結婚を機に移り住んだ日置市にほれ込み、観光協会の職員となった古川安代さん。以前は高校の国語の先生でした。人生の様々な経験を経て見えてきた、今やりたいこと。それは、誰もが幸せを感じられる旅を届けることでした。
ひとり旅に心を育まれて
好奇心いっぱいの古川さんは、旅が大好き。独身のころは、毎年夏休みに自分なりにテーマを決めて一人旅を計画。行って、見て、食べて、その土地の人たちの暮らしを感じる旅をするのが、何よりの楽しみでした。
「東北へは、夏のお祭りを見たくて旅しました。盛岡さんさ祭り、青森ねぷた、秋田竿灯、山形花笠、仙台七夕、毎日見てまわりました。あちらは冬が長いぶん、短い夏を精一杯楽しんでるんです。祭りが暮らしに密着してますよね。太鼓や笛のお囃子も素晴らしいんですよ。そこに若い高校生たちがかかわっていて、伝統がつながっていってることにも感動しました。」
北海道では、あえて観光地ではない所をめぐる旅。山口県の萩や鳥取砂丘へは、車で遠乗りしました。
「萩では、立ち寄ったカフェのご主人が地元の歴史を教えてくれて、見た目や暮らしは近代的になっても人の気持ちは変わらないんだよとおっしゃたことが、今も心に残ってます。萩のユースホステルで出会った大阪の女性とは、今でも年賀状のやりとりが続いてるんですよ。」
たくさんの出会いに恵まれた一人旅は、古川さんの心を耕す旅になりました。
育児中に出会った「なんだろう?」が新たな始まり
結婚して仕事を辞め、子育てを始めた古川さん。そうそう遠出はできなくなりましたが、日々の子どもとのお散歩でも持ち前の好奇心を発揮して、小さな旅を楽しんでいました。そのうち、身近な場所にも素敵なところがたくさんあることに気付き、もっと詳しく知りたいと思うようになりました。
「娘とお散歩していたとき一本鳥居というのがあって、なんだろう、どういういわれがあるんだろう、と気になったんですけど説明がなくて…。それがきっかけでした。」
子育てが一段落すると、さっそく日置市の観光ガイド養成講座に通って勉強。ガイドとして活動を始めました。
「受け売りはしたくないので、必ずその場に行って、感じるようにしています。そうすると自分の言葉になるんです。」
2014年には、日置市観光協会の職員として採用され、ツアーの企画や現場での段取りなど、より深く観光に携わるようになりました。
誰もが安心して楽しめる旅を
観光協会の職員になって間もなくのこと。古川さんは、三重県の伊勢志摩でバリアフリー観光を進める活動をしている中村元さんの講演にでかけ、バリアフリーツアーのことを知りました。
「バリアフリーツアーは、誰もが、行きたいと望んだところに行けること。例えば、灯台のような足元の悪いところでも、人の手があればバリアフリーになって、車いすの方でも行ける。段差をなくしたりすることで終わりではないんだというお話でした。人の思いが大切なんだな、と胸が熱くなりました。日置市でも、訪れた方の心が温かくなるようなバリアフリーツアーができたらなと思ったんです。」
昨年の11月には、視覚障がいを持つ方がマリンスポーツを楽しめる「ブラインドマリンツアー」計画。その3か月前から、盲導犬と暮らす視覚障がいをもつランナーを招いて話を聞いたり、古川さんたち迎える側がアイマスクをつけて体験したり、おもてなしする上での注意点の講義を受けたりして準備を重ね、17人を迎えました。
「参加された皆さん、ほんとに前向きで!エネルギーをもらいました。もてなす側の皆さんも、すごく勉強して工夫して下さってって…。まだまだ学ばないといけないことが多いなと思いましたけど、得るものも多くて、何より喜んでいただけてうれしかったです。」
日置市を感幸スポットに
古川さんはその後も、シニア向けのバリアフリーツアーを実施。(よかったら、てのん岡留さんの同行記「バリアフリーの旅」をご覧ください。)誰もが訪れやすい場所が増えれば、そこに暮らす人にとっても優しい町になるとの思いを強くしました。
「バリアフリーツアーの先進地では、一番喜んでいるのは地元の方だと聞きました。日置市が、住む人も訪れる人もみんなが幸せになる〝感幸〟スポットになったらいいなあと思います。」
誰もが安心して楽しめる旅を日置市から。旅を愛する古川さんだからこそ見えてきた、垣根のない旅のかたちが、大きく広がっていきますように。