これまで「てのん」にご登場いただいた方々が、今、新型コロナウイルスとどう向き合い、どう乗り越えようとしていらっしゃるのか、オンラインで結び、率直に語っていただくシリーズ。5回目は、福祉界のリーダー林田貴久さんのインタビュー第2弾。コロナ禍の中、仲間と立ち上げた介護改革プロジェクトについて聞きました。
シリーズZoomインタビュー動画
社会福祉法人恵仁会
特別養護老人ホーム鹿屋長寿園 法人統括本部長兼施設長
林田貴久さん
Change.org(チェンジ・ドット・オーグ)で介護改革にチャレンジ!
第1回のZoomインタビューで、高齢者福祉事業を展開する法人の指揮官として、新型コロナウイルスとの向き合い方についてお話して下さった林田貴久さん。
その時、とても興味深い話を聞きました。介護現場で働く4人の仲間と新しいプロジェクトを立ち上げたというのです。早速そのお話しを伺うことになりました。
「これは、新型コロナの問題が起きたからということではないんです。僕らが日頃から沸々と感じてきたことがあって、それをかたちにしたら今になったという感じです。
メンバー?みんなちょっと変わった人たちです。(笑)仕事場もそれぞれ違って、しょっちゅう会える訳ではないんですが、飲みながらだったり、電話だったり、年に何回か温泉に泊りに行ったりして、今の介護に対する思いを語ってきました。
これまでその声を表に出すことは無かったんですが、そういうことが出来る場があることを知って、チャレンジすることにしたんです。」
林田さんたちは、「変えたい」気持ちをかたちにするオンライン署名サイトで、世界に3億人を超えるユーザーをもつChange.org(チェンジ・ドット・オーグ)に参画。「介護を当事者の手に取り戻す」プロジェクトを掲げて、賛同者を呼びかけるキャンペーンをスタートさせました。
気の合った仲間との新しいソーシャルアクションに林田さんの表情も和らいで、とても楽しそう。5月11日に行われたZoomインタビューでしたが「僕らこのプロジェクトで10万人の賛同者を集めるという壮大な夢を持っているんですけど、今278人なんですよ。(笑)
「てのん」さんでも、是非宣伝して下さい!」など、思わず笑いが溢れるようなリラックスした雰囲気でのインタビューとなりました。
「介護を当事者の手に取り戻す」プロジェクト
プロジェクトのタイトルを聞いた時、「介護は今、当事者のものになっていないの?」「何が失われているの?」そんな気持ちになりました。すると林田さんは70年近く前の日本での介護のはじまりの話をして下さいました。
「介護保険が始まって20年になりますが、ある調査では、全国の9割の自治体が制度そのものの維持が困難と答えています。これはかなり由々しき問題だと思っているんです。介護保険が出来てすごくいい面もあったと思うんですが、保険という制度になって、介護が本来持っていた『いたわりの心』みたいなものが失われてきたように思うんです。
そもそも日本で(社会的)介護が始まったのが1950年代で、長野県の上田市という小さな町で、隣の人が困っているからその人を助けたいという純粋な気持ちからスタートしているんです。(介護保険制度が始まって)介護度がついて、あなたはこの介護度ですから、いくら分の介護が使えますよみたいなことが先になって、何か一番大事なものがすっぽり抜け落ちているんじゃないかと思うことが多くなったんです。」
おじいちゃんの「コーラ飲みたい」の声
「大事にされるべきことが失われつつある」つい最近、そのことを感じる出来事があったそうです。
それは、林田さんの施設で暮らすあるおじいさんのささやかな願いにまつわるエピソードでした。
「この前、ある方が『コーラが飲みたい』っておっしゃったんです。胃瘻をしている方でしたが、口からも少し食べられるんです。僕はたまたまその声を聞いたんで、コーラを飲ませたら、ほんとうに嬉しそうにして飲まれたんです。まわりにいる多くのスタッフがこの方がコーラを飲みたがっていることを知っているんですけど、誰もコーラを飲ませようとしないんですね。
