母が昔作っていた鹿児島の「ゆべし」は、味噌と唐辛子が入ったゆず餅で、子供の頃はその味になじめませんでした。しかし、最近あの味が恋しくなり、母に作り方を聞いたり郷土料理の本を見ながら作ってみました。すると、濃い柚子味噌味に唐辛子がピリッと効いたあの懐かしい「ゆべし」が出来あがり、大人になった今は癖になるような美味しさを感じました。材料も作り方も意外とシンプルで、これからは柚子が手に入る時期は必ず作りたいと思いました。
全国各地にある「ゆべし」
ゆべしは「柚餅子」と漢字で書き、主にゆずを使った食品加工品のことを言うそうですが、全国的には実に様々なゆべしがあるようです。
鹿児島出身の私は味噌と唐辛子の入ったものしか思い浮かびませんでしたが、石川県などでは柚子の実の中身をくり抜いた中に、もち粉や柚子の皮、砂糖を入れて乾燥させた丸ゆべしが作られています。新鮮な柚子が手に入りにくい東北・北関東周辺ではクルミを入れたくるみゆべし、岡山県では、もち粉や水飴、刻んだ柚子の皮などを合わせて煮詰め、乾燥させた備中ゆべしが作られています。
そして、たまたま福岡のデパートで福島県のゆべしが売られていたので、一つ購入してみました。
調べてみるとこの形は、鶴が翼を広げた姿に見立てたものだそうで、柚子がほのかに香るモチモチした皮の中にこし餡が入っていて、鹿児島ゆべしとはまた違う上品な美味しさでした。
「ゆべし」と言っても、全国各地で作り方や材料、形は実に様々で、その土地で育った人達にとっての馴染みの「ゆべし」がある事がわかりました。
そして、鹿児島の「ゆべし」はなかなか個性的なんだなぁと思いました。
鹿児島のゆべし
先日、桜島サービスエリアのお土産売り場に立ち寄ったら「鹿児島ゆべし」が売られていました。鹿児島に帰省してもなかなか「ゆべし」は販売されていないので、さっそく購入しました。
原材料を見ると確かに、味噌、餅粉、柚子、唐辛子、胡麻・・などとなっています。
母が作っていたものより少し色が濃いですが、使っている味噌の色の違いかなと思いました。
食べてみると、濃厚なゆず味噌の味の中にピリッと唐辛子が効いて、少し食べただけでお茶が欲しくなります。お茶請けにはもちろん、お酒のおつまみにも合う味だなあと思います。このゆべしももちろん美味しかったのですが、母が作っていたゆべしとはちょっと違う感じでした。
そこで、母に作り方を聞いたり、郷土料理の本を見ながらゆべしを作ってみる事にしました。
私が小さい頃、母は時々作っていました。普段のおやつというよりは、田舎の親戚の家に行く時の手土産や、実家の農作業の手伝いに帰る時、お茶請けとして作っていたように記憶しています。そばで母が作るのを見たりもしていましたが、もち米粉や砂糖、柚子の皮を入れるまではいいのですが、そこになぜ味噌をたくさん入れるのか、さらに唐辛子まで入れるのか、子供にとってはあまり嬉しくないお菓子作りでした。味も好きになれませんでした。しかし父はこのゆべしが好物で、母が作った時は、「お〜、ゆべしを作ったか。」と嬉しそうに口に入れていた父の姿を思い浮かべます。
母は、今年90歳となり、作り方はしっかり覚えているのですが、正確な材料の割合までは記録していないので教えてもらえませんでした。
それで、作り方を参考にしたのは、農山漁村文化協会発行の『日本の食生活全集 46 聞き書 鹿児島の食事』です。
もち米粉10、赤味噌10、砂糖5〜10・・と書いてあるので、それと同じ割合で材料を用意したらいいと思い、準備しました。
購入したもち米粉が一袋に170g入っていたので、それに合わせました。
鹿児島のゆべしの作り方
「ゆべしの材料」
- もち米粉・・・170g
- 味噌・・・・・170g(麦味噌を使いました)
- 砂糖・・・・・150g
- 柚子・・・・・1個(皮の部分だけ使う)
- ごま・・・・・15g程度
- 一味唐辛子・・小さじ半分程度
- 水・・・・・・50cc〜60cc程度
- まず、柚子の皮の所だけ薄くむいて、それを細かくみじん切りにします。本にはすりおろすと書いてあったので最初はすってみましたが、すぐに実の所まですれて、実の汁が混ざったり上手くいかなかったので、みじん切りにしました。
- もち米粉、砂糖、味噌、柚子の皮をよく混ぜ合わせます。
本には水を加えるとは書いてなかったので、味噌や柚子の皮の水分で材料はまとまるのかな?と思っていたのですが、とてもまとめる事は出来ません。
母に聞いたら、「少しずつ水を加えてこねていったらまとまるよ。一度にたくさん水を入れたらベチョベチョになるから、慎重に水を入れながらこねるんだよ」と言ったので、少しずつ水を加えてこねたら、50cc〜60cc位入れた所で上手くまとまりました。意外と水はそんなに入れなくてもいい事がわかりました。
- 本には五寸くらいの長さに整えて竹の皮に包むと書いてあります。五寸って何センチ?
