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「暮らし」

九州北部豪雨から10か月シリーズ1 朝倉市「三連水車の里あさくら」


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活気を取り戻した「三連水車の里 あさくら」

昨年の7月5日、福岡県と大分県を中心とする九州北部で発生した集中豪雨。
朝倉市では、1時間雨量129.5ミリ。24時間の総降水量が545.5ミリを記録し、どちらも観測史上1位を記録。

筑後川の支川の堤防があちこちで決壊し、大量の土砂や流木で川の流れが塞がれ各地で浸水被害が発生。また、地滑りやがけ崩れもあちこちで発生しました。この災害で亡くなった方は39人。そして、今も2人の方が行方不明となっています。

その甚大な被害の様子は、テレビや新聞等で見てきましたが、これまで実際に足を運んだことはありませんでした。
豪雨から10か月たった現在の被災地の様子はどうなっているのか、特に被害の大きかった朝倉市を訪ねてみることにしました。

朝倉市は、福岡市から高速を使って車で1時間ほどのところにあります。

まず私が訪ねたのは、地元の野菜や果物・特産品を販売している「三連水車の里 あさくら」。この施設がある朝倉市山田は、被害が特に大きかった場所の一つとして度々テレビでも見てきたところでした。

三連水車の里 あさくら 三連水車の里 あさくら

広々とした駐車場の奥に立つ「三連水車の里 あさくら」。
私が訪ねた日も、ひっきりなしに買い物客の車が出入りし、多くのお客でにぎわっていました。
三連水車の里 あさくら
当時の様子と10か月経った現在の様子を櫻木 和弘館長に伺いました。

「三連水車の里 あさくら」 櫻木 和弘館長「三連水車の里 あさくら」
櫻木 和弘館長

「台風の時、車のワイパーを一番早く動かしても、2~3メートル先が見えないようなバケツをひっくり返したような雨が降る時がありますよね。台風の時はせいぜいそんな雨は1時間くらいでおさまりますけど、あの時はそんな雨が5~6時間ずっと降り続けたんです。本当に今まで経験したことのないようなものすごい雨でした。」

7月5日は、櫻木館長はたまたま仕事が休みで朝倉市内の家にいたそうですが、昼前から雨が激しく降るようになりました。

昼ごはんの後、家の前の道路を見ると、茶色の水が流れています。
いつもと違う様子に不安を覚えていた館長のもとに店から連絡が入ります。

激しい豪雨で従業員13人が家に帰れなくなる恐れがあるので、店を午後3時に閉めていいか?という連絡でした。館長もそれに同意しますが、その頃にはすでに店舗前の道路に濁流が押し寄せ始め、予想を超える速さで増えていきました。

国道を走っていた路線バス、乗用車10数台も駐車場に避難してきました。
結局、従業員は家に戻れず、避難してきた人と合わせて24人が、店内で一夜を明かしました。

7月5日・・すさまじい濁流が押し寄せる

当日の、店舗すぐ横の山田交差点の様子です。
いつもは国道が走っている場所に、すさまじい濁流が流れています。

当日の山田交差点付近・・(写真提供 櫻木和弘館長)当日の山田交差点付近・・
(写真提供 櫻木和弘館長)
現在の山田交差点現在の山田交差点

店内も濁流が流れ込み20センチほど浸水しました。
そして、水が引き始めた夜中、店の前を見ると土砂や流木が大量に流れ込んでいました。

浸水している店舗・・(写真提供 櫻木和弘館長)浸水している店舗・・
(写真提供 櫻木和弘館長)
店舗の玄関付近・(写真提供 櫻木和弘館長)店舗の玄関付近
(写真提供 櫻木和弘館長)

櫻木館長は6日朝5時に、店舗の様子を見るために、家から車で向かいましたが、途中からは流木や土砂で道路が寸断されていたため歩いていきました。

左側の方が櫻木館長・・(写真提供 櫻木和弘館長)左側の方が櫻木館長・・
(写真提供 櫻木和弘館長)

そして、従業員達の無事を確認し、店舗の建物自体が大きな被害を受けていない事にひとまず安堵しましたが、周りの被害状況は想像をはるかに超えていました。

豪雨から一夜明けて・・

山田交差点付近  (写真提供 櫻木和弘館長)山田交差点付近
(写真提供 櫻木和弘館長)
(写真提供 櫻木和弘館長)(写真提供 櫻木和弘館長)

「今回被害を大きくしたのは、流木なんですね。今回の豪雨では、本流の筑後川ではなく、それに流れ込む小さな支流があちこちで氾濫しています。普段の雨なら支流のまわりの森林に雨水はしみ込んでいきますが、今回は森に水が浸透しきれずに、地滑りを起こし、そこに植えられていた樹齢40年~50年程の杉の木等が倒れ、濁流と共に一気に流れてしまったんです。そして多量の流木が橋げたなどに引っ掛かり、流れをせき止めて、氾濫が拡大したんですね。」

(写真提供 櫻木和弘館長)(写真提供 櫻木和弘館長)

「多量の土砂と流木を取り除くために、少なくとも2~3か月は営業を再開できないと思いましたね。しかし、早く再開しないと農家さんたちが困ることになりますよね。」

「三連水車の里 あさくら」に生産物を出荷している農家の方はおよそ300人。今回の災害で、被害を受けた農家も多くいましたが、一方で幸い被害を受けなかった農家さん達もいました。栽培している野菜や果物は収穫の時期を迎えているのに、直売所に2~3か月も出荷できなかったら、農家さんにとっては死活問題です。

