令和元年度鹿児島県ビジネスプランコンテストの受賞者にお話をうかがうシリーズ。今回は、一般部門23件の応募の中から、最高賞の大賞を受賞した林峻平さんのご紹介です。
林峻平さんは、1年半前に伊佐市に移住してきました。林さんのビジネスプランは、伊佐の木材資源を薪として活用し、火のある暮らしを体験できる宿をつくり、これまでの立ち寄り・通過型だった伊佐の観光を滞在・交流型へと転換させていこうというものです。
プラン名は「薪を燃やして地域を熱くする!~地域資源活用による伊佐不便化計画!”」「不便さ」をあえて新たな価値として、宿を拠点に伊佐の豊かさを堪能する体験型の新しいビジネスを興していこうというものです。
林さんの描く「地域創生型」のビジネスプランとは?
大賞受賞者は、伊佐を愛する地域おこし協力隊員
大賞を受賞した林峻平さんは、伊佐市の地域おこし協力隊員として活動しています。
伊佐市の地域おこし協力隊・第一期生として、主に観光振興と情報発信分野を担当し、新しいアクティビティの開発や伊佐の魅力の情報発信に力を注いできました。伊佐の「面白い」を発信する林さんの地域ブログ『イサタン』は月間15000ページビューの訪問がある人気ブログです。
地域おこし協力隊とは
人口減少や高齢化等の進行が著しい地方で、地域外の人材を受け入れ、地域協力活動を行ってもらう。地方自治体が募集し、地域おこしや地域の暮らしなどに興味のある都市部の住民を受け入れ、地方への定住・定着目指す。地域力の維持・強化を目的として総務省が2009年度から制度化。
林さんってどんな人?どんなビジネスに挑もうとしているの?色々知りたくて林さんの仕事場、地域おこし協力隊の詰所がある伊佐市役所・大口庁舎にお邪魔してきました。
「伊佐市には、今6人の協力隊員がいるんですよ。今日は取材があるっていうので、みんなどこかに行っちゃったみたいですけど(笑)野草・薬草の活用を進めている人、漆塗りをやっている人、ジビエの可能性を探究している人などそれぞれ得意分野や興味の幅があって個性的。ここを拠点にみんなあちこち飛び回っています。」と笑顔で迎えて下さいました。
―改めまして、大賞受賞おめでとうございます!
「ありがとうございます。でも、ほんとは大賞を受賞できるなんて思ってもいませんでした。大きな収益性を見込めるものではありませんでしたから。大賞はこのプランへの激励と受け止めています。伊佐にもっとたくさんの人たちに来てほしい。ここで一緒に楽しいこと、面白いことをやってみたいっていう思いをぶつけました。」
そもそも、どうして地域おこし協力隊に?
北海道大学を卒業後、6年間株式会社ニトリに勤務していたという林さん。急成長を遂げる企業で店舗管理や海外拠点の管理業務などの重要な仕事に携わってきました。希望していた海外勤務も叶い、制度化されたマニュアルのクオリティを高めていくことでニーズに応えていく大量生産型の企業ビジネスを学んできました。
―そんな林さんが、どうして伊佐市の地域おこし協力隊に?
「仕事に賭けている人たちの中で仕事をさせてもらって、鍛えられ、充実した日々を送っていました。一方、ベトナム勤務中に大好きだった祖母が亡くなった際には最期を看取ることができず、家族との時間や距離、働き方について改めて考えるようになりました。
もう少し家族を大事にする生き方をしてみたいと考え、退職して実家(福岡)のある九州に戻ろうと思って調べていたところ、地域おこし協力隊の存在を知って、面白そうだなぁと思いました。
もともと一から何かを作りあげていくのをやってみたかったんです。伊佐市が『カヌーが盛ん』・『鹿児島の北海道と呼ばれている』というところにも縁を感じて、ここに決めました。(笑)」
北海道での学生時代、カヌー部に所属していた林さんは、仲間とキャンプしながらカナダの川を数週間かけて下るほどの本格的なアウトドア派。世界一周の経験もある林さんでしたが、伊佐の魅力は格別だったようです。
どうして伊佐に「宿」なの?
