鹿児島県ビジネスプランコンテストの昨年度の受賞者にお話を伺うシリーズ。今回ご紹介するのは優秀賞を受賞した塗装職人の「働き方改革」プラン。
高齢化、人手不足など嘆きの声が多く聞かれる建設業界にあって、「週休2日で年収1000万円を目指せる」新スタイルの塗装職人を育成するという新鮮なものでした。その仕掛人、若手経営者(株)TSグループ・東翔の代表取締役、吉松良平さんにお会いしてきました。
ビジコン受賞は、社会から「私たち」への第三者認証!
「コンテストは、賞金狙いです」と笑った後「正直、大賞を狙ってましたから、優秀賞はちょっと残念でした。」と本音をチラリ。ガチでこのコンテストに挑んでいたことが分かります。それだけ、自らの仕事とこのビジネスプランに自信と誇りを持っていることが伝わってきました。
「よく社員にも行っているんですが、職人は、お客様に満足してもらえる最低限の技術と知識を持っていて当たり前。資格はその証明書みたいなものです。でも、社会に私たちのことをもっと広く知ってもらって「ここは間違いない」と第三者から認証して頂くことがとても大事なんです。それがこのようなコンテスト。
これまでも色々なコンテストにチャレンジしてきました。最初は、パワーポイントなんて全然できませんでしたし、人前でプレゼンするのも苦手、資料を作るのも大変でした。
でも、苦労した分だけ色々なものをもたらしてくれます。実際、この賞を頂いてから、塗装職人という仕事に関心を寄せる若い人が増えましたし、県政のテレビ番組に私たちの会社の取り組みを取り上げてもらったり、こうして今もメディア方の取材を受けている。(笑)
何のリスクも無くて、こんな良いことがあるんですから、チャレンジした方が良いですよね。」
明快なお答えがどんどん返ってきます。
38歳社長が新スタイル職人育成を目指すわけとは…
吉松さんのビジネスプランは「ボッケモン PAINTER(ペインター) 量産計画」です。
高齢化社会×女性活躍推進×地方ビジネス革新×建設業改革といった現代に横たわる社会課題に目を向け、建設業界の「きつい、汚い、危険」の3Kのイメージから脱却し、「かっこいい」「かせげる」「家族にも誇れる」の新しい3Kを備えた新スタイルの職人を生み出していこうというものです。
「これは、私のこれまでの反省から出発しているんです。この業界に入って、20年近くなりますが、子どもが小さい頃は、仕事優先で、子どもの大切な行事にも出られず、家族と過ごす時間もほとんどありませんでした。
お給料は日当制で、天気や季節に左右されます。仕事に誇りは持っていましたが、これって本当に幸せ?って思いますよね。
働き方改革っていうか、私は『ペイント・リノベーション』と呼んでいるんですが、外装塗装に特化した新しい業界を創るような気持ちでいるんです。」
「かっこいい」「かせげる」「家族にも誇れる」
新3Kを叶えるプランとは
吉松さんは、塗装職人の仕事は、ITやAIには決して変わることが出来ない、クリエイティブな仕事だと言います。
仕事の領域も幅広く、橋や船などから新築、リフォーム、公共工事に至るまで多岐に渡っています。このため一人前の職人になるには、5年から7年はかかると言われています。
そこで、吉松さんが打ち出したのが、「民間の外装塗装の塗り替え」に特化した一点集中の職人育成です。戸建住宅のリフォーム業界は、これからビジネスとしての市場拡大が見込める成長分野です。
仕事の領域を、これからビジネスチャンスの大きいリフォーム分野に絞り込み、短期集中で人材育成をしていこうというのです。
働く側には、週休2日の固定給を保障し、訓練施設とITを活用して、これまでの現場で見て学ぶ(見習い)だけでなく雨の日も技術や知識を学べるようにしました。
これによって、最短1年で国家技能士を育成することが出来、これまでの5倍以上の高密度で育成することが可能になるというものです。
そして、その先に「塗職」の統一ブランドでのノレン分けを支援する制度も用意。仕入れや、事務機能など、独立するに当たってのノウハウをシェアすることで、未経験でも最短3年で独立する道が開けるというシステムを創りあげました。
「もちろんやる気があればの話ですが、地方でも塗装職人が年収1000万円稼げるということを証明していきたい。実際、うちからノレン分けした加盟店も稼いでますよ。(笑)
私たちは、営業マンも雇わず、飛び込み営業もせず、直接依頼の直売にこだわっています。「あそこに頼みたい。あそこに頼めば間違いない」というお客さんとの信頼関係で売り上げを伸ばしてきました。だから「塗職」ブランドは信用、信頼が命です。
知識や技術だけでなく、マナーやコミュニケーション能力もしっかり学んでもらいます。
今、都会では職人に憧れる女子が増えてるんですよ。システムや働く環境を整えることで、この世界はもっと夢のある可能性のあるものになると思います。」
吉松さんの会社の平均年齢は31歳、若手が中心です。
転職して塗装職人を目指す女性も入ってくるなど、新しい風が吹き始めました。
「腰を痛めて介護職を辞めたんです。この仕事、かっこいいなぁと思って始めました。腕を上げて、実家の両親の家の外壁の塗装をしてあげたいです!将来は、私も独立してみたい。」
「下請けで仕事をしていた頃より、やることが多いですけど、やりがいがあって稼げますよ!」と笑顔!
