鹿児島市立いしき園。救護施設と養護老人ホームを併設する施設です。
昭和48年に開設され、経済的な理由に加え、何らかの理由で一人では日常生活を営むことが困難な方々、81名が暮らしています。開設から46年が経過し、施設の老朽化が進みました。今後どうするか検討が重ねられ、民営化が決まり、来年3月で閉園することになりました。
来年2月~3月にかけて入園者のみなさんはここを離れ、新しい施設に移ります。みんなで、いしき園の桜を堪能できるのは、今年が最後です。桜のもとで、名残を惜しむ人たちの姿がありました。
いしき園の広い敷地の中に、桜は施設の建物を囲むように植えられています。ヤマザクラから咲き始め、3月下旬にはソメイヨシノが一気に花開きました。
高齢化が進み、救護施設の平均年齢は69歳、養護老人ホームの平均年齢は80歳を超えました。歩行が不安定な人も増えてきましたが、毎週火曜日の朝の歩こう会は、今も続いています。
施設のまわりは自然がいっぱい。天気の良い日は思い思いに、園庭を散策する人の姿がみられます。
前園春三さん80歳は、この施設で暮らすようになって29年になります。
「この施設に来たのが、52歳の時だったからね~、来年でもう30年になるよ。ここは、私の我が家。昔は、まだみんな若かったから、この庭に出て一緒にゲートボールなんかをしおったのよ。今年の桜は、またきれいだねぇ。」
長濱利子さん83歳。ここに来て8年が過ぎました。
「朝、カーテンを開けると目の前いっぱいに桜が広がってるよ。ここは静かでよく眠れるの。離れたくないよ。」
藤山カヨ子さん84歳。
「私は、ここの施設のまわりの庭を一周するのが好きなの。ここは、隣が小学校(西伊敷小学校)だから、いつも子どもたちの声が聞こえてきて、それが楽しみ。」
「ほら、ここのヤマザクラはもう散ってる。花びらが雪みたいね。」
長年、この施設で働いてきた西郷ヨシ子さんが、桜の花を見に来ていました。
「今が一番きれいね。」
西郷さんは、この施設が出来た昭和48年から平成18年まで、介護職員として働いてきました。当時、鹿児島市の市立病院で看護師として働いていましたが、いしき園は子育てしながら働ける職場だと聞いて転職しました。
「3人の子どもを育てながら、ここで33年間、働いてきましたよ。ここは働きやすくて、私たちに続いて市立病院の看護婦さんが次々とここで働くようになったんですよ。みんな和気藹々としていて、入所者さんとも家族みたいでしたよ。
今もその頃からの入所者さんがおられます。夜は、桜の花びらが宵やみに白く浮き上がって、すごく幻想的で、宿直の日には、よく見に行くもんでしたよ。桜の季節になると、みんなでお弁当を囲んでお花見したり、焼き肉なんかもしましたよ。
今より入所者の方もずっと多かったですから、賑やかでね。時代の流れなんでしょうけど、ここが無くなるのは、本当に寂しいですね。」
蓮華の花を摘んでいる人も見かけました。
静かでゆったりとした時間が流れています。
桜の花を見ながら、利子さんがつぶやきました。
「こん桜を連れていこごちゃっ。」(この桜を、一緒に連れていきたい…)
この施設を自分の家として長い時間を過ごし、暮らしてきた人たち…
来年からは、救護施設、養護老人ホーム、それぞれに分かれて、引き継がれる社会福祉法人が運営する施設での新しい生活が始まります。
来年の春には、職員のみなさんともお別れです。
この場所で、「いしき園」の人たちをずっと見守り続けきた桜の花。この花のもとで、幾つもの思い出がありました。
その思い出を心に刻みながら、咲き急ぐ桜とのひとときを、穏やかに愛おしんでおられるように感じました。