「ここで暮らすようになって一年半になりますが、ほんとに伊佐って楽しいとこなんですよ。四方を山に囲まれ、美しい川があり、大自然の中で思いっきり遊べるんです。
水源の森百選、森林浴の森百選に選ばれている奥十曽渓谷や水位によって見える姿が変わる産業遺産の曽木発電所遺構など、他の地域にはない面白い場所もたくさんあります。
でも、多くの観光客が曾木の滝を見たらそのまま帰ってしまう。『楽しいところはまだまだあるのに…』といつも思っていました。」
こんな素晴らしいところがたくさんあるのに、素通りしてしまっては伊佐にはお金も落ちません。伊佐には旅館やビジネスホテル、民宿はありますが、手軽な金額で体験や交流まで出来るような宿泊施設は少ない状況です。
協力隊として伊佐市の情報発信や新しい体験づくりに取り組んでいく中で、次は伊佐ならではの魅力をゆっくりと滞在しながら楽しめる拠点をつくりたいなぁと思っていました。
ビジコンに挑戦したのは、伊佐でこんなことが出来る、こんなことをしてみたいと感じてきた思いをビジネス目線で一度整理して、落とし込んでみたいと思ったからです。」
どうして「火のある暮らし」?
― プラン名が『薪を燃やして地域を熱くする!』火のある暮らしがコンセプトですね。
どうして伊佐で『火』のある暮らしなの?
「昔から焚き火が大好きでした。キャンプをしている時も、薪を集めて、火を熾して、焚き火を囲んで食事をすると、会話も弾んで、みんなの距離がグッと縮まってくるんです。
火には人の心をあたため、癒す不思議な力があるって思ってきました。でも、最近はオール電化が浸透して、火のある暮らしがどんどん減ってきていますよね。焚き火を出来るところも少なくなっています。
でも、伊佐には焚き火好きが多いだけでなく、薪ストーブを使っている人や自家製の石窯を持っている人も多く、家にお洒落な薪炊きの五右衛門風呂を作っている人など『火のある暮らし』が日常生活の中に息づいていて、楽しんでいる人がたくさんいるんですよね。
『鹿児島の北海道』と言われるくらい寒いところだからこそ『火』のありがたさやぬくもりを感じ合える場所なんじゃないかなぁと思います。」
「もともと伊佐には豊かな森林資源があって林業が盛んな土地柄です。でも高齢化で放置林や風倒木が増えてきています。ダムにたまった流木も問題になっています。
そこで地元で使われていない木材を薪として有効に活用して、エネルギーの地産地消をしながら『火のある暮らし』をめいっぱい楽しめるような場所を作りたいなぁと思ったんです。」
「火のある暮らし」を楽しむ秘密基地のような宿
拠点となる宿は、空き家となっている古民家を改修して、古材などを再利用して木のぬくもりを感じられるところにしたいと考えています。
火の揺らめきを眺めながら会話が弾むような空間をイメージしています。「物件が決まったので行ってみますか?とてもワクワクする場所ですよ!」ということで、林さんの案内でその場所に出かけました。
「色々な物件を見てまわったんですが、ここはいっぺんで気に入りました。広い庭があって、季節の木々が植えられていて、屋外での体験も色々出来そうです。
高台にあって眺めも良い。ここに住んでいた方はこの家で習字教室を開いていらっしゃったそうで、部屋には当時の生徒さんたちが使っていた筆がまだ掛かっていて、ここで楽しい時間を過ごしてきたんだろうなぁと思いました。
当時、習字教室に通っていた方々が今もこの地域に住んでいらっしゃるっていうのも良いですよね。仲間たちと一緒に手を入れながら、この家をまた人の声が行き交う場所にしていきたいなぁと思っているんです。」
林さんは、ここを拠点に、焚き火や薪割り、薪ストーブクッキングや石窯でのピザやパン焼き、ジビエ肉料理の提供など「火」にまつわる様々なアクティビティを用意して、「火のある暮らし」を楽しみ尽くす体験プランを提供していきたいと考えています。
伊佐“不便化計画!”に込める思い…
林さんがプレゼンで絶対に伝えたかったこと。「火のある生活は、少し『不便』だけれど、豊かで楽しい」ということ。「不便だけれど、豊かで楽しい時間を伊佐で味わってほしい」ということ。
都市部から決してアクセスが良いとは言えない伊佐ですが「ここにしかない」「ここでしかできない」ことを創り出せば、人は遠くからでもやって来ると信じています。去年、自ら企画したイベント「サウナ―ワンダーランド」でそのことを実感しました。
サウナをこよなく愛し、フィンランド政府観光局公認のサウナアンバサダーでもある林さんが仕掛けた九州初のテントサウナの体験イベントでした。
廃校になった布計小学校跡を舞台に薪ストーブを熱源とするテントサウナで気持ちよく汗をかいてもらって、その後はキンキンに冷えた天然の水風呂(川)にダイブ、自然の中で思いっきり遊ぼうという試みでした。
近くのキャンプ場には、地元の人たちと力を合わせて、石窯料理や焚き火しながらの野外クッキング、五右衛門風呂など伊佐をとことん楽しんでもらう「おもてなし」を用意しました。遊び心いっぱいの「サウナ―ワンダーランド」に全国から予想を超える人たちがやってきました。
「サウナ好きやアウトドアが好き、自然で癒されたい人など、色んな人が来てくれて、これまで会ったこともない人同士が仲良くなって、すごく楽しかったです。
伊佐の魅力にハマって、地域おこし協力隊として移住しちゃった人までいるんですよ。(笑)楽しいことがあれば人はやってきます。ここを好きになって、一緒に楽しむ人たちを増やしたい。」
只今、走るサウナを制作中!
