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「暮らし」

えっ、ヤモリ⁉手作り巣箱に入居したのは鳥ではなくヤモリでした


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庭のエゴノキには、秋になると毎日のようにヤマガラがやってきて実をついばみます。もしよかったらここで暮らしませんか、そんな気持ちで巣箱をかけたのは去年の11月のことでした。気に入ってくれるヤマガラが現れやしないかと、そわそわしながら様子をうかがう日々でしたが、ヤマガラは巣箱に近づくどころか気にも留めてくれませんでした。

年が明けて春になると、シジュウカラが何度か内覧してくれたのですが、5月の子育てシーズンになっても入居はなく空き家のまま。今年はもう見込みはないかな、そうあきらめかけたころ、巣穴になにやら動くものが見えました。もしやシジュウカラ?慌てて家の中から双眼鏡で確認すると、巣穴から顔を出したのはなんとヤモリでした。

身近な野鳥と暮らそう!手作り巣箱でご入居お待ちしております!キンモクセイが咲いて、小鳥来る季節になりました。我が家には、ヤマガラやシジュウカラがやってきます。鳴き声が聞こえると、家の中からそっとな...

ヤモリだってウェルカムです!

ヤモリは我が家の夏のおなじみさんで、10年ほど前から居間の網戸に夜な夜な姿を現します。明かりに誘われて飛んでくる羽虫を食べにやってくるのです。初めて出会ったときにはぎょっとしましたが、毎晩見ているうちに、丸っこい指をぐっと広げて張り付いている姿や、くるくるとよく動くしっぽがかわいく思えてきて、ヤモリが出てくるのが楽しみになりました。

よく見るとかわいいんですよく見るとかわいいんです

抜き足差し足で慎重に獲物に近づいて間合いを詰め、一気にぱくりといくのがヤモリの狩りのスタイル。見事な腕前です。たまにはしくじることもありますが、すぐに仕切りなおしてひたすら獲物を追いかけます。日が暮れてあたりが暗くなるとどこからともなく現れて、夜が更けてくるといつの間にかいなくなります。だいたい11時までには姿が見えなくなるので、その頃合いで満腹になってねぐらに帰るのかもしれません。

狙いを定めましたが、カメムシとわかると食べませんでした狙いを定めましたが、カメムシとわかると食べませんでした

ヤモリは家に住みついて家を守ってくれるからヤモリとよばれるんだと思っていましたし、昼間に雨戸の戸袋のなかでじっとしているのを見かけたことがあるので、てっきり人家を住まいにしているものと思っていました。まさかマイホームを持つヤモリがいるなんて。巣箱の穴からちょこんと顔を出しているヤモリを発見した時にはびっくり仰天、意外な光景に思わず笑ってしまいました。

巣箱の穴からちょこんと顔を出しているヤモリを発見した時にはびっくり仰天、意外な光景に思わず笑ってしまいました。

ヤモリはとても用心深いようで、巣箱に近づくとすぐに中に入ってしまいます。ヤモリの暮らしを邪魔しては申し訳ないので、家の中から遠目に見ることにしました。はじめのうちは、巣箱の穴から恐る恐るといった感じで顔を出していることが多かったのですが、次第に慣れてきたのか、巣箱の外に出てじっとしていることも増えてきました。

次第に慣れてきたのか、巣箱の外に出てじっとしていることも増えてきました。

朝、窓を開けると、まずは巣箱に目がいくようになりました。ヤモリの姿が見えるとほっとしますし、数日見かけないとなんだか気にかかります。7月の下旬から8月の上旬にかけての暑さの厳しい時期には全く見かけなくなってどうしているのか心配しましたが、お盆を過ぎた頃に久しぶりに巣箱に張り付いているところを確認できました。このヤモリと網戸にやってくるヤモリはおそらく別のヤモリだと思いますが、我が家のまわりで暮らしているヤモリのことを、もっとちゃんと知りたくなりました。

ヤモリってどんな生き物?

