前回は、庭の巣箱にシジュウカラが巣作りを始めたところまでをお伝えしました。その暮らしを間近で見るのは初めてのことでしたので、日々巣箱の様子が気になって仕方ありませんでした。ちょっとしたことに心配したり喜んだり感心したり。せっかく我が家に来てくれたのですから、無事に子育てしてほしいと願うばかりでした。今回はその後の様子をお伝えします。
産卵した?ヒナはかえった?変化するつがいの様子
4月に入ると、メスは巣箱で過ごすことが多くなり、オスは巣から少し離れたところでさえずるようになりました。いつものようにオスの合図でメスが巣箱から飛び出し、オスと合流して出かけていきます。エサとなる虫を食べに行くのでしょうか。シジュウカラのメスは1日にひとつずつ、平均8~9個の卵を産み、全ての卵がそろってから抱卵を始めるそうなので、もしかしたら産卵が始まっているのかもしれません。
ある日の夕方、洗濯物をたたみながら何げなく巣箱の方を見ると、オスとメスとでくちばしを合わせている姿が。小さなイモムシを口移ししているようで、一羽が片方の羽根を小刻みに震わせています。ほんの数秒の出来事でしたが、とても美しい光景でした。この頃からエサをくわえたシジュウカラが頻繁にやってくるようになったのですが、一瞬で巣箱に入ってしまうので、オスなのかメスなのか見極めることが出来ません。
オスはたまにしかさえずらなくなり、鳴き声ひとつたてずにやってくることもしばしば。巣箱への出入りも、まばたきしていては見逃すくらいに俊敏になってきました。この時期はどの鳥も子育てに一所懸命。シジュウカラにとっての天敵カラスもヒナのために餌を探していますから、決して巣箱の場所を知られないように細心の注意を払っているのでしょう。4月も半ばになると、持ち帰ってくる昆虫がだいぶ大きくなってきました。一羽が巣箱の中に入っているときに、もう一羽がやってくることもあるので、オスだけでなくメスもエサを運んできているようです。

オスやメスが巣箱に入ると、シィシィシィシィとかかすかに声がします。ヒナがかえっているようです。巣箱から出てゆくシジュウカラが何やら白い塊をくわえていることも。親鳥は巣のなかを清潔に保つためにヒナの糞を持ち出すと聞いたことがありますので、やはりヒナがいるようです。
しばらく見ていたら、エサをくわえた親鳥は15分ほどの間に3回やってきました。山の方から家々の屋根を越え、我が家の上空で少し旋回してエゴノキの枝にとまり、素早く巣箱へ。中からは、か細いけれど元気な声が聞こえてきます。またすぐに飛び去ってゆく親鳥。ヒナのおなかを満たすために休む間もありません。
留守の間に巣立ってしまった!
巣箱の中から聞こえるヒナの声は日に日に大きくなってゆきました。親鳥のエサ運びは相変わらずでしたが、4月の下旬になると今までのようにすぐには巣箱に入らずに、少し離れた電線にとまって、今まであまり聞いたことのない声でしきりに鳴くようになりました。
ヒナと親鳥の鳴き交わす声
そんなある日のこと。外出先から帰って、いつものように巣箱の様子を見てみると、なんと、エゴノキの葉陰にヒナがいるではありませんか。親鳥がつがいで警戒しながら見守っています。またすぐに出かけなくてはならなかったため、巣穴から出ようとしていたヒナを慌ててスマホのカメラで撮るのが精いっぱい。その後を見届けることはできませんでした。なんとも残念。とはいえ親鳥に見守られて巣立ったのですから、きっと無事に旅だったことでしょう。
空っぽの巣箱を見てはしんみりしていたのもつかの間、巣立ちから3日ほど過ぎたころでしょうか、巣箱をのぞいているシジュウカラが。以前と同じシジュウカラなのか別なのかはわかりませんが、その後も何度かやってきました。子育てにいい巣箱を探しているのかもしれないと思い、中を掃除することにしました。
巣箱をあけるとコケや獣毛がしきつめられていて、ヒナたちがいたと思われるところにくぼみができていました。食べ残しの昆虫が少しあるだけで、とてもきれいです。

形を崩さないようにそっと取り出してみると、5~6センチの厚みがあります。こんなに集めるのは大変だったと思います。

さわってみると、ふかふかしていて柔らかく、くぼんだ所には毛がたっぷり使われていて暖かそう。親鳥の細やかな仕事ぶりと根気に驚きました。

シジュウカラと隣人でいられたのはひと月半ほどでしたが、とても幸せな日々でした。きれいになった巣箱は、また元の場所で次の入居者を待っています。実は掃除をしようと巣箱をあけたとき、中の壁にヤモリがいました。慌てて逃げだしてしまったので申し訳なかったのですが、次の入居者はもしかしたらヤモリかもしれません。それはそれで大歓迎。巣箱はいま、青々と茂ったエゴノキの葉で程よく隠れていますので、だれかの安心できるすみかになったらいいなと思います。