胃瘻なので、むせ込んだりすることを心配したのかもしれないし、専門職からストップがかかっていたのかもしれません。それは分かるんですが、高齢になって80歳が目前の人が『コーラが飲みたい』って言う。この些細な思いが叶えられないような世の中(介護の現場)って何なの?って思うんです。昔は寿司を食べたいと言ったら、寿司屋に食べに連れて行ったり、結構してたんですよ。
施設ではお粥しか食べられない人が、普通にお寿司を美味しそうに食べたりするんです。(笑)当時は今ほど専門的なケアはなかったかもしれないけど、介護はこういうことが面白いし、原点だと思うんです。利用者の思いや願いに気づき、その人がその人らしく生きていくことを支援をしていく…そういうことこそ僕らがするべき仕事なんじゃないかと思います。」
プロジェクトを立ち上げた4人は、今も介護現場の最前線にいます。自ら「この仕事は誰のために、何のために」と問いかけながら、高齢者の人生の支援を真ん中に据え、介護する側もこの仕事に誇りを感じられる社会に変えていきたいと考えています。
多彩なプロジェクトメンバーたち
インタビューの中で林田さんは、メンバーのことを愛情たっぷりに「面白くて変な人たち」と評していました。4人は40代から50代、それぞれがこの仕事への誇りと志をもって向かい合ってきました。プロジェクトへの思いを聞いてみました。
黒岩尚文さん(51)株式会社浪漫 代表取締役
プロフィール: 姶良市に共生ホーム「よかあんべ」霧島市に地域サポートセンター「よいどこい」を立ち上げる。大切にしているのは「最期までその人らしく」「人は人の中で人になる」「人は誰かの役に立ちたい」「誰もおいていかない」「住み慣れた地域で」林田さん曰く「昔からの飲み仲間でこの世界の同志」
「高齢者介護の仕事は、高齢者のお世話をしているだけにしか見られないのかもしれません。でも私たちの仕事は、心の奥底にある『声』を一緒に考え、代弁し、その人が創りあげてきた人生の物語を全うできるように支援していくことにあると思っています。
この仕事の価値がもっと社会の中で評価され、介護を仕事とする人が、やりがいをもって臨めるようになってほしいと思います。みなさんは、どこを向いて仕事をしていますか?
制度や組織の手続きや仕組み、上の人の方を向くんじゃなくて、どんな時も支援する当事者の方を向いていたいと思います。そんな正直にこの仕事と向き合っている人たちと手を繋ぐことが出来たら、このプロジェクトは面白いことになるんじゃないかと思っています。
私は小規模多機能ホームの全国組織(全国小規模多機能型居宅介護事業者連絡会)の副理事長を務めていたりもするんですが、このプロジェクトは肩書や組織に寄らず、4人が、介護の現場で働くひとりとして参加し、一人ひとりの声を積みあげていくことを大切にしています。当事者がしあわせになり、主役となれる高齢者介護のこれからを一緒につくっていきましょう。」
苙口 淳さん(45)
プロフィール: 株式会社浪漫 統括部長 姶良市の共生ホーム「よかあんべ」管理者 作業療法士 林田さん曰く「彼はスーパーセラピスト。誰からも好かれ、人を包み込む人間性が凄い」
「介護は、人と人のやり取りの中で心を通わせていく仕事です。1日1日の積み重ねの中で信頼関係を築きながら、ご利用者の笑顔に出会えた時、何にもかえがたい喜びを感じます。この満足感は数値ではあらわすことが出来ませんが、これこそが介護の魅力だと思っています。
今、その一番大事にされるべき『人と人との関係』や『それを築いていく過程』が軽んじられているようで寂しいです。この仕事を始めて23年。私自身もこの仕事をはじめた頃の原点に立ち返ってみたいと思っています。この仕事が好きで「人が好き」でこの仕事を選んだ人たちと一緒に、自分たちの仕事に誇りがもてるような、感動を感じ合えるような福祉の世界を一緒につくっていければと思っています。」
