「福祉」

福祉界のエース!林田貴久さんに聞く 介護職の人手不足をこう乗り切る

執筆:

様々な分野で活躍し、その舵取りをする方々が描く未来予測図からこれからの時代を生き抜くヒントを探る令和インタビュー。

鹿児島の福祉界のリーダーとして活躍する林田貴久さんに福祉分野の人材不足を乗り切るヒントを伺いました。

社会福祉法人恵仁会 特別養護老人ホーム 鹿屋長寿園 施設長 法人統括本部長 林田貴久さん社会福祉法人恵仁会 特別養護老人ホーム 鹿屋長寿園
施設長 法人統括本部長 林田貴久さん

プロフィール

林田貴久(はやしだたかひさ)氏 社会福祉法人恵仁会の特別養護老人ホーム鹿屋長寿園の施設長。

鹿屋市を拠点に27の福祉事業を展開する一大福祉法人の統括本部長として総勢420名の職員を束ねる。本音をズバリと理論的に分かりやすく伝える分析力には定評があり、講師やコーディネーターとしても飛び回る。鹿児島の福祉界を牽引するリーダーのひとり。

介護職の人手不足はどれくらい深刻なのか

―介護職の人手不足が深刻ですよね。介護職が必要とされる社会で、その数が圧倒的に足りない。この矛盾をどう解消していけばよいのか。介護事業を展開する組織のトップにいる林田さんに伺ってみたいと思っていました。

介護職の人手不足について介護職の人手不足について

林田: 人手不足は、もう介護業界に限ったことではないですよね。80年後には、日本の人口は半減します。私たちは今、人口激減というジェットコースターに乗って急降下しているんです。

なのに、私たち自身がその深刻さをあまり分かっていない。人手不足はさらに深刻になるでしょう。人口が半減する社会でどう生きていくのか。確実にやって来る未来を分かった上で、明日を考えなければならないと思います。

介護職の人手不足はどのくらい深刻なんでしょうか?

林田: 2025年度、6年後、介護職員は全国で38万人不足すると言われています。圧倒的に足りない。外国人労働者に頼らなければならない時代が来ている。

私のところも去年から2人のベトナムからの技能実習生を受け入れます。でもそれだけでは根本的な解決にはなりません。

林田さんのところでも人手不足がありますか?

林田: 需要や事業は拡大しているのに、それを動かす人材がいないという現実はあります。特に福祉業界は、ある時期、マスコミによるネガティブキャンペーンもあり3K業界というイメージが強くなって、福祉職を目指そうという若い人たちが激減しました。

実際、専門学校の福祉コースも閉鎖や縮小が相次いでいます。決して未来は明るくないですよね。

待っていていても人はこない

厳しい現実がある中で、
林田さんはどんな手を打ったのですか。

人材確保について人材確保について

林田: 本当に働く人材はどこにもいないんだろうか。そこからスタートしました。私は
5~6年前から、まず地元の職業系の高校に足しげく通うようにしました。

最初は、相手にもされませんでしたよ。(笑)「福祉ですか」のひと言で門前払い。でも、何度も足を運ぶうちに、卒業後、地元で働きたいと思っている子たちが結構いることが分かってきました。

待っていてもダメだということですよね。ここ4年くらいで、うちのグループに26名が入職しました。このうちやめた子はひとり。定着しているんです。

18,19歳の子たちが、地元で長く働いてくれる。これは有難いですし、将来の貴重な人材、戦力になりますよね。

若い人たちが辞めないで定着している。
これはすごい実績ですね。

林田: 「離職者を出さない職場づくり」これが私の大きな仕事のひとつです。誤解を恐れずに言うと「福祉は人の手で」というきれいごとの精神論によって、がんじがらめになって、福祉が好きで入ってきた人まで疲れ果てて、体を壊して、辞めていってしまっている

「尊い仕事だけど、自分の子どもにはこの仕事をさせたくはないよね」っていうようなところではダメなんです。

そう思うようになったきっかけが何かあったのですか?