林さんは、今宿となる古民家で、仲間たちと移動式のトラックサウナを手づくりしています。薪ストーブを熱源とするサウナは、まさしく火を楽しむアクティビティ。是非伊佐で体験してほしいことのひとつです。
「このトラックサウナの材料費、いくらだったと思います?30万円。(笑)ビジコンの大賞賞金と同じですね!(笑)大自然の中でサウナを楽しんで、天然の川に飛び込む爽快感はたまらないです。
こんなにテントサウナがたくさんある地域も九州内では伊佐くらいかもです。『伊佐に来たらこれやって帰らなきゃ』っていうくらいの魅力的な体験になったら嬉しいです。」
宿の始動へ向けて、これから古民家の本格的な改修に入ります。林さんは、この家を仲間たちと一緒にリノベーションして、手づくりの宿を作っていきたいと思っています。
「プロの業者さんに全て頼んだら、早くて立派に出来るのかもしれませんが、みんなでワイワイしながら作っていきたい。そういうのがやってみたいんです。
知り合いの大工さんや左官職人さんなどの力を借りながら、たくさんの人に参加してもらって、ワークショップなども絡めながら、できるまでの過程も楽しめるような宿づくりをしたいと思っています。」
幾度も「みんなで一緒に」という言葉が出てきます。
「伊佐に来てから色んな人と繋がって、みんなでこんなことやってみたいなぁとか、あの人とこんなことやったら面白いだろうなぁとか考えるのが楽しいです。
古民家には古い蔵があるんで、古着の好きな友人のガレージショップをしたらどうかなぁとか、手づくりの漆塗りの食器で食事をしたら楽しいだろうなぁとか…色々考えるだけで楽しいです。
この宿が、伊佐を楽しむ起点のような基地になっていけばいいなぁと思っています。」
面白い人たちが集い、伊佐をとことん楽しむための宿
季節によって見せる表情が多様で、奥深い魅力にあふれているという伊佐。最後に十曽池を案内してもらいました。
「この先には、水草庭園や奥十曽渓谷があって、春にはカイドウやエドヒガン桜の咲くところもあるんです。今、十曽池は、何年に一度かの水抜きをしているんです。
これも今しか見られない光景ですよね。池の土はすごく肥えていて、地元の人たちがこの時期に採りに来るみたいですよ。面白い形をした流木もいっぱいありますよ。これで流木アートとかアクセサリー作りとかをしたら楽しそうですよね。」
林さんにとって、ここにある何気ない一つひとつが心をワクワクさせてくれるものみたいです。
地域おこし協力隊としての任期は、残り1年半。「やりたいことがいっぱいありすぎて…」と言いながら、ここでの暮らしがとても楽しそうです。
「もともと宿はビジネスありきではないんです。伊佐をゆっくり滞在しながら楽しめる場所が出来ることで、伊佐のことを知って、好きになって、繰り返し来てくれる人たちが増えていけば地域全体が元気になっていく。それが、地域ビジネスに繋がっていけば嬉しいです。」
古民家×アウトドア×地産地消で地域創生を目指す林さんのビジネスは、移住者として見えてきた「伊佐にしかできない・伊佐らしさ」を武器に、地方がその地域の強みを生かしながら活性化していく一つのモデルとして大きな希望を感じました。
11月には古民家を改修した体験型の宿がオープンする予定。その日に向けて、林さんの全力疾走が続きます。
宿から「伊佐だからこそできる」どんな楽しいことが生まれてくるのか、とても楽しみになってきました。