濵田桂太朗さん(40)
株式会社ユニティ セカンドプレイス株式会社 代表取締役
プロフィール: 作業療法士 10年前に起業。県内4カ所(霧島市、姶良市、曽於市)でデイサービス事業を展開。訪問看護、居宅支援事業などで高齢者の在宅生活を支える。高齢になっても障がいをもっても、誰もが社会の中で役割をもって役に立つことができる社会の実現を目指して活動。
林田さん曰く「彼の活動は、ユニークでアクティブ。高齢者が伐採木で積み木をつくって保育園にプレゼントしたり、高齢者と障がい児の共有型事業を展開したり面白いことをしていますよ。」
「今、世の中で発展している業界は、30代、40代の人たちがどんどん入ってきて、エネルギッシュに動いていますよね。でも介護の世界では、ほぼいない。年収350万円~400万円では、若い人や男性は、将来を見据えてやっていけないと思うんです。
生の体と体が触れ合って、ある意味リスクの高い仕事がこのままの状態でこの先、発展していけるかと思った時に、この仕事の社会的な地位を高めて、この仕事をする人を増やしていかなければいけないと思います。
私たちに続く人たちが介護の仕事を選んで、やり続けることが出来るような社会にしなければとならないと思います。そのレールを敷くために、みんなの力を結集するのがこのプロジェクトだと思っています。」
それぞれが、このプロジェクトへの思いを自分の言葉で話して下さいました。
家族にも誇れる介護職でありたい
林田さんたちは「当事者が主体となる介護」「血の通った人生の支援」を呼びかけながら、介護の仕事の社会的地位の底上げを求めています。介護職員の年収ベースを公務員並みに引き上げていくことも盛り込みました。
自分たちの仕事の立ち位置をしっかりさせることが、この仕事の未来を拓いていくことに繋がるという信念からでした。林田さんは、この仕事を選び、この仕事を長く続けてきたひとりとしてこう話します。
「自分の子どもが親の仕事を見た時に、うちのお父さんってあんな仕事をしてたんだ、すごいなぁって言ってもらえるような仕事でありたいですよね。
人が人として人生を全うしていく、そういうことを支援するためにこの仕事を始めたので、どういう状況であっても、それだけは恥ずかしくないようにやっていきたい。そういう思いの方々とこの業界をこれから頑張ってつくっていきたいと思います。」
そしてもう一つ。新型コロナウイルスへの対応に目を奪われる中、介護の現場でも、虐待や身体拘束など間違った考えが生まれやすいのもこの時期だと指摘します。
人が人としてあたり前に尊重されるべき権利が侵害されるようなことは絶対にあってはならない。どんな大変な状況になっても僕らは、利用者を軽んじることはやっちゃいけないと強いメッセージを送りました。
インタビューを終えて
今、介護現場は人手不足に喘いでいます。新型コロナウイルスの感染拡大によって介護離れはさらに加速するのではと危惧されています。こんな時だからこそ、自分たちの仕事の立ち位置をしっかりと定め、自分たちは「誰のために、何のために」この仕事をしているのかという問いかけが必要なのかもしれません。
プロジェクトメンバーのみなさんの「組織や職種を超えて手を繋ぎ、一緒に自分たちが主体となる介護をつくりあげよう。」という呼びかけは、きっと現場で働く人たちに力を与えることでしょう。逆風の中にある「今」だからこそ、その声がより力強く伝わってきました。
林田さんたちは、
プロジェクトに賛同する方々を募っています!
プロジェクトに関する詳細はこちらから…・
プロジェクトは、現場実践者が主体となる人生の支援【LIFE IS ONESELF~人生は自分自身のもの】を掲げ、誰もが大切にされる社会の実現を目指しています。
目指すは10万人の賛同者。その声を国に届け、政策提言へ繋げる計画です。