり、社外の研修会や勉強会、セミナーに数多く参加させていただきました。おかげで、視野が広がって、様々な分野の技術に対する知見も広がりました。今の自分があるのは、上司のおかげでもあります。

新技術の開発チームにも抜擢されて仕事にやりがいを感じつつも、人工知能技術をはじめ、自分の強みとなる知識や技術をもっと増やしたいとの思いがつのりました。

林さんは一念発起して鹿児島大学の編入試験を受けることを決意、働きながら勉強を始めました。建設業界が多忙を極める年度末には、遅くまで仕事をこなしながら、帰宅の時間も寝る間も惜しんで職場近くのファストフード店で勉強、銭湯でひと風呂浴びてそのまま出勤したこともありました。

努力の甲斐あって編入試験に合格。2年勤めた会社を辞めることになりましたが、上司は林さんを応援してくれて、今でも、研究や技術について語り合う交流が続いています。

人工知能技術を学ぶ

林さんは、鹿児島大学工学部情報システム工学科の3年に編入しました。人工知能技術について学べる研究室に入りたいと希望していましたが、各研究室への配属は成績で決まるとあって必死に勉強。念願のメディア情報工学研究室に入ることができました。

研究室で林さんご自身が取り組んだ研究テーマはどのようなものだったのですか?

林さん:今まで手作業で大変だった、2次元の図面を3次元モデルにするという作業を、機械学習や人工知能技術を使って自動化できないかという研究です。これは、僕が建設業界にいたときの課題の一つなんです。システムとして完成したとは言えませんが、何とか形にできました。

卒論として提出したこの研究は、その年の最優秀賞に選ばれ、学会でも発表。大学院でも、このテーマで研究を続けてきました。

林さん:同じテーマを、違うアプローチで研究しています。卒論の時に使った機械学習やディープラーンニングといった技術では、あまりうまくいかなかった部分があったので、進化計算(システムを生物のように進化させて目的の仕様や性能を実現しようという計算技法<註筆者>)というものを使って研究しています。

この研究成果も先日国際学会で発表し、一区切りついたところです。それにしても林さん、日々の研究だけでもお忙しいでしょうに、いつの間にビジネスプランを練り上げたのでしょう。しかもテーマは釣り!自然が相手で、人工知能とは縁がなさそうです。きっかけは、林さんの趣味と、ある授業との出会いにありました。

目指すは釣れる釣り!

林さんは、小学生のころから釣りが大好き。生まれ育った熊本の海に度々出かけ、地元の釣り専門誌に載ったこともあります。

お父さんと、アジゴをたくさん釣ってえびす顔!お父さんと、アジゴをたくさん釣ってえびす顔!

大学編入を機に暮らし始めた鹿児島では、同期の釣り好きの編入生に誘われて、瀬渡し船で錦江湾の沖堤防へ。そこで、錦江湾の豊かさに驚かされました。

林さん:一言でいうと、水族館で釣りをしている感覚ですね。とにかく魚影が濃くて、魚種が多く、なかにはモンスター級のサイズの魚もいます。90センチサイズの真鯛が釣れたこともあります。釣り好きの人に「鹿児島に住んでる」というと、うらやましがられますよ。

北ふ頭沖堤防で釣り上げたメジナと北ふ頭沖堤防で釣り上げたメジナと

学生にも手の届く値段で船を出してくれる瀬渡し船「天竜丸」の船長さんに、潮の読み方や仕掛けの工夫、釣り方のコツなどを教えてもらい、潮や天気が釣果の良し悪しに関係しているようだと聞きました。

林さんは、そうしたデータを集めれば、釣れない日に釣行するリスクが減らせて、釣り人はもちろん瀬渡し船の船長さんも助かるのではないかと考えました。

林さん:学生なのであまりお金もないですし、大学院に入ってからは、忙しくてあまり時間もありませんでした。そんな状況で釣れない日が続くと、正直やってられないんですよね

釣れた魚は食べますし、大漁の時には居酒屋さんが買い取ってくれたりもするので、自給自足みたいなものなんです。なので、潮とか気象とかデータを集めて解析して、例えばその日の天気予報みたいに、魚の活性を予測できるものが作れたらいいなって思ったんです。

天竜丸の船長さんたちと天竜丸の船長さんたちと

特定の場所のデータを大量に集めて学習させる必要がある「機械学習」。錦江湾の北ふ頭沖の堤防付近にポイントを絞り、天竜丸の船長さんの協力を得て、釣れた魚種、数、時間帯といったデータを記録してもらうことにしました。

さらに、気象庁のデータや海上保安庁の気象データ、具体的には気温や水温、風速、海面気圧、潮汐差、降水量などのデータを集めて、それらを魚種ごと日ごとに整理。「機械学習」に入力するのに必要なデータを収集していきました。

林さん自作のデータ表(一例)林さん自作のデータ表(一例)

それ、おもしろいね!

ちょうどそのころ、大学院の授業で、ビジネスプランを作って発表しようという取り組みがありました。林さんは、集めたデータを使って、今回優秀賞を受賞した『魚の活性予測サービス「FishAI(フィッシュアイ)」』のもととなるプランを発表。担当の古里栄一特任准教授の目に留まりました。

古里先生:これは面白い、イケてるって思ったんですよ。ぼくは「技術経営」、MOT(Management ofTechnology)の講座をやっていて、ここでのねらいは、理系の専門知識を実社会で活用するための能力を、ビジネスプランの作成を通して身につけてもらおうということなんですが、彼はその辺のところをよく理解してくれて、プランは最初からものすごくよくできていました。

古里栄一特任准教授(右)と林さん古里栄一特任准教授(右)と林さん

県のビジネスプランコンテストへの応募を勧められた林さんは、古里先生をはじめ、ビジネスに詳しい外部講師にもアドバイスをもらって、アイデアや技術をどうビジネスにつなげていくのかを学びました。

林さん:1度社会に出たとはいえ、まだまだ未熟なので、経営やお金を管理する側の目線というのは自分にはありませんでした。講義では、売り上げ計算や競合他社の分析など新しい手法を教えていただいて、とても有意義でした。

プランは見事優秀賞に輝きましたが、林さんにとってはここがゴールではありません。

林さん:現状のシステムだと、まだ技術的な課題が解決できていない部分があるんですよね。もっと勉強して、いいものにしていきたいです。

ビジコンでプレゼンテーションする林さんビジコンでプレゼンテーションする林さん

新たな夢に向けて

修士課程も残すところ1年余りとなり、現在就職活動中の林さん。これまで学んだ人工知能技術をいかして働けるところを目指しています。

林さん:技術者として、与えられた仕事をこなすだけではなくて、新しい企画を自分で提案して意見を言い合えるような雰囲気の職場で働けたらいいなと思っています。そこでまた、しっかり勉強させていただきたいです。

仕事と並行して、『魚の活性予測サービス「FishAI」』の改良にも取り組み、やがては世に出したいとも考えています。

人工知能技術というと、人間に取って代わる脅威の存在として語られることも多いですが、林さんのお話をうかがっていると、ひとの暮らしをよりよくしてくれるパートナーとして、仲良くやっていけるのではと思えてきます。

林さんなら、そういう未来を作ってくれる気がしました。
まずは希望する企業に就職がかないますように。これからの活躍が楽しみです。

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