「暮らし」

団地に楽しいよりどころを!めざすは住民みんなが顔見知りのまち


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「池端さんが新しい活動を始めてるから、お話聞いてみたら?」友人からそんな連絡をもらいました。「池端さん」というのは、2018年8月にご登場いただいき「要約筆記」のお仕事について教えてくださった池端てるみさんのことです。

聴力を失った友人との出会いをきっかけに、聞こえた情報を要約して文字にして伝える要約筆記の技術を身につけ、聴くことに困難を抱える方々を支えてきた池端さん。困っている人を見過ごさず、自分にできることがあれば迷わず動く生き方が、強く心に残りました。そんな池端さんが、今度はご自身の住む団地を元気にするために一役買っているというのです。どんな活動をなさっているのか、お話をうかがってきました。

要約筆記をご存知ですか?鹿児島市の要約筆記者・池端てるみさんのお話 人生の途中で、聴力を失ったり難聴になったりして、話すことはできても聞くことは難しい。そんな方々に、聞こえた情報や話し手の意図をつかんで要...

誰でも気軽に「てのんで・かふぇ」へ

池端さんが暮らしているのは、鹿児島市郊外の高台にある伊敷団地。昭和40年代に造成された住宅団地で、完成とともに多くの子育て世代が居住し、住民が1万人を超えた時期もありましたが、今は3411世帯7458人が暮らしています。(鹿児島市の推計人口の令和4年8月1日現在のデータより)子ども世代は成長して多くが団地を離れ、親世代は高齢化。そうした現状を住民として肌で感じていた池端さんは、ひとり暮らしのお年寄りのことが気にかかっていました。

「体力的に介護サービスなどのヘルプを使うほどではないけど、あちこち出かけるのはちょっと大変。そんな方たちが気軽に出てこられる場所を作りたいよねって、ご近所の友人3人と話していたんです。できるかしらって考えていても始まらないので、とにかくやってみようってカフェを開くことになりました。」

池端てるみさん池端てるみさん

友人の1人が自宅で雑貨のお店を開いていたことから、その場を借りて月に1回第4月曜日に、参加費100円で誰でも立ち寄れるカフェをオープンしました。その名も「てのんで・かふぇ」。「てのんで」は「一緒に」を意味する鹿児島弁で、お茶を飲みながらご一緒にお話しましょうという気持ちが込められています。

オープンした時のてのんで・かふぇオープンした時のてのんで・かふぇ

スタートしたのは2019年の4月。手作りのチラシを地元の美容院に置いてもらったり、池端さん達の自宅の壁にはったりしてカフェのオープンを知らせ、初回は9人の方が訪れました。

かふぇでのおしゃべりの様子かふぇでのおしゃべりの様子

同じ思いを持つ仲間が増えた

ちょうどそのころ、住宅団地の活性化の方策を住民主体で考えてもらおうと、鹿児島市が3つの団地でワークショップを開いていました。伊敷団地もその対象となっていたことから、池端さんも参加することに。住民の有志が集まって団地の魅力や課題を出し合い、5つのグループに分かれて話し合いを進めたそうです。池端さんは「誰もが気軽に集まれる場を作りたい」という思いで意気投合したグループの一員になりました。メンバーのなかには池端さんが昔からよく知っている顔も。地元で「大栄家具インテリア」を営む宮下幸男さんです。

宮下幸男さん宮下幸男さん

宮下さんは地元で30年以上続いてきたお店の二代目として、地域のために何かできることはないかと考えていました。

「お店にいらっしゃるお客さんから、いろんな話を聞くんです。買い物が不便になったよねとか、最近交流が少なくなったよねとかね。それならみんなが気軽に立ち寄れる場所をつくろうと思って、お店の一角をカフェスペースに改装しました。母も協力してくれて、週に1回手作りの惣菜なんかも販売するようになったんです。それからしばらくして、知人がワークショップのことを教えてくれたので参加してみたら、池端さんがいらっしゃったんですよ。思いがつながっていく感じで面白いですよね。」

お店のカフェスペースお店のカフェスペース

グループで話し合いを進めるうちに、あれこれ言っているよりまずは動き出そうと、フリーマーケットを開催することになりました。リーダーは宮下さん、グループ名はみんなで話し合って「i(あい)がずんばいnishiishiki」(以下i-ずん。読みは「あいずん」)に決まりました。

伊敷団地は住居表示上は西伊敷で、ローマ字で書いたnishiishikiにはiがずんばい(いっぱい、たくさん)あることから、「愛がずんばい」とかけてこの名前になりました。
「グループのみんなの思いが同じだったので、ま、やってみっが!というメンバーの言葉がきっかけになって動きはじめました。とにかくやってみて、あとは失敗しながらいい方法を見つけていけばいいんじゃないかと思ったんです。」

フリーマーケットは2019年の11月に開催。グループメンバーの野菜やタコスのお店をはじめ、地元住民の手作り雑貨のお店や子どもたちの駄菓子屋さんが出店、地域包括支援センターの介護相談コーナーもあって、およそ200人が参加しました。

フリーマーケットの様子
フリーマーケットの様子フリーマーケットの様子

翌年の11月には、地元の親子を招待して廃材を活用したベンチづくりのワークショップを開催。完成したベンチは地元の福祉館や介護施設にもプレゼントしました。

ワークショップの様子ワークショップの様子

「i-ずん」はメンバーが入れ替わりながらも10人ほどが活動し、興味を持ってくれる住民も増えてきましたが、新型コロナの影響でその後のイベントの開催は休止せざるをえませんでした。それでも、池端さんの「てのんで・かふぇ」は、鹿児島県に蔓延防止等重点措置が出された2021年8月と9月を休みにしただけで、月1回のオープンを続けました。外出を控える方がいる一方で、毎回楽しみにしている方がいたからです。

