「生き方」

ミツバチとともに生きていきたい!養蜂家をめざす12歳、上水流勇気さんのおはなし


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「ミツバチが頑張って働く姿が好きなんです!」いきいきとそう話してくれたのは、上水流勇気さん12歳。勇気さんは幼い頃に、いちご農家の叔父さんのハウスで、花の受粉のために活躍するミツバチに出会い、すっかりとりこになってしまいました。

以来、養蜂家の方のお話を聞いたり、実際に観察したり、関連するたくさんの本を読んだりして、ミツバチのことを学んできました。今では、自ら巣箱を持ってミツバチを飼育しています。養蜂家の夢に向かって一歩一歩進んでいる勇気さんに、大好きなミツバチの話を聞かせてもらいました。

上水流勇気さん上水流勇気さん

ニホンミツバチと勇気さん

勇気さんにお話をうかがおうと訪ねたのは、鹿児島市松元町の山あいにある、お食事処里見遊山。ここは、ニホンミツバチの愛好家でつくる「遊蜂(ゆうほう)の会」の拠点になっていて、勇気さんはその会員なのです。

ニホンミツバチの愛好家が集う里見遊山ニホンミツバチの愛好家が集う里見遊山

勇気さんは3年ほど前、ミツバチが好きという縁で、遊蜂の会会長の木脇貞義さんと出会いました。木脇さんにニホンミツバチを分けてもらい、これまでは叔父さんの畑に巣箱を置いて飼ってきましたが、昨年10月に遊蜂の会が発足したのを機に、この春から里見遊山の敷地に新しい巣箱を置かせてもらうことになりました。

遊蜂の会会長の木脇貞義さん遊蜂の会会長の木脇貞義さん

 

勇気さんの新しい巣箱勇気さんの新しい巣箱

ニホンミツバチは、もともと日本に住んでいるミツバチです。穏やかな性格で、刺激しなければ人を刺すことはほとんどないそうで、勇気さんにとってはいい友達です。

「ニホンミツバチはおとなしくて、とてもかわいらしい顔をしていて、僕にとってはペットみたいな感じです。クヌギやクリの花、レンゲや菜の花などから、1年を通して蜜を集めます。キンリョウヘン(ラン科の植物)の花が大好きで、巣箱に下げておくと寄ってきます。」

確かに、勇気さんと一緒に巣箱に近づいても攻撃してくることはなく、よく見ると黒くて丸っこくてかわいらしい姿です。

ニホンミツバチ(木脇貞義さん撮影)ニホンミツバチ
(木脇貞義さん撮影)

 

巣箱に下げたキンリョウヘンの鉢巣箱に下げたキンリョウヘンの鉢

春から夏にかけては、ミツバチの分蜂(ぶんぽう)のシーズン。ニホンミツバチは、巣が手狭になったら、古い女王蜂は新しい女王蜂に巣を譲り、半数ほどの働きバチを連れて出ていき、別の場所に新しい巣をつくります。

これを、「分蜂」とか「巣分かれ」というのですが、ニホンミツバチを飼おうという人々にとってこの時期は、その分蜂の一団に入ってもらうために新しい巣箱を設置する大切なシーズン。新天地を求めて移動中の分蜂集団に入居してもらうおうと、ニホンミツバチが好むキンリョウヘンの花の香りで巣箱に誘うのです。

勇気さんのために会長の木脇さんが新しく作ってくれた巣箱にも、3月の末に、分蜂してきたニホンミツバチが入りました。

「分蜂してきたニホンミツバチが入ってくれて、とてもうれしいです。前に畑で飼っていたときに、巣から分蜂していったことは何回かあるんですけど、その時もとてもうれしかったです。分蜂というのは、ニホンミツバチが増えるということですから、とてもいいことなんです。」

ニホンミツバチといえば、最近ではその蜂蜜が人気ですが、今の勇気さんの興味はもっぱらミツバチそのもの。ニホンミツバチが増えていくのが大きな喜びです。

分蜂の途中で木にとまっているニホンミツバチ(木脇貞義さん撮影)分蜂の途中で木にとまっているニホンミツバチ
(木脇貞義さん撮影)

勇気さんによると、ニホンミツバチはあまり人の手を借りずに暮らしていけるので、飼うのにさほど手間はかからないそうですが、巣の材料を食べてしまうスムシという害虫がいて、その被害を受けると全滅してしまうこともあるそうです。

