ここは鹿児島市の郡元地区。この町の神社に、たくさんの人が集まってきました。行方不明になった認知症の方を探す模擬訓練に参加するためです。
鹿児島市でこのような模擬訓練が行われるのは初めて。地域の人、民生委員さん、消防団、福祉や医療の専門職、鹿児島市以外からの参加もあり、総勢100名を超える模擬訓練となりました。
認知症になると、記憶力や判断力が低下し、自分が今どこにいるのか、何をしようとしていたのかはっきりしなくなり、迷子になってしまうことが多くあります。家に帰れなくなって途方にくれたり、事故に巻き込まれる危険性もあり、時には命にかかわることもあります。そんな時、私たちは何ができるでしょうか?認知症の方たちのSOSに気づき、自分たちの出来ることを学ぼうというのが、この模擬訓練。ほとんどの人にとっての初体験です!
企画したのは、かごしま地域見守りネットワーク「みま~も・かごしま」。
結成1周年の記念イベントとして計画しましたが、この地区の中郡地域コミュニティ協議会も賛同。地域ぐるみのイベントとなりました。
分かっているのは、名前や服装など、限られた情報だけ。早く見つけ出すことが目的ではなく、認知症の人を発見したら、どんな声かけをしたら良いのか?どうやって安全に導くことができるのか?など…訓練を通して認知症の方への理解を深めることが大きな目的です。
3つの『ない』を大切に
1 驚かせない
2 急がせない
3 自尊心を傷つけない
具体的な対応の7つのポイント
1 まずは見守る
2 余裕をもって対応する
3 声をかけるときはひとりで
4 後ろから声をかけない
5 相手に目線を合わせて優しい口調で
6 おだやかに、はっきりした話し方で
7 相手の言葉に耳を傾けてゆっくり対応
対応のポイントをあらかじめ学んで、模擬訓練の開始です。
このグループが階段に座り込んでいる男性を発見したようです!
さあ、声かけです…
模擬訓練
これは、「みま~も・かごしま」が普及を進めている見守りキーホルダー!
「認知症の方が行方不明になったり、外出先で具合が悪くなって救急搬送された時など、身元が分からなくて対応が遅れることがあるんです。
『みま~も事務局』にあらかじめ緊急連絡先や医療機関を登録しておくことで、もしもの時に迅速に身元が確認できるシステムです。
先進地・東京の大田区では、65歳以上の人の4人に1人がこのキーホルダーを持っているんですよ。」
実は訓練の数日前にも、このすぐ近くで認知症の方が行方不明になる騒ぎが起きたばかりでした。娘さんが仕事を終えて帰ってきたら、お母さんの姿が見えない。探しても、見つからず、警察に連絡しましたが、その事だけでは警察は動いてくれません。
民生委員さん、町内会の役員さんなど、地域の人たちが一緒になり周辺を捜索、「みま~も」もSNSを使って情報提供を呼びかけましたが、見つからず2晩が過ぎました。
夜は冷え込み、安否が心配されました。そして、行方不明になってから3日目の午後6時過ぎ。地域住民の方によって、その女性が無事発見されたのです。空き地の普段人が立ち入らないような藪の中で、うつ伏せになったまま倒れていました。
「見つかって本当に良かったです。あの日は2晩ともとても寒くて、おそらく水も食べ物も口にしていなかったはず。ほんと、間一髪。命にかかわる出来事でした。」
「あの事件が身近に起きて、これは真剣に取り組まなきゃいけないと思いました。住民力の大切さを感じると同時に、コミュニティとしては、まだ青写真が無いことも分かりました。困ったり、迷ったりしている認知症の方を見かけた時、みんなで普通に対応できる力を身につけていくことが大切と思いました。きょうは、その第一歩です。」
102歳のおばあさんらしき人を発見!
※散歩に出かけたまま、いつもの時間になっても帰ってこないと娘さんから捜索依頼があったとの想定
模擬訓練
やってみて、どうだった?
一緒に参加した肝付町役場の保健師 能勢佳子さん(写真左)は…
「子どもたちが『認知症ってあ~なんだねぇ』って話をしながら、声をかけている姿がメッチャ良かった。実際のやりとりの中で子どもたちは学んでいく。そんな子どもたちが増えていくことで、本当に安心できる町になっていくと思うんです。
私の町では、こんな模擬訓練を始めてもう10年になります。5年くらい経った頃から『そういえば、家族に認知症の人がいるってことをみんな隠さなくなったよね~』って感じになってきました。継続してやり続けることで、人も地域も変わっていくんですね。」
そういえば、こんなに立場の違う人が大勢集って、認知症の問題に一緒に取り組むのは初めてのことでした。
「これだけたくさんの方が集まってくれて嬉しいですよね。これがきっかけになって、地域での新たな支え合いが生まれていけば、すごく嬉しいです!」
模擬訓練をやってみて…
「普段から認知症の人との関わっているんですが、自分が認知症の人の気持ちになってみたら、改めて声のかけられ方で気持ちが違うんだなぁと実感しました。きょうは、私たちもワンランク上がったような気がします。」
「面白かった。机上の勉強より学ぶことが多いですね。お節介と親切の狭間で悩むことが多いけど、程よい介入の仕方をもっと学びたいです。」
奥さん 「今、認知症の方の見守りメイトをしているんですよ。認知症の方との関わり方を学ぶ良い機会になりました。」
旦那さん「こんな機会がもっとあったら良いのになぁと思いました。」
私たちは、今65歳以上の7人に一人が認知症という時代を生きています。そして8年後には、65歳以上の5人に一人が認知症という時代がやってきます。もう遠い先の誰かの話ではなくなってきています。だからこそ、自分の暮らす町は「認知症になっても大丈夫!」といえる場所であってほしい…誰もが願うことです。でも、何から始めればいいの?そんな取り組みを10年前から行っているという方が東京から招かれていました。
「みま~も」本家(大田区)の発起人・澤登久雄さんです。
澤登さんは、大田区で10年前に「みま~も」を立ち上げ、「住民主体の見守りネットワーク」の仕掛人として、その活動が、全国から注目されている福祉界のカリスマです。
見守りって何だろう?
「『みま~も』を立ち上げた時、『見守りって何だろう?』って、みんなで真剣に考えました。従来の『見守り』は、把握や監視という発想から始まっている。でも、僕らが目指したのは、地域に住み、昔から知っている者同士が繋がり合う中で生まれる『見守り』。地域で暮らしてきた人たちが、要介護状態になっても認知症になっても『地域から分断されない』社会です。『この町で暮らす人を決して孤独にさせない』という思いでやっています。」
「みなさんも、まずは、ここに来た人たちが繋がり合うこと。そして、きょうここに来られなかった人、来ることが出来ない人たちを巻き込みながら、もっともっと繋がって下さい。頑張れ、鹿児島!」
★ 次回の予告
~僕らは地域包括ケアシステムをこうやって作りあげた!~
仕掛人・澤登久雄さんに聞く ~みま~も・10年のあゆみから~
国が提唱している地域包括ケアシステムを10年先行する形で、作りあげてきた東京・大田区の「みま~も」専門職、民間企業、行政が手をつなぎ、様々なアイディアを出し合いながら、高齢者が生き生き暮らせる地域の支え合いネットワークを作ってきました。
「みま~も10年間のあゆみ」は、きっとあなたの町のこれからを考えるヒントになるはず…
★ 次回は見守りネットワークづくりの仕掛人・澤登久雄さんのインタビューをお伝えします!