ヤモリについて書かれた本を探してみると、面白そうな一冊を見つけました。「日本のいきものビジュアルガイドはっけん!ニホンヤモリ」(写真 関慎太郎 編著 AZ Relief 小泉有希 緑書房刊)です。早速購入して読んでみました。ヤモリのいきいきとした写真とともに、その種類や生態、ひととの関わり、飼い方や観察の仕方、研究者のメッセージなどがすべてふりがな付きで書かれていて、ヤモリの「人となり」がよくわかります。お子さんも一緒に楽しめそうです。

「日本のいきものビジュアルガイドはっけん!ニホンヤモリ」(写真 関慎太郎 編著 AZ Relief 小泉有希 緑書房刊)

この本によると、日本にはヤモリ科6属14種が分布していて、なかでもヤモリ属に属する8種は見た目や生態がとてもよく似ていて見分けるのは難しいそうです。人家周辺ではニホンヤモリという種がよく見られるということで、我が家のヤモリもおそらくニホンヤモリではないかと思います。ニホンヤモリは中国大陸からやってきたと考えられていますが、いつ頃やってきたのかなど詳しいことはまだ分かっていないそうです。

日本の固有種ではないとはいえ、江戸時代の文献には記述があり、生息場所は人家周辺に限られているということで、昔から人のそばで暮らしてきたことがうかがえます。野生で5~6年以上生きるそうですが、カマキリやムカデ、クモやヘビの餌食になることもあるとかで、いろいろないきものが暮らす我が家の庭で生きながらえるのは、なかなか大変そうです。

我が家の巣箱には2匹いたこともありました我が家の巣箱には2匹いたこともありました

ヤモリは夜行性ですが、昼間に日差しが強く当たらない場所で日光浴をすることがあるそうです。巣箱の外にじっと張り付いていた我が家のニホンヤモリも日向ぼっこをしていたのかもしれません。知れば知るほど愛着がわいてきました。

ひとの暮らしとともに

我が家のまわりでは、ヤモリのこどもに遭遇することもよくあります。花鉢に水やりをしていたら、か細いきゅーっという音がするので鉢を持ち上げてみると、体長3センチほどの子ヤモリが慌てて逃げていったことがありました。あれは鳴き声だったのかもしれません。車を出そうとサイドミラーを確認すると、子ヤモリが張り付いていてびっくりなんてこともありました。実際ニホンヤモリをはじめ、日本にいるヤモリのなかには、自動車や船のコンテナにくっついて移動したことがわかっているものもいるそうです。

そういえばつい先日も、前を走る車のリアウィンドウに子ヤモリがしがみついているのを見かけました。どの子ヤモリもニホンヤモリのこどもだったかどうかはわかりませんが、ひとの暮らしのそばでたくましく生きていることに驚きます。でも最近では、身を隠す隙間の多い古い木造家屋が減ったり、殺虫剤や防虫剤の影響で餌となる虫が減ったりして、生きづらい環境になってきているといいます。巣箱を住まいに選んだのも、ニホンヤモリなりの新しい生き方なのかもしれません。

巣箱を住まいに選んだのも、ニホンヤモリなりの新しい生き方なのかもしれません。

ほんの少しだけ秋めいてきた8月の終わり、巣箱のかけてあるエゴノキにはヤマガラがやってくることが多くなりました。仲間とにぎやかに鳴きかわしながら実をついばみます。巣箱はといえば、ひっそりしていて日向ぼっこ姿も見かけなくなりました。冬眠に向けて今のうちに栄養をつけようと夜通し狩りをして、昼間はぐっすり寝ているのかもしれません。気になってちょこちょこ巣箱を見ていたら、たそがれどきに巣穴から顔を出しているヤモリに気がつきました。今から出かけようとあたりを確認していたのでしょう。すぐそばで暮らすいきものたちのことを思うとき、こころの奥行きが少しだけ広がるような気がします。

巣箱の住人がヤモリになるとは思ってもみませんでしたが、おかげでいろんなことを教えてもらった夏でした。

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