調べたらおよそ15センチだったので、その大きさに整えます。ちょうど3本できました。
母は、「竹の皮はそんなに手に入らないからサランラップに包んで蒸したらいいよ。」と言っていたのですが、せっかくならとネットショップで竹の皮を購入していたので、本に書いてある通り、2本は竹の皮に1本は食品用ラップフィルムに巻いて蒸す事にしました。
- ゆべしを蒸し器に入れて蒸します。本には3時間ほど蒸すと書いてあったので「そんなに蒸すの?」と驚きましたが、母に聞くと「いや〜、1時間くらいでも十分蒸せると思うよ」と言ったので、蒸し具合を見ながら時間を決める事にしました。そして確かに1時間位蒸したらしっかり蒸し上がった感じになり、念のためと思い結局1時間20分程蒸しました。
食品用ラップフィルムに巻いたゆべしを見ると、色もベッコウ色になり、ツヤも出て美味しそうです。そしてしっかり冷めてから、ラップフィルムと竹の皮をはがす事にしました。ラップフィルムで巻いた方はきれいにはがれたのですが、竹の皮をはがそうとしたら、しっかりと生地が竹の皮に付いてきれいにはがれません。そこでどうしよう?と思ったのですが、とりあえず竹の皮につつんだ方はしばらく冷凍庫に入れてかなり冷たくしてからはがしたら、なんとかきれいにはがれました。
昔はラップフィルムなんてありませんし、以前、鹿児島の郷土菓子「あくまき」を母が作った記事を書いた時、竹の皮には殺菌作用があると知ったので、竹の皮で巻く事で腐りにくくなるし、保存食としても向いているんだと思います。しかし、母がラップフィルムで巻いたらいいよとアドバイスしてくれた通り、今はわざわざ竹の皮で蒸さなくても大丈夫だと言う事を学びました。
出来上がったゆべしを2本並べましたが、手間が竹の皮に巻いて蒸したもの。奥がラップフィルムに巻いて蒸したものです。竹の皮で蒸した方が少し色濃く仕上がりました。
さあ、味はどうでしょうか?
お茶と一緒に食べてみます。
モチモチとした食感で、濃厚なゆず味噌風味。そしてあとからピリッとした唐辛子の辛さがほどよく口に広がり、とても美味しく感じます。母が作っていたゆべしの味がしました。
味が濃厚なので、少しずつかじりながらお茶も進みます。小さい頃は好きになれなかったゆべしでしたが(確かに子供向きのお菓子ではないかもしれません)、今では父の気持ちがわかります。ちょっと癖になる美味しさを感じました。
同じ鹿児島出身の夫ですが、あまりゆべしを食べた記憶がないそうで、今回作ったのを食べてもらったら「これは美味しいね。濃密な味で確かにお酒のおつまみにもなりそうだね」と感想を述べていました。
この「鹿児島ゆべし」材料も特別なものはなく、柚子が実る時期だったら身近にそろうものばかりです。そして、作り方も、蒸すのに時間はかかりますが、材料を混ぜるだけなのでいたってシンプル。農作業の合間の休憩時などに食べた事を想像すると、塩分も糖分もあって、しかも唐辛子で体も温まり、お茶も進むし、疲労回復などにもってこいのお茶請けだったのではと思います。
鹿児島のゆべしがどのような経緯で、こういう作り方になったのかは分かりませんが、全国様々なゆべしがある中で、鹿児島ゆべしは独特な鹿児島ならではのものである事は間違いありません。
小さい頃の味の記憶が塗り替えられ、癖になりそうな美味しさを感じたので、これからは、柚子の出回る時期には必ず作りたいと思います。