ちょっと強面(こわもて)のこの方が、今日の主人公、新名正興さん、75歳です。

もう後期高齢者と言われる年齢なんですが…

新名さんの生き生き活動の場となっているのが、ここ鹿児島市にあるデイサービスおたふく郡元。
介護認定を受けた高齢者の方々が通いながら一日を過ごす集いの場所です。

新名さんはここで、週3回ボランティアをしているんです。

デイサービスは朝10時からですが、何と7時過ぎにはここに来ているそう。
「7時に来てるんですか?」職員さんもビックリ!外回りのお掃除をして、皆が来るのを待つんだそうです。

「早く目が覚めるからねぇ。家から歩いて5分くらい。近いですからねぇ。
やっぱりきれいにすっきりして皆さんをお迎えしないと」
ボランティアをするようになったきっかけは2年7ケ月前に亡くなった妻の節子さん。
節子さんは、ここのデイサービスの利用者でした。
糖尿病や肝臓病で長い闘病生活でしたが、ここに来る時にはとても嬉しそうで、楽しみに通っていたそうです。
奥さんが亡くなり一人暮らしになった新名さん。生きがい探しのためにグランドゴルフやゲートボールをやってみようかと…あれこれ考えたそうですが、何だか性に合わず楽しいという実感が得られませんでした。悶々としていた頃、娘さんが「お父さん、おたふくの手伝いをしてみたら?」と勧めてくれたのです。
ボランティア?これまで考えてもみなかった事でした。
「ご恩返しのつもりで、やってみるか。1ヶ月くらいは続くかな?」と思って始めたそうです。
すると、このボランティアにすっかりハマって新名さんが俄然、輝きだしたのです。


高齢者同士、心を通わせる自然なやり取りが交わされています。

この2年半で休んだのは、風邪をひいた時の一日だけ。みんなを楽しませようと色んなアイディアも提案してきました。川柳もその一つ。

「川柳をしたらと楽しいんじゃないかなぁと思ったの。何かみんなの思いを形に残せたら良いなぁと思って…私もしたこと無かったんですよ。」

これがきっかけとなって地元新聞に掲載される人も出てきました。
笑うこと 勇気福来る 元気来る (利用者の堀口良子さん作)
無造作に 吐いた言葉の 後を追う (新名さん作)
そればかりではありません。健康、食事、運動など、みなさんの役にたちそうな記事を集めて、それをコピーしてもらって配ってもらっています。

日々のニュースにも目を光らせ、情報収集にも余念がありません。


新名さんの熱意に職員さんも脱帽です。

「いや~もう新名さん、ボランティアの域を超えちゃって、おたふくの貴重な戦力です。おたふく愛、利用者愛が半端なくスゴイんです。」
「主役は、私じゃなくてこの人達よ!」とみなさんが描いた絵を次々と紹介する新名さん。


作品をもっと表舞台に出そうよ!と鹿児島市の長才(おせ)まつりへの出品も呼びかけました。
その見学会では、まるで添乗員さんのような奮闘ぶりです!

「ボランティアって言葉は何となく上から目線で、あまり好きじゃないのよ。
『みなさんのお手伝い』これが一番ぴったりくる。私はみなさんの弟分と思っているから。」
孫ほど年が離れた職員さんは…


「実はけむたいと思うこともあるんじゃないの?」と笑う新名さん!

そんなことありません!新名さんは「おたふく」の看板です!

利用者さんに「新名さん、ちょっと怖いですか?」と冗談交じりに聞いてみると…


すぐに、口をついて出てきたこの言葉は、心からの本音の声でした。
新名さんの本気のやる気を応援し、戦力として迎え入れている事業所とボランティアに手ごたえを感じている新名さんが二人三脚となってとても良い雰囲気なのです。


新名さんはこう話します
「おたふくに来て、新しい生きがいを教えてもらった。だからほんとに感謝している。きっとここに来てなかったら、今頃、こんな元気じゃないよ。元気であればあと5年、80歳まではやりますよ!」

人に喜ばれ、自分を頼りにして待っていてくれる人がいるという手ごたえが新名さんの元気の素になっていることを感じます。

人手不足と言われる介護現場に、こんな風に多様な人の力が生かされ、垣根のない人と人との支え合いが生まれたら素敵だなぁと思いました。

「ボランティアを始めた頃、ここに来ていた94歳のお祖母ちゃんが『奥さんは、本当に大変でしたね。』と話しかけてくれたのよ。見ていてくれてたんだよね。その言葉を聞いた時、これは本気でやらんといかん!と決めたのよ。」
新名さんの心を動かしたひとこと。奥様の長い間の闘病と介護を労う言葉でした。
それが活動の原点だったんですね。