「参加者が4、5人に減った月もありました。でも、コロナだからといって閉めてしまったら、もうできなくなる、消えてしまうと思ったんです。楽しみにしてきてくれる方がいる限りは続けようと思いました。」
そして今年4月、「てのんで・かふぇ」は新しい場所で開催されることになりました。

新たなよりどころで「てのんで・かふぇ」

9月の第4月曜日、月に1度の「てのんで・かふぇ」にお邪魔してみました。日当たりのいい平屋に、手作りののぼりが立っています。

日当たりのいい平屋に、手作りののぼりが立っています。

この日は、思わずため息の出るような季節外れの蒸し暑さ。いつもいらっしゃる方々がなかなか姿を見せないので、池端さんたちスタッフはみなさんの体調を心配していました。今日はどなたもいらっしゃらないかしらと話していると、80代のご常連の女性がゆっくりとした足取りでいらっしゃいました。席に着かれるとくつろいだご様子で、早速みんなとのおしゃべりが始まりました。昔ながらのいもあめの作り方、日々の料理の悩み、最近の物価高騰の話など、会話はどんどん広がります。

昔ながらのいもあめの作り方、日々の料理の悩み、最近の物価高騰の話など、会話はどんどん広がります。

ご常連の女性は、「てのんで・かふぇ」に来るのが楽しみだと話してくださいました。
「おうちにいるとテレビばかり見てしまいますでしょ。ここに来れば誰かしらいらっしゃってお話しできるのがいいんですよ。昔は店先でお茶のみがあったりしてお年寄りがおしゃべりして過ごしていましたけど、今はそんな場所はありませんものね。ここでは、新しい情報にもふれられて楽しいんですよ。」
この日は走る魚屋さんもやってきて、晩ごはんの買い物をすませる方も。

この日は走る魚屋さんもやってきて、晩ごはんの買い物をすませる方も。

実はこの家、東京に本社のあるまちづくりにも関わる会社「ランドブレイン株式会社」の鹿児島事務所で、地元住民の活動にもスペースを貸し出しているのです。「i-ずん」結成のきっかけとなった鹿児島市主催のワークショップに携わっていたこの会社が、鹿児島事務所を伊敷団地に構えて住民の活動にも開放したいとの意向があったことから、リフォーム中の空き家を見つけた池端さんと宮下さんが大家さんに相談、みんなの居場所になるならと快諾を得て、今年1月に開設されました。愛称は「あいなか4丁目の家」。

伊敷団地の「真ん中」にある、日常の「合間」に誰もが集える場所ということで、鹿児島弁で「真ん中」とか「合間」という意味のある「あいなか」が名前になりました。新たなよりどころができたことで、「てのんで・かふぇ」もこの家で開くことになり、コロナ禍で休止していた「iずん」も再始動することになりました。

「あくてぃぶてのんで・かふぇ」でひとのつながりをふやそう

「i-ずん」の活動再開後初のイベントは、今年5月に「あいなか4丁目の家」の庭で開かれた「あいなかにわさき市」でした。出店ありウクレレの演奏ありと盛りだくさんで、100人以上が訪れたそうです。その実績が認められて「i-ずん」の活動に鹿児島県から補助金が交付されることになり、6月からは「あくてぃぶてのんで・かふぇ」と銘打って、毎月1回テーマを決めてイベントが開催されています。より幅広い世代の住民に参加してもらおうと、これまでの「てのんで・かふぇ」とイベントが合体した、いわば進化形が「あくてぃぶてのんで・かふぇ」なのです。これまで、キッチンカーのピザ屋さんを招いてのピザ作り体験、七夕飾りづくり、夏休みの子供向けのサマースクール、大人向けの俳句大会と、多彩なイベントを開いてきました。

6月のピザ作り体験6月のピザ作り体験

「あくてぃぶてのんで・かふぇ」が目指すのは、地域まるごと顔見知りになること。「i-ずん」リーダーの宮下さんは手ごたえを感じています。

「参加した方も僕たちも、楽しいのが一番ですよね。ピザづくり体験をやったときは、これまでピザを食べたことのなかったお子さんが初めて食べたって、お母さんがすごく喜ばれて。そのお母さんもまわりの方たちと楽しそうに話をしていました。もともと知らなかった人同士が、イベントを通して顔見知りになってくれたらうれしいですよね。これからもっと仲間を増やしていって、みんなが住みたい、住み続けたいと思えるような団地になったらいいなと思います。」

あくてぃぶてのんで・かふぇに向けて準備中の「i-ずん」のみなさんあくてぃぶてのんで・かふぇに向けて準備中の「i-ずん」のみなさん

池端さんは、「てのんでかふぇ」をもっと広げていきたいと考えています。
「いまは、あいなか4丁目の家でやってますけど、ほんとうはそれぞれの丁目ごとにてのんで・かふぇがあればいいねって話してるんです。そして、ほかの団地にも広がっていけばいいなと思います。実はもう、明和でも始めた方がいらっしゃるんですよ。」

思いを持って始めたことは、同じ思いを持つ人に広がって、現状を少しずつ変えていくのかもしれません。あれこれ考えているよりもまず動き出す、今回の取材で何度も耳にした言葉でした。地域の課題を自分ごととしてとらえ行動するのは簡単なことではありませんが、池端さんたちは気負わず楽しんで活動しているのが印象的でした。「地域まるごと顔見知り」で、適度なおせっかいを焼く人があちこちにいる、そんな団地は心強くてなんだか暮らしやすそうです。池端さんたち「i-ずん」の活動が、地域の方々を巻き込んでどんな伊敷団地を作っていくのか楽しみです。

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