福岡の町中に暮らしていると、こいのぼりが薫風にたなびく姿をなかなか見かけなくなりました。
男の子の健やかな成長を願う端午の節句。庭先にこいのぼりを揚げ、五月人形を飾り、柏餅やちまきを食べる風習があります。
そのちまきと言えば、鹿児島では「あくまき(灰汁巻き)」ですよね。
「5月5日には間に合わなかったけど」と、先日、鹿児島の85歳の母が作ったあくまきが送られてきました。
てのんの活動を始めて、昔からの知恵や風習を記録し、次世代に伝えていくことも大切だと思っています。
母があくまきを本格的に作り始めたのは、60代に入った頃から。
子育ても落ち着き、孫達があくまきを食べられる年齢になった頃でした。
私は、実家を離れていたので、実際母がどんなふうにして作っているのか見たことがありません。食べる専門です(笑)
そこで今回は、母の助手を務めた姉にお願いして、作る過程を写真にとってもらいました。
(材料)
- 竹の子の皮(鹿児島では、端午の節句の時期スーパーなどで売っている)
- あくまき用木灰(〃)
- もち米
(作り方)
-
- 竹の子の皮を水でもどす。
十分に柔らかくするため、たっぷりの水で2日~3日もどします。
今回は、バケツにビニール袋を装着し、竹の皮が柔らかくなったら、ぎゅっと中に押し込んでビニール袋の口をしばり、皮が全部浸るように工夫しました
- あくを取る。
バケツの上にざるを乗せ、さらし木綿を敷きます。
市販のあくまき用木灰を予めお湯で湿らせ、泥状になったものをのせます。
そして、お湯(熱すぎずぬる過ぎず)をたらたらと回しかけ、あく汁がポタポタと落ちきるのを待って、次をかけます。
※木灰の量であく汁の濃さを調節できます。
今回はもち米3キロに対して木灰2キロを使いました。市販のあくまきより濃いと思います。※取れたあく汁の上澄みをすくって、もち米を浸すのに使います。
この写真は、上澄みをすくった後のあく汁だそうです。
(上澄みをすくう前は、もっと色が濃く澄んでいる。)
この残ったあく汁も、あくまきを炊く時に使います。 - もち米を洗い、あく汁に浸す。
もち米を②で取れたあく汁の上澄みに浸し、一晩置きます。 - もち米をざるに上げ、汁気を切る
- 竹の皮の準備
柔らかくなった竹の皮の両端を切り、形を整えます。
- もち米を竹の皮で包む
もち米を、竹の皮の真ん中に入れ、竹の皮を裂いて作ったひもで結びます。
ゆでると膨らむので、ゆるめに結ぶのがポイントです。 - あくまきを炊く
母は、あくまきを炊く時に一斗缶を使います。
鹿児島弁では一斗缶のことを、せったんかんというそうです(鹿児島弁事典より)
せったんかんにあくまきとあく汁を入れ、このように練炭コンロに乗せ、ゆっくり炊きます。せったんかんの中を見てみましょう。
せったんかんの底に竹を半分に割ったものを敷いています。
こうするとあくまきが底にくっつかない(母のアイデア)そうです。そして、②でとったあく汁をひたひたに入れ、あくまきが浮かないように皿の落し蓋を入れます。
後は、練炭で様子を見ながら3~4時間炊きます。※母の実家では、大きな鉄鍋でゆでていたそうですが、今は、なかなか手に入りません。あく汁はアルカリ性なので、アルミ製の鍋では傷んでしまいます。すると、知人からせったんかん(材質はスチールやブリキ)で作る方法を教えてもらい、竹の子の水煮工場(一斗缶に入れて出荷する)に行って、せったんかんを購入し、以来、この方法で作っているそうです。
せったんかんは縦に長いので、たくさんのあくまきが一度に入り、効率よくゆでることが出来、便利だそうです。 - あくまきの形を整える
あくまきがゆであがったら、ざるに上げ、水気を切ります。
少し冷めたら、竹の紐をきれいに結びなおして余分を切り、見栄えの良い姿に整えます。
今年は、26本のあくまきを作ったそうです。
毎年、それぞれ子供たち家族に送り、近所の方にも配っています。あくまきにつけるきなこと黒砂糖も用意して・・
- 竹の子の皮を水でもどす。
こうして作られたあくまきが、福岡の我が家に届きました。
姉から作り方の解説付きで送られてきた写真を見て、手間がかかり、丁寧な作業の積み重ねで作られるという事がわかりました。
改めて感謝の気持ちを持ちながら、家族で食べたいと思いました。
出来上がったあくまきは、もち米の粒がなくなり、とろっとした柔らかい餅のようなわらび餅のような食感になり、独特のえぐみもあります。
あく汁は強いアルカリ性で、もち米のでんぷんを糊状にする作用があり、独特の食感とえぐみが生まれるのだそうです。
また、あく汁や竹の皮には殺菌作用などがあり、保存食としても優れています。
諸説あるようですが、1600年の関ヶ原の戦いの時、島津義弘公が兵糧として持って行ったことが始まりと言われており、1877年の西南戦争の時には西郷隆盛も持参したと言われています。
そして鹿児島では、男の子の健やかな成長を願う端午の節句に作られるようになりました。
べっこう色をしたあくまきにきなこと黒砂糖をまぶしたものをかけて食べると、あくまき独特のえぐみと甘さが上手く調和して、なんとも美味しく感じます。
鹿児島の味だなあと思います。
母から聞いた、昔のあくまき作りの話です。
あくまきに使う木灰は、ミカンの木や樫の木、大豆の殻を燃やしたもので取るのが良いとされていたそうです。なので、私の祖母は、一年かけて良い木や大豆の殻を集め、納屋に保管していたそうです。
そして、端午の節句が近づくと、まず、かまどをきれいに掃除してから保管していた木を燃やし、出来た上質な木灰を丁寧に取っていたそうです。
田舎暮らしだった母の実家では、あくまきに使う竹の皮は、近くの竹林に行けばいくらでもあるし、もち米や大豆は自分たちで作っています。また、昔は、まき風呂やかまどがある生活だったので、木灰も日常の生活の中で取る事ができました。あくまきの材料は、すべて自分の家で調達できたんですね。そして、庭で大きな鍋であくまきを炊く。隣近所もそれぞれあくまきを作っていたので、交換して味比べをしたり、そんな生活がありました。
その生活を母は経験しているので、今は、木灰や竹の皮は買うしかできませんが、やはり節句にはあくまきを作るものと心に決めて、工夫しながら作っています。
姉は、ここ数年母の手伝いをしているので、きっと一人でも作れるようになっていると思います。私も、食べるだけから少しずつ作る方にも参加していきたいと思っています。
そして、今の時代に合わせながら、郷土の伝統の和菓子「あくまき」作りを受け継いで残して行けたらなあと思います。