実際、勇気さんが以前飼っていたニホンミツバチも被害を受けました。新しい巣箱は勇気さんの自宅からは遠く、平日は学校があるので頻繁に様子を見に行くことはできませんが、木脇さんと一緒に見守っていこうと思っています。木脇さんも、勇気さんを頼もしく感じていて、巣箱にとどまらず、勇気さんのこれからを息長くサポートしたいと考えています。

「遊蜂の会は、蜂蜜を採る楽しみを入り口にしてニホンミツバチを飼う人が増えて、結果としてニホンミツバチの数が増えたらいいと思って活動していますが、今は、農薬や害虫などの影響でミツバチが生きていくのには厳しい環境です。勇気が養蜂家になったとき、養蜂一本でやっていくのは大変だと思うので、ケーキ屋さんとコラボして蜂蜜を使った商品を作ったり、蜜蠟を使った癒しの商品を作ったりして、勇気をサポートしていけたらと思ってるんですよ。」

心強い応援を受けながら養蜂家をめざす勇気さん。この1月からは、叔父さんの畑の一角でセイヨウミツバチも飼い始めました。勇気さんがミツバチに夢中になるきっかけになったのも、セイヨウミツバチ。ぜひ見せてほしくて、日を改めて勇気さんを訪ねることにしました。

セイヨウミツバチと勇気さん

春休み最後の日、勇気さんは、イチゴのビニールハウスが並ぶ叔父さんの畑にいました。休みの間は毎日、イチゴのハウスで働くお母さんと一緒に朝5時には家を出て、ここでセイヨウミツバチの世話をしてきました。勇気さん、早速セイヨウミツバチの巣箱に案内してくれました。この巣箱は勇気さんがホームセンターから木材を買ってきて、一から作ったものです。

勇気さんが作ったセイヨウミツバチの巣箱勇気さんが作ったセイヨウミツバチの巣箱

「セイヨウミツバチの巣箱には、巣枠っていうのを入れて、そこにミツバチに巣を作ってもらって蜜を採るんです。ひと箱に7枚くらい巣枠を入れるんですけど、この巣箱は作ったばっかりなので、別の巣箱からミツバチの住んでいる巣枠を2枚もらってきて始めました。

人工分蜂っていうんですけど、これから新しい巣枠を1枚から2枚とゆっくりと増やしていきます。そうしないと、ミツバチが無理して巣を作ろうとして病気になってしまうんです。」

勇気さん、矢継ぎ早に、でもわかりやすく巣箱のしくみを教えてくれました。本職さながらの知識にびっくりです。

巣枠の枠の部分 ここに「巣礎」と呼ばれるシートを張って巣箱に入れます巣枠の枠の部分 ここに「巣礎」と呼ばれるシートを張って巣箱に入れます

 

巣箱のふたを開けたところ ゆっくり巣枠を増やしていきます巣箱のふたを開けたところ ゆっくり巣枠を増やしていきます

「セイヨウミツバチは、蜜を採るためにヨーロッパから輸入された外来種です。ニホンミツバチと違って気性が荒くて、仲間を守るために何匹かで襲ってくることもあります。刺されるとちょっと痛いです。昨日、巣箱の置き場所を少し変えたので、今日はちょっと騒いでますね。」

勇気さんによると、新しい巣箱には、様々な指示を出す女王蜂がまだ誕生していないので、みんなどうしていいかわからず、ちょっとした刺激にもすぐにパニックになってしまうのだそうです。

実際この日も、勇気さんは巣箱のなかを詳しく見せてくれるつもりだったのですが、ミツバチたちが落ち着きをなくしているということで、そっとしておくことになりました。素人にはよくわからない小さな変化に気づくのも、毎日見ている勇気さんだからこそでしょう。

巣箱の様子を見る勇気さん巣箱の様子を見る勇気さん

 

巣枠に巣を作り始めたセイヨウミツバチ(後日勇気さんが写真を送ってくれました)巣枠に巣を作り始めたセイヨウミツバチ
(後日勇気さんが写真を送ってくれました)

「セイヨウミツバチは、朝9時くらいに巣を出て、夕方6時くらいに帰ってきます。ダニを連れて帰ってくることもあって、そのままにしておくと巣箱全体のミツバチにひろがってダメになってしまうので、よく様子を見てあげないといけないんです。」

