南さつま市加世田唐仁原に、明治後期に建てられた石蔵があります。創業283年のお醤油の老舗「丁子屋」さんの石蔵で、2年ほど前に、多目的に使えるスペースとして改装されました。

この石蔵が、月に一度、第二金曜日にブックカフェになると聞いて、訪ねてみました。
ときおり雪の舞う1月12日。おそるおそる引き戸を開けると、どうぞどうぞと気さくに迎えて下さったのは、小村勇一さん(36)と、窪壮一朗さん(35)・菜つみさん(32)ご夫妻。

鹿児島市で古本店「つばめ文庫」を営む小村さんと、南さつま市大浦で、農業とコンフィチュールなどの加工・販売を手がける窪さんは、4年ほど前に、古本販売のイベントを通じて出会いました。そして一昨年、お店でお客さんを待つばかりでなく、外へ出て新しいお客さんにも本を届けたいと思っていた小村さんと、地元南さつま市でみんなも自分もたのしくなることをやりたいと思っていた窪さんは、石蔵で出張古本市を開こうと思い立ちました。オーナーの丁子屋さんに相談すると、石蔵を使うことを快諾してくれました。
いざ開店すると、地元の人たちの反応は上々。もっと本を読みたい、定期的に開催して!カフェもあったらいいな…そんな声に後押しされて、去年の10月から、毎月第二金曜日開店の、石蔵ブックカフェが始まったのです。
この日小村さんが持ってきたのは、およそ300冊。鹿児島の文化や歴史に関する本をはじめ、旅、料理、絵本、小説…幅広い分野の本が並んでいます。特に今回は、西郷さん関連の書籍を充実させました。新本もあります。県内では、小村さんのお店と、ほかに1店しか取扱いのない夏葉社の本。
やってきたお客さんは、うれしそうに本棚をのぞきこみます。


「わー懐かしい!」「これ、すごくおもしろそう!」
楽しそうに本を選んでいるのは、南さつま市加世田でフォトスタジオを営む篠原裕一さん(33)・美香さん(32)ご夫妻。
「ずっと来たかったんです。今日やっと来れました。自分が子供の頃に読んでいた懐かしい本に出会えてうれしいです。いろんな本と、人にも出会えてとっても楽しいです!ぜひ、南さつま市をもりあげてほしいです!」と美香さん。お気に入りの本を手に、とても幸せそう。

カフェコーナーでは、窪菜つみさんお手製の焼き菓子やホットジンジャー、挽きたてのコーヒーが味わえます。販売されているコンフィチュールは、自家農園の有機グレープフルーツを使って、菜つみさんが作ったもの。


窪さんたちとお話しする、優しくひそやかな声が聞こえてきました。お客さんとしていらした丁子屋のおばあさまです。何度も読み返したくなる本のようなお話に、思わず耳を澄ましてしまいました。
本を選ぶもよし、読書に没頭するもよし、お茶とおしゃべりでほっと一息つくもよし。お客さんそれぞれの時間が、程よい距離感で過ぎていきます。

小村さん、来月の新しい企画を思案中です。「おすすめの本を紹介する時間を作ろうかなと思ってるんです。本のポップをライブでやる感じで。」窪さんや菜つみさんと語り合っていると、アイデアが膨らみます。試行錯誤しながらも、気負わず愉快に。3人の思いのこもった、石蔵ブックカフェです。
次回は2月9日に開店の予定。ちょっとのぞいてみてはいかがでしょう。
石蔵ブックカフェ
南さつま市加世田唐仁原6032丁子屋石蔵にて
毎月第二金曜日10:00~20:00 open予定
Facebook:南薩の田舎暮らし
アクセス
つばめ文庫 古本全般、特に郷土(鹿児島)、民俗、旅(紀行)をキーワードに販売
月・水開店 金曜は出張販売の日
鹿児島市武岡一丁目23-7 サブセンターたけおか
℡099-281-2729
http://tsubamebunko.chesuto.jp/
南薩の田舎暮らし 窪壮一朗さんと菜つみさんの二人で、農業と収穫した農産品の販売、コンフィチュールなどの加工品の製造・販売を手がける。間もなく始まるたんかんの収穫次第で、今年もオランジェット(砂糖漬けの柑橘を部分的にチョコレートでコーティングしたもの)を作りたい、と菜つみさん。
http://nansatsu.shop-pro.jp/
丁子屋 1735年、江戸享保年間に廻船問屋として創業。今では県内有数のお醤油屋さんとして、その名を知られています。築100年を超える石蔵を改装して一般に開放、ブックカフェのほか、コンサートや展覧会、会合などに活用されています。石蔵は、国の登録有形文化財に指定されています。
http://chojiya.com
