要約筆記をご存知ですか?鹿児島市の要約筆記者・池端てるみさんのお話 

人生の途中で、聴力を失ったり難聴になったりして、話すことはできても聞くことは難しい。そんな方々に、聞こえた情報や話し手の意図をつかんで要約し、最適な文言で書いて伝える、それが要約筆記です。

鹿児島市の池端てるみさんは、要約筆記のパイオニア。

聴力を失った友人との出会いがきっかけで要約筆記を学び始めて20年余り。今では、指導者としても活躍しています。要約筆記普及のために力を注ぐ池端さんにお話をうかがいました。

池端てるみさん
池端てるみさん

要約筆記との出会い

25年ほど前のこと。池端さんはご主人から、近所に引っ越してくる同僚の奥さんが、突然耳が聞こえなくなってしまった中途失聴の方なので、それとなくフォローしてほしいと頼まれました。

池端さんにとっては、耳に障害のある方との交流は初めての経験でしたが、筆談でやりとりしながら仲良しに。そして、ある誘いを受けました。

「要約筆記をやってみない?って。我が子のPTAで聞こえなくて困っていた友人は、ひとりでいろいろ調べて要約筆記の存在を知ったみたいなんです。」

やってみようと思った池端さんは、さっそく要約筆記の奉仕員を養成する鹿児島県の講座を受講。ボランティアとして活動を始めました。

求められるのは同時性と正しさ

耳に障害を持つ方のコミュニケーション手段は手話と考えがちですが、中途失聴や難聴の方にとって、手話を習得することは新しい言語を一から学ぶのと同じくらい難しいこと。そのため、池端さんのような要約筆記をする人の存在が大きな助けとなるのです。

PTAなどの会議に参加したり、病院を受診したり相談ごとをしたりする際、手書きで同時通訳をするように、聞き取った話の内容を要約して手際よく文章にまとめて書いてくれるので、それを見てタイミングよく発言したり、質問したりすることができるのです。

ノートテイクの様子
ノートテイクの様子

1.0の太めのボールペンで大きな字で書きます

OHCでの要約筆記
OHCでの要約筆記
カメラを使って会場全体に要約筆記を映し出すことも

そのために、要約筆記者に求められるのは、同時性と正しさだと池端さん。

「人って、1分間にだいたい200~300字話すといわれてるんですけど、それを書くってなると、手書きで80字くらいが限度なんです。一瞬の判断力と語彙力で、最適な言葉を選んで要約する力が必要です。そのためには訓練が欠かせません。」

池端さんは、県外で行われる勉強会や研修会に出かけたり、読書で言葉をみがいたり、人の話を聞くとき、どうまとめようかと頭の中でシミュレーションしたりして、努力を重ねてきました。

「支援した方が、的を射た意見をぴしーっと発言されたり、賛成反対の手を挙げたりして、その場に参加できてる状況をそばで見られるのが、すごくうれしいんですよね。」

出会いに恵まれて

池端さんがこれほど要約筆記に打ち込めたのは、家族の応援はもちろんですが、駆け出しの頃に出会ったある中途失聴の方の後押しがあったからでした。

「当時の鹿児島県中途失聴者・難聴者協会の会長さんなんですけど、いつも、要約筆記があればどこへでも出かけられるし発言もできる、要約筆記が命だとおっしゃって下さいました。働き盛りの30代で失聴されて仕事も辞められて、その状況を受け入れるのはとても大変だったと思うんです。でも、自分が聞こえなくなったのには意味がある、これからの中途失聴の方々のために、要約筆記があるよ仲間がいるよって訴えていきたいんだと常におっしゃっていて、一緒に活動していると、もっと頑張ろうという気持ちになりました。」

やがて池端さんは、NPO法人全国要約筆記問題研究会という全国組織で中核を担う存在に。

2011年に、高い専門性をもった要約筆記者を養成するためのカリキュラムと試験制度が厚生労働省によって設けられると、その指導者養成講座を受講。

また、全国統一要約筆記者認定試験を受験して合格、それまでの奉仕員から要約筆記者というプロフェッショナルとして活動できるようになりました。

こうした制度ができたことは、要約筆記を続けてきた池端さんたちにとっても、また、要約筆記を必要としてきた方々にとってもうれしいことでした。

「新しい制度が決まったのは、会長さんが亡くなる直前だったんですよね。その頃には目も見えなくなってらっしゃったので、掌にひらがなで書いて報告したんですよ、そしたらすっごく喜んで下さって。」

会長さんは間もなく亡くなりましたが、ある遺言を残していました。

「葬儀に要約筆記をつけてほしいと、私の電話番号が書かれていたそうです。私のことをいつも『いけよん』って呼んで、要約筆記を始めるきっかけになった友人にも『いけよんを連れてきてくれて感謝しなくちゃね。』って言ってくれた方でした。私がこれまで要約筆記を続けてこられたのは、会長さんの存在が大きいですよね。」

要約筆記に救われて

現在は、NPO法人全国要約筆記問題研究会の鹿児島県支部長と鹿児島市登録要約筆記者の会の会長を務める池端さん。

奄美市難聴協設立
奄美市難聴協設立
奄美市での講演の様子

これからの要約筆記者を育てるための講座で講師をしたり、要約筆記について知ってもらうための活動をしたりと多忙な日々ですが、実は昨年4月にご主人を亡くしました。

「朝、元気で出かけて行って、そのまま、倒れて亡くなったんです。ほんとに突然だったので…。でも要約筆記が救ってくれたかなって。ひとりで家にいると沈んでしまいますけど、どうしても出かけなくちゃならない講座がありますからね。」

そもそも池端さんが要約筆記を始めたのは、ご主人が中途失聴の友人にひきあわせてくれたから。ご主人はどんな時でも、池端さんの活動を応援してくれました。

「要約筆記は、夫が結びつけてくれた縁だから、これだけはやめられないなあって。亡くなってから殊更そう思うんです。いつもほんとに応援してくれてましたから。今もこの辺にいるような気がします。」

要約筆記は池端さんにとってまさに天職。要約筆記を必要とする方々のため、そして、これからの要約筆記者を育てるため、〝いけよん〟池端さんは走り続けます。

要約筆記者の派遣は

鹿児島市では
鹿児島市手話通訳者・要約筆記者派遣運営協議会
TEL:099-219-5882

その他の市町村では障害福祉関係課で派遣申請できます

要約筆記者の養成は

鹿児島市では
鹿児島市障害福祉課
TEL:099-216-1272
鹿児島県では
鹿児島県視聴覚障害者情報センター
TEL:099-220-5896


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投稿者: てのん記者