林田:  8年程前に農業高校を卒業した女の子が福祉の仕事がしたいって言って、うちに入って来たんですよ。身長が150センチくらいの小柄な女の子でした。

するとその子が半年くらい経って、腰を痛めて辞めたいと言ってきたんです。その時、これじゃダメだなぁと思いました。この仕事がしたいって言って入ってきた子が、体を壊して辞めなきゃいけない職場って何だろう?って。あれは堪えましたよね。

あれが私にとってのターニングポイントになりました。「働く人の体と心が健康でなければ、利用者に笑顔なんて生まれるはずがない」「体や精神を痛める仕事ならやめた方がいい」ってことです。

林田さんは、介護職に希望を持って入職した人が感じている失望感や挫折感に目を向けなければ介護職離れはさらに加速していくだろうと予測します。

林田: 国の実態調査を見ると一目瞭然ですよ。働きたいと入ってきた人は、お年寄りが嫌になったのではなく、職場の環境に悩んでいる。そのことを真剣に考え、改善していかなければ、この負のスパイラルは無くならないと思います。

介護の仕事を目指した理由と雇用条件等の不満(平成28年度「介護労働実態調査」の結果より)

☆ 介護の仕事を目指した理由
1位 働きがいのある仕事だと思ったから
2位 資格・技能が活かせるから
3位 今後もニーズが高まる仕事だから
4位 人や社会の役に立ちたいから
5位 お年寄りが好きだから

☆ 介護の仕事への不満
1位 人手が足りない
2位 仕事内容のわりに賃金が安い
3位 有給休暇が取りにくい
4位 身体的負担が大きい
(腰痛や体力に不安がある)
5位 精神的にきつい

☆ 介護関係の仕事をやめた理由
(平成28年度「介護労働実態調査」の結果【一部抜粋】)
順位 介護関係の仕事をやめた理由
1位 職場の人間関係に問題があったため(23.9%)
2位 結婚・出産・妊娠・育児のため(20.5%)
3位 法人や施設・事業所の理念や運営のあり方に不満があったため(18.6%)
4位 他に良い仕事・職場があったため(18・2%)
5位 自分の将来の見込みが立たなかったため(17.7%)
(公益財団法人 介護労働安定センター)

節子の部屋で離職率ゼロ

林田さんのところは、まず何に取り組んだのですか

林田: うちではちょっと面白い取り組みをしているんです。「節子の部屋」っていう職員さんたちの悩みの駆け込み寺になる部屋を作ったんです。

「節子の部屋」は職員のお悩み相談室「節子の部屋」は職員のお悩み相談室

 

常勤のベテラン職員・節子さんが(教育担当主任)いつでも 相談ごとに対応常勤のベテラン職員・節子さんが(教育担当主任)いつでも相談ごとに対応

ここにいる節子さんは50代半ばのベテランの介護職員さん。長い間、介護現場で働いてきたんですが、首を痛めて仕事を辞めたいと言ってきたんです。そこで「今度は、職員の相談相手になってくれませんか」と声をかけました。

マンツーマンで後輩たちの悩みを聴くだけ聴いてあげて下さいと言うスタンスです。プライベートから仕事まで色んな悩みを話しに来るみたいですよ。

そこには私たちは介入しませんから心おきなく打ち明けられる。(笑)不思議なことに、「節子の部屋」が出来てから離職者ゼロなんですよ。(笑)現場サイドに、悩みを吐き出せる、悩みの分かち合いの場があるってことが、どんなに大きいかということが分かりました。

体を壊さない仕組みづくり

精神的な負担に加えて、
体力的な限界を感じる人も多いですよね。

林田: どんな人でも、70キロ~80キロの人を毎日のように抱え続けることなんてできませんよね。自分の体が痛いのに人に優しくなんてできません。

持ち上げない介護への取り組みは絶対に必要です。国も平成25年に職場における腰痛予防対策の指針を19年ぶりに改訂しました。

(指針には、腰部に著しく負担がかかる移乗介護等では、リフト等の福祉機器を積極的に使用することとし、原則として人力による人の抱上げはおこないことと記述された。)

私のところでも、ベッドから移動するためのリフトを15台入れました。1台導入するのに70万円を超えますが、これによって職員の体の負担が格段に軽減されました。

導入したベッドからの移乗リフト導入したベッドからの移乗リフト

これを30台に増やしたいと思っています。現場が疲弊しないためにテクノロジーの活用は必要です。必要なテクノロジーを有効に活用して、介護する人もされる人もハッピーになる方向を目指すべきです。