ノレン分けして「塗職」の看板を掲げる加盟店も鹿児島市内に4ヶ所となり、熊本にも出来ました。目指すは全国展開。全国に「塗職」の看板を背負った「脱下請け」「直販塗装」を貫き、職人×商いのできる「職商人」の輪を増やしていく計画です。
数値比較で塗職の新スタイル職人の実力を検証してみた!
でも、本当に塗職スタイル職人はベテラン職人と遜色なく力量を発揮できるんでしょうか?
短期集中の人材育成の効果を検証しようと、両者対決の数値比較にもチャレンジしました。名づけて「20年職人VS塗職スタイル育成1年職人」
その結果は…
外装ローラー塗装 | 雨戸ハケ塗装 | ||
20年職人 | 45分 | 20年職人 | 18分 |
塗職1年職人 | 60分 | 塗職1年職人 | 24分 |
ベテラン職人には及ばないものの、1年間で20年のベテラン職人の75%程度まで技術が到達していることを確認しました。
また、お客様評価(感動評価)の比較も実施。ここでは、新スタイル塗職職人ペアが62%の満足度を獲得!ベテラン職人ペアの満足度(19%)を大きく上回りました。
結果だけで一概には評価できないものの、技術の習得と教育訓練の成果を確認することができ、確かな自信となりました。
コンテストにエントリーして見えてきたこと
「私は、コンテストのためにプランを描いたのではなく、これまでやってきたことをプランとして描いた結果、賞を頂けました。
これまでの方向性が間違っていなかったんだと確信できましたし、全国展開を目指す塗職グループにとって、大きな励みになりました。
それに、審査の過程で、市場性や独創性、地域性など様々な視点から客観的に評価して頂けるんで、ビジネスとしての弱点や改善点が見えてきて、プランをより熟成させていくことができました。
私としては何よりも、この仕事にひたむきに頑張っている人たちに『夢のある将来像』を明確に描けたことが大きかったです。」
塗装職人が憧れの仕事となるために…
吉松さんのビジネスプランの原点は「自分が身を置くこの仕事が、みんなが憧れるような仕事となること」あえて「急がず、愚直に、誠実に」をモットーにしています。それは20代前半、若くして独立開業した時の苦い経験が身にしみているからです。
創業時、短期間で売上目標を達成し、店舗を拡大。その結果、仕事の仕上がりの質の低下と客離れを招き、倒産寸前まで追い込まれました。利益優先だけでは、ビジネスは決して成功しないということが骨身にしみての再出発でした。
どん底を味わった経験がビジネスを見つめ直すきっかけになりました。目指すのは、技術もサービスも本物と言われる「塗職軍団」を鹿児島から創りあげ、それを全国に広めていくこと。「戸建住宅塗装」の業界日本一を目指す覚悟です。
「ビジネスコンテストのプレゼンテーションには、作業服で臨みました。私のいつものユニフォーム、仕事着です。インパクトあるでしょ。目立つじゃないですか。(笑)」
そう言って笑う吉松さんからは、職人としてのこの仕事への誇りと気概が伝わってきました。
自分の成し遂げたいビジネスプランを「公に晒し、全力で表現し、評価を受ける」このことがもたらす意味の大きさが少しだけ分かった気がしました。
何度も口にされた「こんなリスクのないチャレンジってないじゃないですか。挑戦する価値ありますよね。」この言葉を、これからビジネスを目指す人たちへのエールとして受け取りました。
みなさんも、心に描いている自分のビジネスへの夢をコンテストの舞台に乗せてみませんか?ご応募お待ちしています。