そこで櫻木館長は、従業員30人を、1.店舗を復旧する班 2.記録や、取引先への対応をする班 3.生産物の販売を考える班 の3班に分け、分担して作業を進めることにしました。

そして、販売担当の班は、福岡市の大型ショッピングセンターや総合病院などに声をかけ、店頭などで野菜の販売を出来るように交渉。店舗が再開するまでは、各地に野菜を持って行って販売しました。

朝倉郡筑前町「みなみの里」で販売(写真提供 櫻木和弘館長)朝倉郡筑前町「みなみの里」で販売
(写真提供 櫻木和弘館長)

その間、店舗の復旧をしなければなりません。
幸いなことに、実家が土木会社の生産者の方がいて、大型重機をすぐに手配。
大きな流木や土砂の除去を急ピッチで進めて下さったそうです。

(写真提供 櫻木和弘館長)(写真提供 櫻木和弘館長)

また、お茶の取引をしている福岡県八女市星野村の方たちも、災害から3日後に、重機を持って作業に駆けつけてくれました。

星野村は、2012年の豪雨で大きな被害を受け、その時多くのボランティアの方たちに助けられたので、今回は自分たちが朝倉のために役に立ちたいと手伝いに来てくれたのです。

復旧作業をする星野村の皆さん (写真提供 櫻木和弘館長)復旧作業をする星野村の皆さん 
(写真提供 櫻木和弘館長)

三連水車の里 あさくら 19日ぶりに再開

こうした多くの方たちの善意と努力で、予想よりもかなり早く復旧は進みました。
そして災害から19日目の7月25日、店舗を再開することが出来たのです。

(写真提供 櫻木和弘館長)(写真提供 櫻木和弘館長)

櫻木館長は、復旧作業の途中で気づいたことがありました。

当初は、店舗を早く片付けて、早く再開しようと、自分たちの事ばかりを考えていたそうです。しかし、店舗の前の国道は、片側通行になっている上に、行方不明の方を捜索する緊急車両や重機、マスコミの車など多くの車が道路の脇に止まり、車の流れが滞る事もしばしば。そこで、広い駐車場の一部を、作業車やマスコミの車の待機場所にする事に気づき、途中から、駐車場を使ってもらうようにしました。

現在の直売所前の国道現在の直売所前の国道

「早い段階で気づき、取り急ぎ駐車場の一部の土砂を除去して待機場所に提供していたら、もう少し通行もしやすかったかもしれません。その時は、自分たちの事で頭が一杯で、まわりの状況を考える余裕がなかったんですね。しかし、こうした緊急事態こそ、全体を見て判断していく事が大事だと感じました。」

取り急ぎ駐車場の一部の土砂を除去して待機場所に提供

店舗が再開しておよそ9か月。
再開当初は、お客も例年より2~3割ほど少なめでしたが、8月15日頃のお盆を過ぎた頃からお客が増え始め、現在まで、例年を上回るお客でにぎわっているそうです。

小さい写真で紹介 小さい写真で紹介 小さい写真で紹介 小さい写真で紹介
「三連水車の里 あさくら」 櫻木 和弘館長「三連水車の里 あさくら」
 櫻木 和弘館長

「やはり嬉しいのは『頑張って下さい!』『応援しています!』というお客さんからの励ましの声です。年配の方たちも、『ボランティアで働きたくても体が動かんから、せめて買い物をすることで復興のお役に立ちたい』とか言ってくださるんで、本当にありがたいです。

たくさん買い物していただくと、それだけ農家の収入が多くなりますので、農家の方々の励みにもなっていると思います。

まだまだ朝倉の復興には時間がかかると思いますが、朝倉は元気です!
これからも皆さんのご支援に感謝しながら頑張って行きたいと思います。」

朝倉の復興には時間がかかると思いますが、朝倉は元気です!

被災しながらも、災害からわずか19日で店を再開した「三連水車の里 あさくら」
現在は、多くの買い物客でにぎわい、活気を取り戻しています。

ところで、現在、直売所の建物前の芝生広場は、まだ、流入した土砂に覆われたままです。
しかし、今月末から本格的な復旧作業が始まり、今年の秋ごろまでには、前の姿に戻る予定です。

三連水車の里 あさくら
三連水車の里 あさくら
そして直売所から400メートルほどのところに「三連水車」があります。
約220年前に作られた国内最古の灌漑用の水車で、国の指定史跡になっており、朝倉の観光名所の一つになっています。

2016水車開放(17) ※写真は災害前の2016年に撮影したもの                    (写真提供 櫻木和弘館長)※写真は災害前の2016年に撮影したもの
(写真提供 櫻木和弘館長)

この三連水車、水害で土砂に埋まりながらも、奇跡的に原型をとどめ、昨年も稲作の時期に水田に水を送るために稼働しました。
今年はまだ動いていませんが、6月17日に稼働開始予定。10月中旬頃まで回り続ける予定です。

各地にまだ、災害の爪痕が残りながらも、皆さん、前を向いて頑張っていらっしゃいます。
そんな方たちをこれからもご紹介していきます。

次回のシリーズ②では、被災したご自宅での生活を10か月ぶりに始めたご家族の話をお伝えします。

お知らせ

「三連水車の里あさくら」の産直マルシェがゴールデンウイークに期間限定で博多リバレインモールにオープンします。

期間:4月28日(土)~5月6日(日)
時間:10:30~18:00
場所:博多リバレインモール1F
(福岡市博多区下川端町3-1)

「三連水車の里 あさくら」

福岡県朝倉市山田2192-1
朝倉ICより車で5分
TEL: 0946-52-9300
営業時間 8:00~18:00
定休日  1月~2月第三木曜日/年末年始

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