コストがかけられないというところはスライディングボードやシートを使った移乗でもかなり軽減できるはずです。

スライディングボードを使ったベッドから車イスへの移乗スライディングボードを使ったベッドから車イスへの移乗

 

女性でも移乗負担が軽減女性でも移乗負担が軽減

 

スライディングシートを使ってスライディングシートを使って

 

体位変換体位変換

使い方の習得によって体を痛めつける介護から解放され、専門職は人間にしかできないケアに専念でき、その質を上げていくことが出来るはずです。これまでの一生懸命の方向性を変えていかなければいけません。

価値が正当に評価される介護職へ

将来の見込みが立たないと離職していく人も多いですよね

林田: この仕事を一生の仕事として続けていく人が増えるためにも、処遇の改善は急務です。国からも去年、勤続10年以上の介護福祉士には月額8万円相当の賃上げを求める方針が示されました。

事業所の裁量でということになるんでしょうが、これは大きいですよね。うちのグループにもその対象となる人が60人ほどいます。

でもこの種の話が出てくると、すぐに異業種の専門職から『何で介護職だけが』というような声が湧き上がってくるんです。でも私は『何が悪いんですか。給料上がって結構じゃないですか。みんなで喜びましょうよ。』と言いたい。

これから確実に優秀な人材は条件のいいところ、きちんとした職場環境を整えたところに流れていきます。スキルを持った人が職場を選ぶ時代になります。働く人の善意に甘えて職場環境を変えようとしないところはつぶれていくでしょう。

雇用する側が、介護の仕事の価値について報酬を含めてきちんと評価していかなれば、人手不足で倒産するところも出てくると思います。経営する側の意識改革が必要でしょうし、働く側も、プロとして自分たちの専門性を高めていく努力をしなければならないと思います。

現場が強くなる「手上げ方式」

林田さんは、現場からのたたき上げで、今も福祉の世界の真ん中にいらっしゃる。福祉がやりがいのある仕事となるために何が必要なんでしょう。

これからの介護職には何が必要?これからの介護職には何が必要?

林田: 大事なのは、現場が自ら考えて動く集団になることです。持ち上げない介護にしても、看取りケアにしても、業務改善にしても、利用者の一番近くにいる現場の声が最前線のはずなんです。

その現場が強くなって、様々な改善策や提案を出していける集団になっていくことで、介護はいくらでもクリエイティブで創造的な仕事になれるんです。

うちでは、リフトにしても、職員が使ってみて「これがいい」というものを導入しています。自分たちで事業計画を持ってきて発表したりもします。「やりなさい」ではなく、職員からの「手上げ方式」です。この世界で働いている人たちには、どんどん手をあげて、自分たちの仕事の価値を高めていく行動を起こしてほしい。

この日、林田さんから自身の著書「もう悩むな!介護主任 役割と能力」という本を頂きました。
もう悩むな!介護主任 役割と能力

一貫しているテーマは介護職の「自律」です。

貫しているテーマは介護職の「自律」です。

この本は、どんな方に、読んでほしいですか?

林田: 悩んでいない人たちに読んでほしいですね(笑)大事なのは、溢れる情報を鵜呑みにしないで自分の足で動いて頭で考えるという地道な作業を継続していくということ。「これまでこうだったから」「こうするもの」と思い込んでいた常識の殻を破って、自ら考えて、考え抜いて判断する視点を持ってほしい。
溢れる情報を鵜呑みにしないで自分の足で動いて頭で考えるという地道な作業を継続していく
思い込んでいた常識の殻を破って、自ら考えて、考え抜いて判断する視点を持ってほしい
それが、この世界に長年流れてきた閉鎖性を突破して、希望のある将来を築いていく力になると思います。

人は良い環境に集まり、良い環境で育つ

この日、林田さんは介護事業の雇用管理を担う人たちを前に、こう語りかけました。

介護分野における人材確保のための雇用管理改善セミナーにて(鹿児島市)介護分野における人材確保のための雇用管理改善セミナーにて(鹿児島市)

