鹿児島市の廣田一平さんは、サラリーマンでありながら、花柳二仁祇(はなやぎににぎ)の名で活躍する日本舞踊家でもあります。
物心ついたときから踊ることが大好きで、日本舞踊の最大流派・花柳流で修行を積んで師範となり、その魅力を伝えようと県内外で踊りを披露しています。
仕事をしながら稽古を重ね、日本舞踊を若い世代へも広めていきたいという二仁祇さんは、平成元年生まれ。30歳になる今年は、今までよりも多くの舞台に立ち、令和へ羽ばたこうとしています。
踊ることが大好き!
子どもの頃、音楽が流れればジャンルを問わず、自己流で踊り出していたという二仁祇さん。3歳で日本舞踊を習い始めました。
「叔母が日本舞踊をしていたせいか、まわりにいつも音楽がありました。踊ることが楽しい!好き!という気持ちだったことを覚えています。みんなも喜んでくれるし、とにかく楽しかったですね。」
生まれ育った喜入町の師匠について、家でも熱心にお稽古したといいます。
「扇子の使い方で『一間開き(いっけんびらき)』っていう、親指だけで扇子を開く技法があるんですけど、それがなかなか出来なくて、くやしくて泣いたこともあります。でも、やっぱり踊ることが好きだったので、やめようとは思わなかったですね。」
平成4年からは毎年元旦に、地元の介護施設の年賀式で祝儀舞を披露。県内各地からもお呼びがかかって、1日で5か所の舞台に立ったこともありました。
大好きな踊りを通じて、子どもながらに得がたい経験をした二仁祇さん。日本舞踊をさらに深く学ぼうと、7歳で花柳流に入門することになりました。
本物に目覚めて
門をたたいたのは、鹿児島市の花柳二千翔さんの稽古場でした。
「はじめて師匠の踊りを見たとき、子ども心にカルチャーショックを受けました。きれいで洗練されていて、心が浄められるようでした。ただただ感動したのを覚えています。」
お稽古が始まると、自分の踊りが全く通用しないことに驚いたという二仁祇さん。心のままに楽しく踊っていれば、かわいい、上手ともてはやされ喜ばれたこれまでとは一変したのです。
「今から思えば、変な癖がついていたり、どや!って感じの踊りになってたりしたんだと思います。それをいったん全部そぎ落として、基礎からやり直すところから始まったんです。」
伝統的な古典舞踊を、その時代背景や意味について教わったり調べたりしながら、自分なりに考えて演じること。それは、当時の二仁祇さんにとって初めての経験でした。
ひとつひとつの踊りを、時間をかけてお稽古していくなかで、日本舞踊の奥深さ、役を演じる面白さに目覚めていったといいます。
「よく見せようという欲があると、いい踊りにはならないんです。無心に、その役になりきって心情を表せるように、日々の稽古を大切に精進するようになりました。舞台に立つと役に入り込めるんですよね。ふだんの私は人前で話すのも苦手な方なのですが、そんなこと忘れてしまって。不思議な感覚ですね。」
成長とともに、踊りが深まっていった二仁祇さんでしたが、踊りをやめようかと悩んだ時期がありました。
思春期の悩み
思春期になってくると、日本舞踊をやっていることを友達にからかわれるようになったそうです。
「『何がおもしろいの、女の子がするものじゃないの』と言われて…。自分が大切に思っているものを否定されて、つらかったです。まわりが部活動に入り始めると、なおさら疎外感を感じてしまって。みんなの野球やサッカーと変わらないのに、こんなに面白いのにと、葛藤が続いて踊りをやめようかと思いました。」
それでも、踊りをやめなかった二仁祇さん。
「舞台に立っているとき、お稽古しているとき、とにかく踊っていると悩みが消えていくんです。この時期は、好きなのも嫌いなのも踊りでしたけど、結局、踊ることで救われていましたね。」
踊るよろこび
悩みを乗り越えて師範となり、今では踊りと仕事を両立して、数少ない男性舞踊家として活躍する二仁祇さん。2018年11月には、鹿児島市の宝山ホールで行われた公益社団法人日本舞踊協会の公演に出演しました。
「水仙丹前という演目を踊りました。演じたのは若衆と呼ばれる美少年なんですが、その当時の若衆の美しさや繊細さ、そこに垣間見える切なさを表現できればと思って踊りました。水仙の花ことばはナルシストだと知り、そこから思い起こされる孤独とか、自分なりの若衆をどう表現するかが難しかったですね。」
この公演には、東京や京都から、顔師や後見といった本物の職人がそろい、舞台を作り上げたそうです。
「日本舞踊は、音とか光とか小道具とか、すべてがそろって出来上がる総合芸術なんです。そこにお客さんが入られることで完成するんですよね。そんな素晴らしい舞台で踊れた幸せをかみしめました。」
日本舞踊の魅力を多くの人に伝えたい
30歳となる今年、二仁祇さんはより多くの舞台を踏んで、日本舞踊の魅力を伝える活動をしていきたいと思っています。
「日本舞踊には、先人の暮らしや文化が型や様式となって表現されています。わかりやすいものではないかもしれませんけど、まずは観て、感じてほしいんです。わかりにくいからこそ、おもしろいんです。」
毎年3月に、師匠の花柳二千翔さんが開く「スタジオ翔 舞の会」。
ここで今年、二仁祇さんは、袴姿で踊る「素踊り」で「外記猿」を披露しました。
「素踊り」とは、お化粧や衣装がない分、踊り手の力量が試される踊りの形式です。
精進を重ね、いつかは素踊りで人の心を動かせるようになりたいというのが、二仁祇さんの目標なのです。
「僕が言うのはまだ早いと思いますけど、踊りには人生が出るといわれるので、日本舞踊で培った人脈に感謝して、自分の踊りを磨いていきたいです。いろいろな経験を積んで、サラリーマンとしての社会的な眼で日本舞踊を客観視して、謙虚な姿勢で精進していきたいです。」
二仁祇さんの踊る姿を間近で拝見して、その気迫、凛とした姿に圧倒されました。
5月には仙巌園などで、二仁祇さんの素踊りを観ることができます。
詳しいスケジュールは、こちらです。
花柳二仁祇さん今後のスケジュール
「代代の会 舞×茶」
日時:5月3日(金)
午前の部:10:00受付 10:30開演
午後の部:12:40受付 13:00開演
場所:仙巌園 御殿 姫の間
料金:1500円(仙巌園入園料は別途)
お問い合わせ 080-5280-1510
第29回飛翔の会
日時:5月18日(土)
開場12:30:開演13:00
場所:サンエールかごしま2階講堂(全席自由)
料金:2000円
お問い合わせ:スタジオ翔の会099-255-0785
花柳二仁祇さんのホームページ