ダニはミツバチの体液を吸ってしまう恐ろしい害虫で、幼虫についてしまうと、羽根のない成虫になってしまうのだそうです。ニホンミツバチの場合は、お互い体をこすり合ったりハーブの茂みに入ったりして自らダニを落としてしまうそうですが、セイヨウミツバチは自分たちでダニを落とすことができないので、人の手でこまめに見てあげる必要があるそうです。

また、気温が12~13℃より低くなると動けなくなって蜜を採って来ることができないので、冬場はエサも与えなくてはならないそうです。ニホンミツバチと違って手のかかるセイヨウミツバチですが、それでも勇気さんは、自分で飼ってみたいとずっと思ってきました。

「セイヨウミツバチがいるから、イチゴやメロンができて、農家さんが助かってる。自分も誰かの役に立ちたいなと思って、飼育したいと思ったんです。」

叔父さんのイチゴのハウスでは、養蜂家の方から巣箱を借りて、セイヨウミツバチに花の受粉を担ってもらっています。勇気さんは、働くセイヨウミツバチの姿にあこがれて、自分もミツバチを飼うことでみんなの役に立ちたいと思うようになったのです。

イチゴの花にとまるセイヨウミツバチ(勇気さん撮影)イチゴの花にとまるセイヨウミツバチ
(勇気さん撮影)

そんな勇気さんを見込んで、叔父さんのイチゴのハウスにミツバチを貸し出している養蜂家の一人が、この1月から巣箱を一つ、任せてくれることになりました。

「勇気君が育ててくれると農家さんも助かるよって。巣箱を任せて下さった方には跡継ぎがいらっしゃるんですけど、その次は勇気君だよって言ってくれました。」

任せてもらった巣箱のミツバチから増やしたのが、勇気さん自作の新しい巣箱です。勇気さんはやる気いっぱいで、今年のうちにもう一箱、巣箱を増やしたいと考えているのですが、新学期が始まると週末にしか来られなくなってしまうので、ちょっともどかしく思っています。

勇気さんへ…お母さんの思い

この春、勇気さんは鹿児島県立鹿児島養護学校中学部に進学します。小学校の低学年の頃に自閉スペクトラム症との診断を受け、地元の小学校では特別支援学級で学んできた勇気さん。養護学校への進学は、自ら希望して決めました。

お母さんの裕子さんはこう話します。
「本人が行きたいと言うので、センター(鹿児島県発達障害者支援センター)の先生とも相談して決めました。小さいころからずっとミツバチが好きで、今では高校にはいかずに養蜂家になるって言ってますので、本人がやりたいっていうことを伸ばしてあげたいんです。」

お母さんの裕子さんと勇気さんお母さんの裕子さんと勇気さん

裕子さんは、勇気さんの障がいがわかった当初は、ずいぶん悩んだといいます。
「受け入れるのに二年くらいはかかりました。でも、センターの先生に相談しながら、いいフォローをいただきながら、障がいはこの子の個性だと思えるようになりました。私は、勇気に教えられたなあと思ってます。」

勇気さんのミツバチへの深い興味が、これからを生きる力になるとのアドバイスに励まされて、裕子さんは、勇気さんとミツバチとの時間を大切に見守ってきました。

「この子が養蜂家になったら、障がいを持っていてもやればできる、頑張ればできるって思ってもらえると思うんです。勇気はこれまで、いいご縁ばかりいただいてきました。周りの方々がこの子をかわいがって下さって、いい道を作って下さるので、ほんとうにありがたいです。」

ミツバチとともに生きていきたいという、勇気さんの一途な思いにひきつけられ、みんな思わず応援したくなってしまうのでしょう。よき理解者と、何より、勇気さんをまるごと愛しているお母さんがいてくれる幸せ。裕子さんのとなりでニコニコと話をきいている勇気さんが、なんだか輝いて見えました。

裕子さんの思いのこもったイチゴをいただきました。裕子さんの思いのこもったイチゴをいただきました。

裕子さんが持たせて下さったイチゴには、こんなメッセージがありました。
「ひとつぶの母の想い
あなた様の家族の健康を思います!いつもいつもありがとうございます。」

胸が熱くなりました。イチゴのハウスで、勇気さんのセイヨウミツバチとお母さんが一緒に働く日がくるのが、今からとても楽しみです。

勇気さんが養蜂家として独り立ちした日には、またその姿をお伝えしたいと思います。

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