 

「みなさんの職場に笑顔はありますか」と問いかける林田さん「みなさんの職場に笑顔はありますか」と問いかける林田さん

みなさんの職場の環境は良いですか?利用者の方々は楽しんでいますか?職員は体や気持ちを痛めていませんか?「人がいない」「報酬が安い」「人力の方が介助が早い」「リフトにかけるお金がない」「国の政策が悪い」…こんな思いを抱えている管理者やリーダーのもとで働く職員はかわいそうです。

何より利用者は安心して生活できません。漠然とした不安はいつか本当になります。何とかなると思っていてもなんとかなる状況ではありません。まずはやるべきことをやる。そのためにも、利用者や職員の姿を見て下さい。

そこに笑顔はありますか。いろんな考え方があるでしょうが、誰かの犠牲の上に成り立つ仕事は良い仕事ではないと思います。良い環境に人は集まり、良い環境で人は育ちます。

生き残るのは「無くてはならない存在になること」

林田さんは、これからの福祉・介護事業の未来は決して明るくはないと話します。これから事業所の大規模化が進み、小さいところが淘汰されていく厳しい時代に入っていくと予測します。だからこそ「自分ならではの強みを持つこと」が求められると話します。

先が見えない時代にあって介護・福祉の分野はどのような方向を目指すべきなのでしょうか

社会福祉法人恵仁会 特別養護老人ホーム 鹿屋長寿園 施設長 法人統括本部長 林田貴久さん社会福祉法人恵仁会 特別養護老人ホーム 鹿屋長寿園
施設長 法人統括本部長 林田貴久さん

林田: 私のところが目指しているのは「地域にとって、ここがなければ困る」という存在になることです。「ここが無いと、この地域の人たちの安心できる暮らしは成り立たない」というところまでもっていきたいと思っています。

対象はお年寄りだけとは限りません。困っている人、支援を必要としている人すべてが対象です。障がいをもった未就学児をもつ親御さんたちの悩みに応じる相談支援事業にも取り組み始めています。

この世界に身を置く人たちは、人が何に困っていて、何を求めているのかに気づく力とそれを解決するための具体的な事業を展開していく力が求められています。

うちでも、買い物に困っている地域の方々をマイクロバスでホームセンターまで送迎するドライブサロンを行ったり、これまで作りすぎて捨てていた地元の人たちが作った野菜を販売する無人野菜販売所を開くなど、いろいろなことを始めています。

施設の玄関先で毎日、地元野菜の100円市施設の玄関先で毎日、地元野菜の100円市

 

売り上げは、下祓川町いどばた会の活動財源に…売り上げは、下祓川町いどばた会の活動財源に…

地域の元気なお年寄りがシルバーサポーターとして施設の様々なところで大切な仕事を担って活躍しています。

元気高齢者が時給760円の有償ボランティアとして活躍元気高齢者が時給760円の有償ボランティアとして活躍

 

シルバーパワーが貴重な戦力です!シルバーパワーが貴重な戦力です!

人手不足に悩む私たちにとっては貴重な戦力であり、働いてくださる方々にとっては、社会と繋がりながら、ちょっとしたお小遣いをもらえる生きがいづくりの場にもなっているんです。

これからは「ここが無くなったら困るよね。つぶせないよね。」と言われるような価値のある存在になれるかが生き残っていく分かれ道ではないでしょうか。「可能性は無限大。でも何もしなければ消えてしまう。」そんな厳しいサバイバルの時代に入ってきていると思います。

インタビューを終えて

「きれいごとを言わない。」林田さんのお話は、直球で確信をズバリと突いています。「人を大事にしなきゃならない仕事場でそこで働く人が大事にされないってやっぱりおかしいですよね。

これまでずっと変わってこなかった福祉業界のおかしな常識を剥がして、変わっていかなければ先は無いと思いますよ。」厳しい言葉の中に、この業界への愛情と変革へ向けての気概を感じました。

人口減少の時代にあって人手不足があるのは当たり前。「嘆き」から脱却して「選ばれる」業界となるために、プロフェッショナルな自己変革を目指すべき時なのだと思いました。

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